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地下世界へ

 ウァサゴとグレモリーの不毛な言い争いを他所(よそ)に、一行は迷宮の探索を続けていた。

 一行が最初に進んだ道の先には魔物たちの修練場と思われる広い空洞が存在していたが、それで行き止まりであった。

 一行が引き返して来る頃にはウァサゴとグレモリーの言い争いも終わったようで、彼らも人の姿のままで一行の最後列に加わった。

 「ところで、さっきグレモリーは加護がどうとかって言ってたけど、それって聖霊の加護みたいなもの?」

 探索を続けながらヒューゴがグレモリーに尋ねた。

 グレモリーは一瞬、そんなことも知らないのかという驚きの表情をしたが、すぐに出来の悪い生徒を諭す教師のように、ゆっくりと語り始めた。

 「まあそうね。加護というのは高位の霊的存在との契約によって人間にもたらされる特別な助けや祝福のことで、その本来の意味は多岐に渡るでしょうけど、一般的には高位存在と冒険者が個人的な契約によって与えられる身体能力(フィジカル)の向上や特別な才能(タレント)を指しているわね」

 「そうなんだ。それじゃあ俺にもウァサゴの加護が、もう与えられてるってわけ?」

 ヒューゴが今度はウァサゴに尋ねた。

 ウァサゴがヒューゴを見つめ、胸を張って答える。

 「もちろんです、ヒューゴ。あなたには私のとっておきの加護が与えられています。言ってしまえばそれは、偉大な英雄への運命のようなものです」

 それを聞いてヒューゴは少し考え込むような顔をした。

 「なんだか抽象的だなぁ。まあとにかく、俺との契約を果たすために頑張ってくれよ」

 そう言って、ヒューゴは納得したようだった。

 「はい。お任せを」

 ウァサゴは恭しく答える。

 「じゃあムスターファには、どんな加護が与えらえているの?」

 ヒューゴにそう尋ねられ、ムスターファはニヤリと笑ってから答えた。

 「そうだな、それはそのうちわかる。おまえたちの今回の敵が、強大な敵だというなら必ずな」

 そう言って、ムスターファは再び笑う。

 太い微笑みとでも言おうか、ムスターファの笑みには見る者を安心させる効力があるようであった。

 しばらく迷宮を探索してわかったことは、この迷宮はあのコボルトの廃坑に似た構造に改造されているということであった。

 そして案の定、一行は地下へと螺旋状に続く長い通路を発見した。

 その地下道があまりにも長いために、一行は途中で食事のための休憩を取ることにした。

 突然ウァサゴが張り切り、どこからともなく様々な料理を取り出したのをムスターファとグレモリーは呆気に取られたように眺めていたが、一行が当たり前のことのように(くつろ)いで食事を始めたので、ムスターファはそれに(なら)った。

 「このまま進めば、今晩中に街まで帰るのは難しいだろう」

 食事をしながらムスターファが一行に言った。

 「そうだなぁ。だがここで引き返しては、結局進展がない。もう少し進んで変化がなければ、今晩はそこで野営をするしかなさそうだな」

 グィードがそう答えた。

 ベテランの冒険者ともなると、迷宮内で野営をすることも珍しくはない。

 一行のうちヒューゴとレーナとスオウには、その経験がなかったが、その意見に反対はしなかった。

 しかし食事を終えて、さらに一時間ほど進むと、地下道に変化が現れだした。

 これまでの下り道が緩やかな登り道に変わり、進行方向から光が見えて来たのだ。

 一行がさらに進むと、そこには一つの世界と言えるほどの広大な景色が広がっていた。

 「グレモリー、俺は夢を見ているのか?」

 ムスターファが興奮を隠せない様子で尋ねた。

 「いいえ、これは現実よ。まさかコーサラ砂漠の遺跡から、こんなところに繋がっているとは私も知らなかったけど」

 いつの間にか、とんでもない冒険に巻き込まれていることに、ムスターファはやっと気付いたが、悪い気はしなかった。

 恐れや不安はない。

 むしろ、これからどんなことが起こるのかという期待を感じていた。

 ムスターファもまた、真の冒険者であったのだ。

 一行はまず、周囲を見回した。

 一行が通って来たのは、その世界にある一つの洞窟であった。

 そしてその周囲には、幾つもの洞窟の入口が散在していた。

 あるいは、そのうちの一つはあのコボルトの廃坑に繋がっているのかもしれないと、グィードは想像した。

 地上では、すでに夜になっているはずであったが、その世界は明るかった。

 太陽のような心地よい光ではなく、どこか人工的で薄暗い、薄気味の悪い明るさであった。

 この世界には昼も夜もないのかも知れないと、グィードは思った。

 グィードが上空を眺めると、そこには()()()()()()()があった。

 そこには、太陽も月も、その他の一切の天体も存在しなかったが、グィードがそこに存在しているはずであると想像した、洞窟の天井のようなものはなく、限りなく()()()()()()()が広がっていた。

 「まさかな、本当に地下世界なんてところに、やって来ることになるとは」

 そう呟いたのはアルフォンスであった。

 「あそこの森の奥に見えるのは、城ではありませんか」

 ディオゲネスが言った。

 一行の視線の遥か先には一つの森があり、その奥には確かに古い城のような影が微かに見えた。

 「他に建物のようなものは見えないし、手掛かりもないからな。まずはあの城を目指すしかなさそうだ」

 グィードがそう言って歩きだそうとした時、森の方から鳥の群れのようなものが近付いてくるのが見えた。

 鳥の姿はみるみる大きくなり、その姿がはっきりと見えた。

 「鳥女(ハルピュイア)だ!」

 グィードが叫びながら剣を抜く。

 一同も臨戦態勢に入る。

 それは百体近い鳥女(ハルピュイア)の群れであった。

 鋭い爪を持ち、上空から急降下して襲い掛かっては、また急上昇をして逃れる鳥女(ハルピュイア)は、白兵戦を専門とする冒険者に取っては戦い難い相手であった。

 どうしても受け身にならざるを得ないのだ。

 しかも数で圧倒的に上回る鳥女(ハルピュイア)たちは、冒険者たち一人に対して三体から五体で取り囲み同時に攻撃を仕掛ける。

 「ここは私たちの出番ですね」

 ディオゲネスはそう言うと、両手を上空に掲げた。

 「光よ、我が敵を貫け!ライトニング・アロー!!」

 数十本の光の矢が、すべて鳥女(ハルピュイア)の急所を貫いた。

 キュイィィィィィィィン!

 多くのものは断末魔の叫びを上げて、地に落ちるよりも前に、瘴気を拡散させて消滅してた。

 アーシェラもまた、上空に向けて両手を掲げる。

 「風精火炎放射(シルフィーフレイム)!!」

 三組の風精霊(シルフ)火蜥蜴(サラマンダー)のペアが鳥女(ハルピュイア)の群れを取り囲み、業火で焼き尽くす。

 辛うじて生き残ったものたちも、炎に巻かれて次々に墜落する。

 墜落した鳥女ハルピュイアたちに剣士たちが止めを刺す。

 こうして地下世界での最初の戦闘が終わった。

 「さあ、ではまずはあの森を目指そう」

 グィードは剣を鞘に収めながら言った。

 呼吸ひとつ乱している者はいなかった。

 このパーティーと一緒なら、たとえ地獄(ハデス)の底からでも生還できるだろうとヒューゴは思った。

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