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魔城転移

しばらく漢字四文字のサブタイトルが続いていますが、深い意味はありません。早く物語を進めたいと思いながらも、なかなか進みません。物語開始からの時間経過としても6日しか経っていません。まだまだ長い物語になりそうですが、どうぞお付き合いください。よろしくお願いします。

 三体のグレーターデーモンを撃破した一行は、果たして次には何が起こるのだろうかと臨戦態勢のまま、その場に留まっていた。

 するとそこへ、聞きなれた拍手の音が聞こえて来た。

 パチパチ、パチパチ、パチパチ。

 「流石は我が婿どのと孫と、そのご一行です」

 一行が声の方を振り返ると、そこには人間の姿をしたウァサゴが立っていた。

 その顔には満足そうな笑顔を浮かべている。

 「おまえはいったい今まで、どこをほっつき歩いていたんだ?」

 グィードが訪ねる。

 「ちょっとその辺を散歩していただけなんですが、どうやらここには、この部屋以外、もう他に何もないようですよ。そろそろ帰りませんか?」

 「なんだって?」

 ヒューゴが驚いたように尋ねる。

 「じゃあ、偉大なるネズミの王(グレイトキングラット)はどうなったの?」

 レーナも疑問を口にする。

 「さあ、もともとここにはいなかったのかも知れませんよ。テレパシーによる声を聞いただけで、誰も姿を見ていませんし」

 ウァサゴは愉快そうに答える。

 こいつは何かを知っているなとグィードは思ったが、ウァサゴに答える気がなければ無理に聞き出す必要もない。

 「そうかも知れねぇな」

 一行はグィードの顔を見つめる。

 「では、こんなところに長居は無用ですね」とディオゲネス。

 「ええ、私もできれば、早く湯あみをしたいわね」とアーシェラが同意する。

 「ところで、拉致事件についてはギルドになんと報告すればいいんだ?」

 アルフォンスが誰にともなく尋ねた。

 「万魔殿パンデモニウムのことも、そのままギルドに報告するわけにもいかないと思いますよ」

 ディオゲネスが答えた。

 うーんと、アルフォンスが頭を抱えた。

 結局なにも解決していないのだ。

 「とにかく俺たちは生き残った。今はそれだけでいいんじゃないか?」

 グィードが自慢の美髯を撫でながら、そう言った。

 「そうだね、とりあえずスオウも待っているから、早くここを出よう」

 ヒューゴが笑顔で同意した。


 一行が万魔殿パンデモニウムを出ると、スオウが魔法陣の真ん中で昼寝をしていた。

 「スオウ、お待たせ!」

 ヒューゴが声を掛けるとスオウはむくりと起き上がり、思い切り伸びをした。

 「ずいぶんたくさん、魔物が襲って来たみたいだけど?大丈夫だった?」

 ヒューゴが辺りに散乱する大量の魔物の装備を眺めながら訪ねた。

 「ああ、なにも問題はない。大丈夫だ」

 スオウは誇らしげに笑った。

 「結局、時空の扉(ザ・ドアーズ)は必要ありませんでした。無駄にお手間をお掛けして、申し訳ありませんでした」

 ディオゲネスが謝罪を口にした。

 「いや、問題ない。俺は俺で楽しませてもらった」

 スオウは相変わらず笑って答える。

 スオウは想像していた。

 自分のところにあれだけの魔物がやって来たのだから、城内ではもっと多くの魔物に襲われたに違いない。

 そこから逃げ出さずに、ヒューゴたちは生き残って帰って来たのだ。

 仲間になるなら、弱い者よりも強い者の方が良いに決まっている。

 スオウは、いつのまにかヒューゴたちを仲間と見做している自分に、まだ気づいていなかった。

 「さあ、とりあえず里に帰るとするか」

 グィードはそう口にした瞬間、自分の背後に巨大な魔力が発動する気配を感じた。

 続いて、何か巨大な物体が動く音が耳に入る。

 ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!

 グィードは振り返った。

 一行もグィードの視線の先を見た。

 そこには、空中に浮かぶ万魔殿パンデモニウムと、その黒い巨大な影が地面に映っていた。

 「移動要塞、万魔殿パンデモニウム

 ディオゲネスの口から、その言葉だけが漏れた。

 一行が呆然とそれを眺めていると、万魔殿パンデモニウムが周囲を包む瘴気の結界と共に一瞬揺らぎ、そのまま空気に溶けるように完全に消え去った。

 「万魔殿パンデモニウムが、どこかに消えてしまったな」

 アルフォンスが言った。

 「これでとりあえず、この地域の誘拐事件は収まるのかな?」

 ヒューゴが、ふと疑問を口にした。

 「それはなんとも言えませんね」

 ディオゲネスがヒューゴに答えた。

 「とにかく一度、里に帰ろう」

 グィードが一行を促すように言った。

 一行は人鬼の里に向って出発した。

 里までの帰り道で、ディオゲネスがレーナに話しかけた。

 「それにしても、レーナはいつの間に、あんな高度な神聖魔法(ホーリーマジック)を使えるようになったんです?」

 「それが私にも、よくわからないの」

 レーナが言うには、三体のグレーターデーモンが現れた時、彼女には一行が絶望していることが解ったらしい。

 そこでレーナは自分にできる唯一のことをしようと思い、創造主(ル・カイン)と聖霊に祈りを捧げたのだ。

 するとレーナは自分の身体が温かいものに包まれるの感じ、気が付くと天路歴程ノッキン・オン・ヘブンズ・ドアを詠唱していたのだという。

 そして、もう一度同じことをしろと言われても、多分できないであろうとも付け加えた。

 「とにかく、私たちはレーナのおかげで助かったと言っても過言ではありません。レーナ、ありがとうございました」

 ディオゲネスはそう言って、レーナに頭を下げた。

 「そんな」

 レーナは心苦しそうに答えた。

 「それに、その後のレーナとヒューゴの活躍も目覚ましかったぞ。俺は2人の連携攻撃を恋人たちの二重奏(ブライトン・ロック)と呼ぶことにした」

 グィードが心から嬉しそうに口にした。

 「恋人たちの二重奏(ブライトン・ロック)ですか、いいですね」

 ディオゲネスが同意した。

 それを聞いたウァサゴがニヤリとして言った。

 「思春期ですねぇ」

 ヒューゴとレーナは、いつものように耳まで赤くなって俯いたが、否定はしなかった。

 ヒューゴとレーナの連携技能(スキル)恋人たちの二重奏(ブライトン・ロック)の命名の瞬間である。

 それから一同は、レーナの心臓を(シアー・ハート)一突き(・アタック)を初め、前日グレンナ山脈に入って以降に発動した新しい戦闘技能(スキル)に、改めて命名し、整理した。

 そういう地味な作業こそが、パーティー全体の強化には欠かせないことであることにディオゲネスが熱弁を振るい、グィードもそれに賛同した。

 ヒューゴは、王殺し(バルムンク)という命名を特に気に入ったようであった。 

 アルフォンスは、尊敬するグィードとの連携技能(スキル)人狼のための狂詩曲ヴェアヴォルフ・ラプソディーの命名に感動さえ覚えたようであった。

 アーシェラは、その様子を眺めながら呆れるような、しかし慈しむようでもある微笑みを湛えていた。

 そうして帰り道には何事もなく、一行は夕刻には人鬼の里にたどり着いた。

 一行の帰還に、いち早く気付いたのは、やはりサンゴであった。

 「お兄ちゃんお帰り。お兄ちゃんたちが帰って来たって、お父ちゃんに伝えて来る」

 サンゴはそれだけ言って、母屋の方へ走って行った。

 一行が母屋の玄関にたどり着くと、グレンとクレナイが出迎えた。

 「で、どうだった?」

 グレンがスオウに尋ねた。

 「ん、ああ、万魔殿パンデモニウムというでっかい城があったぞ」

 それを聞いて、グレンとクレナイが目を剥いた。

 「なんだって?万魔殿パンデモニウムだって?」

 叫んだのはクレナイであった。

 その反応を見てグィードは、クレナイたちには、まだ事情を詳しく説明していなかったことを思い出した。

 「詳しい話は、メシでも食いながらしたいんだが」

 グィードが悪びれずに言った。

 グレンとクレナイは顔を見合わせたが、それに同意して一行は再び、あの大広間へと案内された。

 夕食の準備はハイザクラとサクラによって、すでに整えられていたようでウァサゴが残念そうにしていた。

 今回はグィードが話し手となり、これまでの経緯を説明した。

 事情を聞いたグレンとクレナイは、そんなことなら自分たちも着いて行きたかったと嘆いたが、それほど執着した様子はなかった。

 そして、魔王(アルヴァーン)の復活については、スオウ同様、やはり危機感は感じさせなかった。

 「そうか、魔王(アルヴァーン)が復活するか、では明日からは鍛錬の内容を考え直さなければなぁ」

 クレナイが嬉しそうに言った。

 グレンはひたすら「そうか、魔王(アルヴァーン)か」と言って大笑いをしていた。

 グレンは黙っていれば渋い男前なのに、グィードはそう思い苦笑いをする。

 ハイザクラとサクラは、なにも口にしなかったが恐れているような雰囲気は微塵もなかった。

 サンゴだけは、魔王(アルヴァーン)の名前さえ知らなったようで、

 「魔王(アルヴァーン)って、お父ちゃんよりも強いの?」

 などと無邪気にグレンに質問した。

 するとグレンは相変わらず大口を開けて笑いながら答えた。

 「サンゴ、お父ちゃんは世界で一番強いんだよ。ガッハッハッハ!」

 その様子を見てグィードは、グレンが深刻になることなど、恐らく永遠にないのだろうと思った。

 そして、その話題が一段落するとクレナイがスオウに改めて尋ねた。

 「スオウ、昨夜の話だが、どうしたいかは決まったか?」

 スオウは呆然とした表情で答えた。

 「昨夜の話?」

 「おまえがグィードたちと一緒に旅をして、冒険者の連携を学ぶということさ」

 「ああ、確かにそんなことを言っていたなぁ。だが、俺にはよくわからん」

 スオウが直ぐに答えた。

 「そうか」

 クレナイが残念そうに答えると、スオウが言葉を続けた。

 「でも、グィードたちと一緒に旅をするというのは悪くない。面白そうだ」

 それを聞いてクレナイの顔が輝いた。

 「そうか、面白そうか。では行って来い!行って、強くなって戻って来い!」

 クレナイが、愉快そうに言った。

 「わかった!行って来るぞ!」

 そう答えるスオウの顔も輝いていた。

 他の人鬼たちは、もう何も言わなかった。

 クレナイの考えを理解していたのだ。

 サンゴだけが、少し寂しそうに言った。

 「お兄ちゃん、遠くに行っちゃうの?」

 「ああ、そうだな。遠くに行って、いっぱい面白いもんを見て、帰ってきたらサンゴに話してやるよ」

 スオウがそう答えた。

 「そっか。それじゃあ、お兄ちゃん気を付けて行って来てね!」

 サンゴが笑顔でそう言った。

 「おう!気を付けて行って来るぞ!」

 スオウが無邪気に笑って、そう答えた。

 それから一行は、フダラク風の料理と酒を心ゆくまで堪能し、アーシェラの願い通り湯あみをしてから床に就いた。

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