ヴォルカスの新作
今回から新章開始です。とは言え物語はほとんど動きませんが。その代わり新しい武器が登場しますが、とうとう禁断の果実(少し言い過ぎですが)に手を出してしまいました。それがなんであるかは読んでからのお楽しみと言うことで、よろしければお楽しみください。
一行が深淵から帰還した日から四日が過ぎていた。
人鬼の里で宴会が行われた翌日、一行は救出された人々をオーデンセの街まで送り届けるために出発した。
途中何度か魔物の群れに襲われることもあったが、それらの魔物はすべて在来の魔物であって、偉大なるネズミの王やコボルトの王配下の武装したものたちではなかった。
三百人もの人々の旅の糧食は、人鬼たちが気前良く無償で譲ってくれた。
人鬼たちは皆大食漢であり、食糧を常に大量に貯蔵していることに加えて、狩猟も得意な彼らにとっては、大した負担ではないとのことであった。
とは言え、本当に無償では申し訳ないとオーデンセの人々が口々に言い、街に無事帰り着いた暁には、街でしか手に入らない珍しい酒や珍味を大量に送り届けることを約束した。
ところで彼らは、自分たちが地下世界に連れ去られていたとは認識していなかった。
彼らは街で麻袋に入れて攫われ、気が付けば薄暗い城内の牢屋の中で縄に縛られていた。
助け出された後も城を出て、すぐにディオゲネスの時空の扉で人鬼の里に転移させられたので、あの城は地上のどこかにあったのだと思っていた。
地上に生活するほとんどの人間は地下世界の存在さえ知らないのだから、考えてみればそれは当然のことであった。
そこで一行も、おもにディオゲネスの創作によって、あれはコーサラ砂漠のさらに南の森林地帯でのことであったと説明した。
またしても、魔王復活の兆しの秘密は、なんとか守られたのであった。
そうして人鬼の里を出発して三日目の正午過ぎに、一行はオーデンセの街に到着した。
オーデンセの街はギルドと教会の働きによって、早くも復興しつつあった。
そして、魔物に攫われた人々を全員無事に助け出してきたグィードたち一行は、英雄として街に迎え入れられた。
街に到着した一行は、まずはギルドに向かい、ギルド支部長のハンネスにことの次第を報告した。
グィードは、ハンネスにはすべての事情を隠さずに説明することにした。
それは一行が、ハンネスは信頼できる人物であると判断したためであった。
また、できればこの話はギルド本部には報告しないで欲しいが、その判断はハンネスに任せるとも伝えた。
ハンネスは、世界中で恐慌が起こることを回避したいという一行の考えに理解を示し、本部には報告しないことを改めて誓った。
そして、この地域で自分に力になれることがあれば、なんでも言って欲しいと、一行への協力を申し出た。
そこで一行は、まずはギルドの建物の一室に時空の扉を設置させて欲しいと希望して、それを快諾された。
一行が使用を許可されたのは、日頃ほとんど使われることのない地下の倉庫区画の一室であった。
またハンネスは、今回の拉致事件解決の報酬として金貨五百枚を支払うと申し出た。
アルフォンスたちは死の天使捜索依頼の前金として、ギルド本部から金貨二千枚という莫大な報酬を受け取っていたので路銀にはかなりの余裕があったが、当然その全額を常に持ち歩いている訳ではなかった。
そこでアルフォンスは、自分の働きに対して正当な報酬を受け取ることもまた冒険者の矜持であることを、ヒューゴやレーナに学ばせようという意図もあり、その報酬を感謝して受け取ることにした。
またアルフォンスには、その報酬の使い道として一つのアイデアがあった。
一行は、ハンネスに改めて礼を述べてギルドを後にした。
それから一行は、もはやオーデンセでは馴染みの宿屋とも言える炎の蛙で、少し遅めの昼食を取った。
そこで話題となったのはムスターファの今後のことであった。
普通に考えれば、ムスターファはコーサラ砂漠のガイドとして一行に同行したのだから、相応の報酬を受け取ってコーサラに帰るのが自然である。
またムスターファは、コーサラ砂漠の危機を救うのが自分使命だと自覚しているはずであった。
だが話していくうちに、今回の魔王復活の兆しこそが、コーサラ砂漠を含むこの大陸、引いてはこの世界全体の危機であり、この危機にグィードたちと共に立ち向かうことこそ、自らの使命だと認識が変わったことがムスターファの口から打ち明けられた。
そしてムスターファが、その考えを自称砂漠の守護神こと精霊グレモリーに告げたところ、「私のムスターファがそう思うなら、きっとそれが真実よ」という、ディオゲネスに言わせれば思考停止した答えが返ってきたらしい。
そういう訳で、グィードたち自称偉大な英雄のパーティーに、心強い仲間がまた一人、正式に加わることになったのであった。
昼食後、一行はヴォルカスの店、ドワーフの武器屋ハイホーに向かった。
ヴォルカスは待ちかねていたように、一行を迎えた。
「おお、やっと来おったか。待っておったぞ」
ヴォルカスは、この短期間のうちに一行のために三種の武器を創作していた。
ヴォルカスの手で最初にカウンターに置かれたのはアルフォンス専用の大剣であった。
その大剣は、稀少金属であるアダマンタイトをドワーフにのみ伝わる秘法で圧縮し、硬度と比重を増したアダマンチウムを素材としていた。
ヴォルカスは、その大剣を偉大なる破壊者と名付けた。
また、偉大なる破壊者にはある仕掛けが施されていた。
その仕掛けとは、じつは偉大なる破壊者の剣身は、等間隔に十二分割される部位からなっており、その各部位が特殊合金の鋼糸によって結び合わされているのである。
そして、その剣身は柄部分を操作することによって任意に分解され、言わば数珠繋ぎの鞭のような形状に変形するのである。
そのような特殊な機構を持つ剣は、この世界では連節剣、あるいは多節剣と呼ばれ、歴史上僅かながら、その使用が確認されている。
その存在が稀少である理由は、なんと言ってもその扱いの難しさにある。
つまりヴォルカスは、アルフォンスであればそれを見事に使いこなすであろうと期待していたのである。
続いてカウンターに置かれたのは、アーシェラ専用の細身の剣であった。
細身の剣の素材はミスリルであり、ヴォルカスはそれを脆刃の剣と名付けた。
なんとヴォルカスは、脆刃の剣もまた連節剣として創作していた。
しかも、その剣身は十八分割にも別れている。
通常であれば、その扱いは困難を極めるが、精霊の支配者であるアーシェラにとっては、ミスリルの精霊を召喚することで自由自在に操ることができるだろうということであった。
最後の武器はレーナ専用の新たな籠手であった。
その形状はナイン・インチ・ネイルズに酷似していたが、その先端には角状の杭の代わりに細身の剣の先端部にも似た刃が付いていた。
つまり、これまでの刺突に加えて、斬撃という新たな攻撃属性も備えた武器になっているのだ。
ヴォルカスはその籠手を駆逐者の爪と名付けた。
こうしてアルフォンスとアーシェラとレーナの三人は新たな武器を得た。
そしてアルフォンスは、先ほどギルドで受け取った金貨五百枚をそのまま、ヴォルカスへの代金として支払った。
しかしそれは、ヴォルカスの店の一年間の売上にも匹敵する金額であった。
「こいつは、いくらなんでも貰い過ぎと言うもんじゃ」
ヴォルカスはそう言って受け取りを辞そうとしたが、ディオゲネスはそれに答えてこう言った。
「いいえ、巨匠。もし王都にあなたほどの腕の職人がいれば、それは一か月で稼ぎ出す金額です。それに、たとえ実際に王都へ行ったとしても、これほどの業物を見つけることはできないでしょう。ですから本当は、それでも足りないくらいなのです」
ディオゲネスの断固とした口調に気圧されたように、ヴォルカスは一瞬黙したが、すぐに相好を崩してこう言った。
「ではこれは次回の分も含めて、ということで感謝して受けるとしよう。どうやら仲間が増えているようじゃからな」
そもそもドワーフは、金銭には淡泊な性質を持っている。
ドワーフたちは宝石を好むが、それは金銭に換算して価値が高いからではなく、その色や輝きそのものに価値を見出しているのだ。
またドワーフたちは創作自体を楽しんでいるので、報酬にはこだわらずに、いつでも最高の仕事をこなす。
そして、最低限度の生活費と酒代があれば、それで満足という者たちが多いのだ。
なんと自由な、誇り高い種族であろうかとアルフォンスは思う。
アルフォンスは人狼ではあるが、長く人間社会に溶け込んでいる一族の出であるから、様々な価値観が人間とほとんど変わりなくなってきている。
アルフォンスは、久しぶりに家族のことを思い出していた。
今も王都で宮仕えをしている父親や兄弟たちのことを。
禁断の果実とは、連接剣、通称ガリアンソードのことでした。ガリアンソードにはロマンがありますよね。荒唐無稽さこそがファンタジーの魅力の一つだと思っています。その荒唐無稽とリアリティの狭間で頑張りたいと願っていますが、どうしても荒唐無稽に偏りがちですね。ロマンチストなもので、すみません。




