魔闘終焉
血湧き肉躍る戦闘シーンになっていることを願いつつ、私自身が楽しんで書けました。ご一緒にお楽しみ頂けましたら幸いです。
「人間どもよ。さらなる恐怖を与えてやろう」
頭の中に直接響く偉大なるネズミの王の声に、グィードたち一行が凍り付いた次の瞬間、突然、一行の足元に赤い光によって描かれた巨大な魔法陣が出現した。
「みんな下がれ!」
アルフォンスが叫んだ。
一行は、一斉に魔法陣から飛び退く。
それは召喚魔法であった。
やがて魔法陣の中心に、三体の巨大な影が現れた。
闇色の皮膚と巨大な翼を持つ巨人、獣のように醜く歪んだ顔、その額からは、やはり闇色の捻じ曲がった角が二本、長く伸びていた。
「グレーターデーモン!」
グィードが、その禍々しい魔物の名前を断定した。
グレーターデーモンとは、その名の通り上位の悪魔種であるが、その一体の戦闘能力はゴブリン千体をも上回ると言われている。
すなわち、上位の冒険者パーティーであっても、一体のグレーターデーモンによって全滅させられてしまうことも、稀ではないのだ。
冒険者ギルドは、その危険度を災害級に分類している。
そのグレーターデーモンが三体も現れたのだ。
グィードの計算では、現在のパーティーのコンディションが最高潮であったとしても、生き残るのがやっとというレベルであった。
「まずいな」
グィードはその言葉を、飲み込むことができなかった。
その時、グィードの目に、ヒューゴの傍らに片膝をついて、祈りを奉げるレーナの姿が目に入った。
「創造主よ。力なき我らを憐れみたまえ。聖霊よ、汝の忠実なるしもべらに、悪しきものを退ける力を与えたまえ」
そして、祈るレーナに向って、ヒューゴの身体から光のようなものが流れ込むのを、グィードは目撃した。
グィードだけでなく、アルフォンスもディオゲネスもアーシェラも、皆その様子を見守っていた。
「聖霊よ。我らを癒したまえ!天路歴程!」
それは、高位の司祭だけが使うことができる、回復系最上位の神聖魔法であった。
詠唱を終えたレーナの身体から翼を広げた天使の幻影が立ち昇り、その幻影から一行一人ひとりの上に、光の雨が降り注ぐ。
一同は、身体の傷が癒されるだけではなく、精神力、魔力に至るまでが、完全に満たされるのを感じた。
ヒューゴは数秒、驚きの表情でレーナを見つめていたが、自分の身になにが起こったのかを理解すると、改めて長剣を構えなおして、一同に向って叫んだ。
「俺たちは絶対に負けない!偉大な英雄のパーティーには、いつだって奇跡が起こるんだ!」
言い終えると同時に、ヒューゴは走り出していた。
そして跳躍し、最も手前にいた魔物の群れの生き残りであるトロール兵士に、正面から斬り掛かった。
「くらえぇぇぇ!」
その斬撃には凄まじい闘気が込められており、あたかもグィードの死神の大鎌のように、剣身が巨大化しているように一同には見えた。
トロールは盾を構えて、その斬撃を受け止めようとしたが、ヒューゴの剣はその盾ごとトロールを真っ二つに斬り裂いた。
後にグィードは、その技を王殺しと名付けた。
そのヒューゴの一撃によって、一行は戦意を完全に取り戻した。
「死神の大鎌・狂詩曲!!!」
グィードは双剣で、生き残りの邪妖精たちを、次々に雲散霧消させた。
「餓狼剣疾風乱舞!!!」
アルフォンスは再び獣人化して、音速の剣を振るった。
ヒューゴが剣を振るうたびに、王殺しが発動し、群れの最後の生き残りである巨大ネズミを両断した時、ヒューゴはその状態を意のままに発動することができるようになっていた。
ヒューゴの新技能、王殺しが完成した瞬間であった。
グレーターデーモンはそれぞれ、レーナとアーシェラとディオゲネスに、すでに襲い掛かっていた。
ディオゲネスは、グレーターデーモンの鋭い爪を躱しながら、改めて夢見る兵士をパーティー全体に施した。
弱まりつつあった一同の全身を包む青白い光が、輝きを取り戻した。
レーナもまた、グレーターデーモンの攻撃を紙一重で躱しながら籠手による攻撃を繰り返していた。
アーシェラはひとまず、三体の風精霊によってグレーターデーモンの攻撃を捌くことに専念していた。
グィードは、現在のグレーターデーモンたちの攻撃が、ほんの小手調べに過ぎないことを理解していた。
グレーターデーモンの本領は、物理攻撃にあるのではなく、強大な魔力による魔法攻撃にあることを知っていたからである。
一体のグレーターデーモンがレーナに攻撃を繰り返しながら、人間には理解することのできない言語で詠唱を開始した。
それを察したグィードがディオゲネスに叫ぶ。
「耐魔法結界を頼む!」
「承知しました!」
ディオゲネスには、当然、継続的な結界を展開することもできたが、魔力効率と耐性効率を最大限引き出すために、敵の魔法発動にタイミングを合わせることを選択した。
詠唱を終えたグレーターデーモンの頭上に巨大な火球が出現し、そこから人間の頭の大きさほどの溶岩弾が無数に発射され、一行の上に降り注いだ。
一同は反射的にそれを避けるが、すべてを回避することはできなかった。
しかし、ディオゲネスが展開した結界によって、誰ひとり深刻なダメージを受けた者はいなかった。
残りの二体も同様に一行を攻撃しながら詠唱を始める。
こうなると、ディオゲネスは耐魔法結界に集中せざるを得ない。
二体のグレーターデーモンが、先ほどの一体と同じ、溶岩弾による攻撃魔法を発動した。
一行は、それもなんとか凌いだ。
その時、アーシェラが動いた。
一体のグレーターデーモンの相手を風精霊たちに任せ、一端戦闘区域から離れる。
目を閉じ、意識を集中して詠唱を始める。
「偉大なる爆炎の支配者よ、契約に基づき我が前に姿を現わせ、我が名はアーシェラ。炎の魔神よ!」
その瞬間、アーシェラの目の前に、全身を炎に包まれた巨人が現れた。
炎の魔神、それは時の精霊同様、エルフの精霊使いが使役する精霊の中でも最上位の一角を占める精霊であった。
「久しぶりだな。アーシェラ」
炎の魔神は聞く者を威圧するような、その外見に相応しく低く太い声で、ゆっくりとアーシェラに語り掛け、ニヤリと笑った。
「今回の俺の敵は、あの醜い獣か?」
炎の魔神はデーモンを振り向いて言った。
「ええ、頼むわ」
「わかった、では相応の魔力を頂くぞ」
炎の魔神がそう言った瞬間、アーシェラの身体から炎の魔神に向けて大量の魔力が流れ出た。
アーシェラの額に汗が滲む。
次の瞬間、炎の魔神は満足そうに笑い、頷くと、ヒューゴとレーナに攻撃を続けているグレーターデーモンに向けて、突進した。
炎の魔神とグレーターデーモンの体格は、ほぼ同等であった。
炎の魔神は拳を握って、グレーターデーモンの顔を思い切り殴りつけた。
理屈もなにもない、力任せの一撃であった。
ドォォォォォォォォォォン!
グレーターデーモンの巨体が、そのまま地面に叩きつけられる。
グィードはそれを見て、ひゅうと口笛を吹いた。
炎の魔神はそのまま、グレーターデーモンの身体に馬乗りになって、顔面や胸部を力任せに殴り続ける。
ヒューゴとレーナは、それを確認すると頷き合い、風精霊たちが相手をしているグレーターデーモンに立ち向かった。
ヒューゴは王殺しを維持したまま、速弾きを仕掛ける。
王殺しの速弾きである。
レーナの心臓を一突きは、巨人のような魔物には通用しない。
心臓まで杭が達しないのだ。
しかし、ヒューゴの斬撃に同調して、相手を牽制することはできる。
その牽制によってヒューゴの斬撃の精度が上がり、結果、相手に与えられるダメージが増大するのである。
恋人たちの二重奏が、グレーターデーモンを制圧しようとしていた。
残る一体を、グィードと人狼が相手にしていた。
グィードは、死神の大鎌・狂詩曲を完全に自分のものにしていた。
かつて死の天使と呼ばれていた全盛期の自分の能力を、遥かに超越した能力を発揮している自分にグィードは満足を覚えていた。
人狼もまた、かつてない解放感を味わっていた。
音速を超える斬撃に微塵も傷つくことのない大剣を、人狼は無心に振るっていた。
二人の斬撃は、明らかにグレーターデーモンの反応速度を上っていた。
「終いだな」
グィードが人狼に目配せをして、同時に攻撃を仕掛ける。
この時二人が放った連携攻撃は、後にグィードによって人狼のための狂詩曲と名付けられた。
グレーターデーモンは文字通りの意味における微塵切りにされて、雲散霧消した。
炎の魔神の凄まじい暴力が、グレーターデーモンを圧倒していた。
全身が焼け焦げ、顔も身体も変形していた。
最後に炎の魔神は、両手を握り合い振り上げると、その手を鉄槌を振り下ろすようにグレーターデーモンの顔面に振り下ろした。
グシャリ!という音とともにグレーターデーモンの頭部が粉砕され、同時に全身から瘴気を撒き散らして消滅した。
炎の魔神もまた、己の役割を終えたことを知ると、アーシェラを振り返り一度だけ頷くと、そのまま空気に溶けるように姿を消した。
残るはヒューゴとレーナが相手取る一体のみであった。
一行には、すでに助けに入る余裕もあったが、二人が明らかに優勢であることを認めて、そのまま見守ることにした。
その時、ヒューゴの王殺しがグレーターデーモンの片方の角を斬り飛ばした。
グォォォォォォォォォォン!
グレーターデーモンの口から苦痛の叫びが発せられる。
ヒューゴの王殺しが、そのまま角度を変えて、叫び続けるグレーターデーモンの首を真横から斬り払った。
グレーターデーモンの首が飛んだ。
ヒューゴの斬撃は、まだ止まらない。
グレーターデーモンの胴体に、王殺しの速弾きを浴びせ続ける。
全身から瘴気を発散させて、グレーターデーモンは雲散霧消した。
「さすがは俺の息子だ!」
そう言いながら、グィードはヒューゴに歩み寄り、その頭を撫でる。
「さあ、偉大なるネズミの王、他にも持て成しの用意はあるのか?」
グィードが姿の見えない敵に対して、不敵に言い放った。




