シアー・ハート・アタック
某名作漫画(私も大ファンです)の某スタンドの攻撃名に、すでに使われていますので使用を躊躇いましたが、私もこの曲が大好きなのでやっぱり使ってしまいました。結果、私の中ではこれまでで一番お気に入りのシーンになりました。ご一緒にお楽しみ頂けましたら幸いです。
驚くべきことに、馬を駆るグィードたち一行をスオウは走って先導した。
しかも一行に遅れるどころか、乗馬に慣れないヒューゴやレーナのために、また馬たちのために休憩を取る時にも、スオウは息一つ切らしてはいなかった。
ウァサゴはオーデンセのギルド以来、黒猫の姿でいることが多くなり、今も馬上のレーナの荷物袋の中から顔を覗かせている。
コボルトの廃坑からグレナリオ山脈の登山口までは、およそ二時間ほどで到着した。
ちょうど正午に差し掛かっていたので、一行はそこで食事を取ることにした。
ウァサゴがいるため、一行はいちいち携帯食料を持ち運ばなくて済むようになった。
そしてそれは、これからも長旅を強いられる彼らにとって非常に都合の良いことであった。
「それでは食事にしよう」
そうアルフォンスが言うと、黒猫がレーナの荷物袋からぴょんと飛び出して、瞬く間に人間の姿を取り戻した。
「なんだ?妖術使いが仲間にいるのか?」
変身するウァサゴを見てスオウがそう言ったので、ヒューゴはウァサゴが精霊であることを説明した。
精霊と言われてもスオウはピンとは来なかったようだが、もともとあまり細かいことを気にしない性質らしく、「そうか、精霊なのか、わかった」と言って暢気に笑っていた。
ウァサゴは本当に気の利くシェフであり、スオウの好みに合わせて大量の肉料理を用意していた。
いったいどこから食材を入手して、いつの間に調理しているのかは相変わらず謎であったが、提供される時にはいつも湯気が立つほど出来立ての料理が提供された。
食事が終わると一行は、いよいよグレナリオ山脈の登山道に入った。
そこからは馬から降りて牽いて行かなけれならなかったが、全員が徒歩になったことで、一行はやっとスオウとゆっくり話をすることができた。
「ところで、スオウの里には何人くらい人鬼が住んでいるの?」
ヒューゴが訪ねた。
「ああ、俺を含めて六人だな。全部俺の家族だ」
スオウが祖母のクレナイから聞いた話では、もともと人鬼は個人の武を誇り、群れることを好まず、自分だけの戦場を求めて単身で放浪する者が多いのだという。
しかしごく稀に、スオウの祖母のように放浪中に同族と出会い、子孫を残す者がいるのだが、普通はその子どもたちも成人するとすぐに家族を離れるものらしい。
つまり、スオウの家族のように里を築いて定住する人鬼というのは、本当に珍しいことなのだという。
「じゃあ、なんでスオウの家族はグレナリオの里で一緒に暮らしてるんだろう?」
ヒューゴが漠然とした疑問を口にした。
「さあな、そんなこと考えたこともなかったよ」
そう言ってスオウは笑った。
見る者を安心させるような、鷹揚な笑い顔であった。
一行は、しばらくは登山道をそのまま進んでいたが、当然ながら途中で道を逸れ始めた。
隠れ里というくらいなのだから、普通の登山道を通って辿り着けるはずはないのだ。
幸い、ぎりぎり馬が通れる道であった。
或いは、スオウが敢えてそういう道を選んで進んだのであろう。
そろそろ日が傾き始めようかという頃、一行は魔物の気配に気づいた。
「最近はこの辺りにも、ずいぶん魔物の数が増えてきてるんだ」
そう言ってスオウは立ち止まり、戦闘の構えを見せた。
グィードたちもそれに倣う。
現れたのは総勢五十体にも及ぶゴブリンとオークとコボルトからなる、邪妖精の混成部隊であった。
驚くべきことにと言うべきか、予想通りと言うべきか、すべての個体があの金属の装備で完全武装をしていた。
「これはますます放っておけない事態ですね」
ディオゲネスが言う。
「ああ」
アルフォンスが短く同意する。
これはレーナにとって、冒険者になって初めての戦闘になる。
グィードが心配してレーナの方を見ると、レーナは片膝をつき、すでに籠手を装備した両手を合わせて、祈りを捧げていた。
「創造主よ。呪われたものたちに憐れみを。そして、安らかなる眠りを与えたまえ。聖霊よ、我にそれを成し遂げる力を与えたまえ」
祈りを終えると、レーナは立ち上がって戦闘態勢をとった。
ひゅーっと、グィードが口笛を吹いた。
レーナの目がすでに戦士の目であることを察したのだ。
恐らくレーナは、ここ数日、この瞬間が来ることを常に考え、そして祈って来たのだろうとグィードは想像した。
そしてレーナの信仰は、彼女に冒険者としての覚悟と強い意志を与えたのだろうと。
戦闘は、すでに始まっていた。
いつもの如く、アルフォンスは大剣を振り翳し、魔物の群れの最深部まで切り込んでいた。
ヒューゴもそれに続いて、次々に敵を斬り伏せていた。
すでに一人前の戦士のそれであるのを見て、グィードは感心した。
スオウもまた、魔物の群れの奥深くまで入り込み、次々に敵を打ち倒していた。
その拳や蹴りに、鬼功と呼ばれる闘気が込められていることを、グィードはすでに気付いていた。
かつて知り合った人鬼が、同じように用いていた鬼功法と呼ばれる闘法である。
ディオゲネスは監禁者と隔離室と名付けられた二種類の結界術を、自由自在に操っていた。
魔物たちは監禁者によって自由を奪われ、隔離室から突然解放される強大な攻撃魔法によって、次々に葬られて行った。
ディオゲネスはそのように個人の武勇を誇りながらも、パーティーへの強化魔法を忘れていなかった。
またアーシェラは、新たに習得した風精火炎放射によって敵を焼き尽くしつつ、新調したばかりの細身の剣を振るって、順調に敵の数を減らしていた。
グィードもまた愛剣を振るいながら、レーナの戦いを見守っていた。
グィードは驚嘆した。
レーナは自分に向って来る魔物たちを、すべて一撃のもとに消滅させていた。
籠手というレーナの特殊な武器が、それを可能にしていたのだ。
レーナの一撃はすべて、魔物の心臓に直接命中していたのだ。
そのミスリル製の籠手の先端にある角状の杭は、魔物たちの鎧の装甲を容易く突き破り、心臓に達していた。
魔物たちに一切の痛みや苦しみを与えず、速やかに葬るレーナのその闘法は、後にグィードによって心臓を一突きと名付けられた。
そしてその時、グィードはレーナの信仰による覚悟が、彼女に冒険者としての爆発的な成長をもたらしていることを知った。
戦闘は早くも掃討戦に移行していた。




