新たな出会い
やっと念願の新キャラを登場させることができました。なにしろあのQUEENの名曲を思い起こさせますからね。もうお分かりですね。よろしくお願いします。
ヴォルカスの店を後にした一行は、続いて防具屋を物色した。
オーデンセには防具屋もまた三軒あったが、商品の質はどこも似たり寄ったりであった。
そのうちの一軒に入り、一行はレーナのために丈夫で動きやすい修験者専用の法衣を買った。
籠手には、やはりヴォルカスの手による専用のホルダーが付いていたが、レーナは年頃の娘らしく法衣とホルダーのデザインのバランスに拘った。
「うん。なかなかいい感じになったわ」
一時間ばかり迷ったすえに、レーナは薄桜色の法衣を選び、鏡を見てご満悦であった。
ところで、ヒューゴがヴォルカスの店でオリハルコン製の長剣願望を握った時、非常に軽く感じたのには特別な理由もあった。
それは、これまでヒューゴが使っていた長剣が、ウァサゴの能力によって通常の二倍の重さに調整されていたからでもあったのだ。
そしてウァサゴは、ヴォルカスの店を出た直後、早速願望にも同じ処置を施した。
「ヒューゴ、何事も偉大な英雄になるための修行です」
そう言って、ウァサゴはニヤリと笑った。
ヴォルカスの店で大剣を新調したアルフォンスも、以前のものには同じ処置を施されていたことを思い起こし、再度処置を依頼した。
どこまでも生真面目なアルフォンスであった。
そして、そのやり取りを聞いていたレーナもまた、自分の装備にも同じようにして欲しいと願い出た。
こうして、ヒューゴとレーナとアルフォンスは、今も通常の二倍の重さの装備を身につけている。
それから一行は、新たに馬を買うために自分たちの馬も預けていた街の厩舎に向った。
冒険者の出入りの多い街であったから、馬の売り買いは頻繁に行われていた。
一行も願い通り、新たに三頭の馬を購入した。
これにより、今後は全員一人乗りで旅ができるので、移動速度が格段に上昇することになる。
そのついでに、ヒューゴとレーナはアーシェラから乗馬の手解きを受けたが、二人ともなかなか筋がいいと褒められた。
そうこうしているうちに日も暮れて、一行は宿屋炎の蛙に帰って来た。
昼間出掛ける前に、宿の予約も入れておいたのだ。
早めに夕食も済まし、その日は皆で早く休むことにした。
明日からは長旅になる予定であったからだ。
翌朝、一行は旅立つ前に、もう一度ヴォルカスの店を訪ねることにした。
それはあのコボルトの廃坑で、ディオゲネスが採取した金属片をヴォルカスに見せて意見を聞くためであった。
「なんだ、また来るとは言っていたが、ずいぶん早くやって来たな」
そういいながらも、ヴォルカスは嬉しそうであった。
「じつは巨匠に一つ、ご相談がありまして」
心からの尊敬と信頼を込めて、ディオゲネスがそう呼びかけた。
「相談?」
「はい。じつは私たちはあるところで、こんなものを拾ったのですが、これがいったいどういうものか私たちにはわからないのです」
そう言ってディオゲネスは、ローブのポケットからあの金属片を取り出して、カウンターの上に置いた。
余計な先入観を与えないために、敢えてコボルトの廃坑でのことは伏せておいたのだ。
ヴォルカスはそれを拾い上げると、ルーペを装着して、しばらくじっくり観察した。
「これは、かなりの粗悪品じゃがコボルダイトじゃな」
「やはりそうでしたか」
ディオゲネス以外は、そのような金属の名前は初耳であった。
「四百年前の魔王戦役において、コボルトの王が人間のミスリルに対抗するために開発した新合金の名前がコボルダイトです」
「よく知っておったな、若いの」
「そういえば、昨日も名乗っていませんでしたが、私はディオゲネスというものです」
「で、ディオゲネス、これをおまえさんたちはいったい、どこで拾って来たんだ?」
ディオゲネスは、偉大なるネズミの王の件は伏せて、廃坑の出来事だけを簡単に説明した。
するとたちまちヴォルカスの顔が曇った。
やはり不吉なものを感じ取ったのだ。
「これはまだ純度が低い粗悪品だ。恐らくまだ、四百年前の物を再現できてはおらんのだろう。しかし、もしそれが再現されれば、その性能はミスリルに匹敵するとさえ言われておる」
そんな装備で身を固めた大量の魔物の軍団が出現することを想像して、一行は胸の奥に不安と恐れが暗い染みのように広がっていくのを感じた。
一行は改めてヴォルカスに別れを告げて、店を出た。
見送りの際にヴォルカスは若々しい、はっきりとした声でこう言った。
「今度来るときは、もう少し時間を空けて来いよ。そうすれば、その時までにはおまえさんたち専用の武器を造っておいてやるからな」
それから一行は街を出て、昨日来た街道を途中まで引き返すことになった。
というのは、これから一行が目指すグレナリオ山脈は、あのコボルトがいた廃坑のさらに北側に位置していたからである。
特に気になったわけではなかったが、一行はついでに一昨日に封印したコボルトの廃坑の様子を見てから、その北に進むことにした。
廃坑は当然のことながら、ディオゲネスが崩壊させた時のままであった。
入口は完全に封鎖され、ただ巨大な岩が積み上げられているだけのように見える。
置き去りにされたトロッコや、その他の採掘道具などが辛うじて、かつてそこに坑道が存在していたことを示す証拠となっていた。
しかし、そこで一行は予想もしていなかったものと遭遇した。
僅かに黒味を帯びた赤い髪色の若い男が一人、武装したコボルトの群れと戦っていたのだ。
恐らく、どこかへ遠征していた部隊が帰って来たところで、男と出くわしたのだろう。
男は徒手空拳であったが、男の蹴りや突き、掌打がヒットすると、あるものは吹き飛び、あるものはその一撃が致命傷となるらしく、コボルトたちはそのまま消滅していた。
そして、男の強さは圧倒的であった。
一行が助けに入る間もなく、当所は二十体はいたかと思われるコボルトの群れは全滅させられていた。
「見事なもんだなぁ」
コボルトの群れを撃破して、束の間立ち尽くしていた男にグィードが声を掛けた。
男が振り向いた。
ヒューゴやレーナよりは幾つか年上のようだが、まだ二十歳そこそこと思われる、明るい印象を与える男であった。
ただ男の顔には、容易には見逃せない、ある特徴が備わっていた。
それは額の両脇に突き出した短い角らしきもの、いや、角そのものであった。
「しまったぁ、人に見られちまったかぁ。これは親父にどやされるぞ」
「もしかしておまえは、人鬼なのか?」
グィードが男に尋ねた。
「あんた、俺たちのことを知ってるのか?」
男は驚いたように聞き返した。
「ん、まあな、昔一度だけ、おまえの同族に出会ったことがあるんだ」
人鬼とは、人狼と同じく古き血の一族の一派であり、日頃は人間とあまり変わらない人鬼と呼ばれる姿をしているが、その本領を発揮するのは、鬼人の姿に変身した時であることをグィードは知っていた。
「グレナリオの人鬼に、会ったことがあるのか?」
「いや、俺が昔会ったのは、この大陸でのことじゃなかった。東の海の果て、フダラクと呼ばれる島国でだ」
「ふだらくぅ?そんな国のことは聞いたことがないなぁ。俺はグレナリオの隠れ里に住む人鬼のスオウだ」
「スオウか、いい名前だなぁ。俺はグィード、こいつらは俺の仲間だ。じつは俺たちもグレナリオ山脈に用事があるんだが、よければおまえの里に案内してくれないか?」
「隠れ里に?人間を?冗談じゃない。そんなことをしたら親父に殺されちまうよ」
「そうか、それは残念だなぁ。まあ、それならそれで仕方がない。じゃあな」
そう言ってグィードたちがその場を離れようとすると、スオウは慌てたように引き止めた。
「待ってくれ、あんたらもこの廃坑に用があって来たんじゃないのか?」
「用というほどのことではありません。ただ様子を見に来ただけですから」
ディオゲネスが答えた。
「じつは俺もこの廃坑に用があって来たんだが、いつの間にか入口が岩に埋まっちまってたんだ。なにか知っていることがあったら教えてくれないか?このままじゃあ、親父になんて報告していいかわからないんだ」
そこでグィードたち一同は、互いに顔を見合わせる。
そしてまずはアルフォンスとグィードが頷き合い、それから二人はディオゲネスに目で合図を送った。
ディオゲネスが頷き、再び口を開く。
「そういうことなら、やはり私たちを隠れ里とやらに連れて行った方が良いと思いますよ」
「どういうことだぁ?」
「じつは、その廃坑の入口を塞いだのは私たちなんです」
「はあ?どういうことだぁ?」
それからディオゲネスは、掻い摘んでスオウに事情を説明した。
「そうだったのかぁ。それならあんたらは里の恩人だ。案内しても親父は怒らないかもしれないなぁ」
「それならば、ぜひお願いしたい。俺たちも最近のグレナリオ山脈の様子について、おまえたちに聞きたいことがあるんだ」
アルフォンスが改めて願い出た。
「よし、わかった。それじゃあ、あんたらを俺たちの里に案内するよ」
こうして一行は、人鬼の青年スオウの案内によって、ひとまずグレナリオ山脈にある人鬼の隠れ里を目指すことになったのである。




