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ギルド本部からの指令

短くまとまりましたが、物語が動く重要な分岐点になります。

 ヒューゴたちが、ギルド一階で冒険者の登録手続きをしている頃、アルフォンスたち三人は、ギルド三階の支部長(ギルドマスター)の執務室の長椅子(ソファ)に腰かけていた。

 正面にはオーデンセの支部長(ギルドマスター)ハンネスが座っている。

 ハンネスは今年で四十五歳となる古代魔術師(ルーンマスター)で、白いものが混ざりはじめた焦げ茶色の髪を髪油(ポマード)で丁寧に後ろに撫でつけた、生真面目そうな風貌の男であった。

 「君たち三人のことは本部から連絡を受けています。ずいぶん腕が立つようですね」

 「それほどでもない」

 アルフォンスが素っ気なく答える。

 「ご謙遜でしょう。剣豪(ソードマスター)探求者(サーチャー)精霊の支配者(エレメンツマスター)、一つのパーティーにそれだけ最上級職(マスタークラス)が揃っているなど、いくら本部所属と言っても、そうそうあることではありません」

 実際、冒険者としての職位(ジョブクラス)だけを見れば、三人は皆、ハンネスよりも上なのだ。

 「そうだな。俺たちは、それなりに腕は立つ」

 アルフォンスは自嘲ぎみに訂正する。

 「ところで俺たちの要件だが、本部からの依頼通り、死の天使(アズラーイール)グィードと合流した。これから共に王都(アラヴァスタ)に向かうところだが、途中いくらか寄り道をすることになりそうだ。秋までには王都(アラヴァスタ)に到着すると、本部に伝えて欲しい」

 「なんと、あの死の天使(アズラーイール)が、本当に生きていたのですか?」

 ハンネスは驚きを隠そうともしない。

 ハンネスはおよそ一か月程前、本部から連絡を受けて、もしアルフォンスたち一行が死の天使(アズラーイール)を連れてギルドに立ち寄ることがあれば、それを報告するようにと指示を受けていた。

 しかし、その指示を受けてもハンネスは、まさかあの伝説的な冒険者死の天使(アズラーイール)が今も生きており、しかも、こんな大陸の辺境地域に隠れ住んでいるなどとは、半信半疑であったのである。

 「ええ。俺たちも正直、驚いています」

 アルフォンスが答える。

 「そうか」

 じつはハンネスには、アルフォンスたちについて、本部からもう一つ別の指示が与えられていた。

 それは、死の天使(アズラーイール)を連れていても、いなくても、いずれにせよ、この地域で起きている異常事態の調査と解決を、本部からの指示として彼らに依頼せよというものであった。

 そこでハンネスは、そのままをアルフォンスたちに伝えた。

 「どういうことでしょう?」

 アルフォンスがハンネスに訪ねる。

 「私には詳しいことは伝えられていない。ただこの依頼は、死の天使(アズラーイール)王都(アラヴァスタ)に連れ帰ることよりも優先すると、指示をされている」

 「つまり俺たちに断る権利はない。そういうことですか?」

 「まあ、ギルドに睨まれたくなければ、そういうことになるだろう」

 ハンネスは言い難そうに口にした。

 この男は見た目通り生真面目な男なのだと、アルフォンスは思った。

 そして王都(アラヴァスタ)のギルド本部で会った、アルザスの厭らしい笑顔を思い出して、イラついた。

 「わかりました。それで、この地域で起こっている異常事態とは、いったい何なんですか?」

 アルフォンスはその答えを、ある程度予想していたが、話の流れとしてもそう尋ねざるを得なかった。

 「じつは最近この地域では、魔物たちによる旅人や冒険者たちの拉致事件が多発している」

 やはりそうかと、アルフォンスは得心し、アーシェラとディオゲネスに目配せをする。

 二人は黙って頷く。

 「それでギルドはなにか、その件について情報を掴んではいるんですか?」

 「ああ、じつは一か月ほど前に、グレナリオ山脈を探索した冒険者たちが、その山頂に本来はあるはずのない古城の影のようなものを目撃したと、報告しているんだ」

 それを聞いてディオゲネスは眉を(ひそ)めた。

 アルフォンスもアーシェラも、思い当たることがあったが表情には出さない。

 「その時期が、拉致事件が頻繁に報告され始めた時期と一致している」

 「そうですか、わかりました。では俺たちは、まずはグレナリオ山脈を探索してみます」

 「ああ、よろしく頼む」

 「それと別件で一つ、報告があります」

 「なにかね?」

 「昨日、ハインツという冒険者の一行が、グレンナに続く街道北の廃坑にコボルトの巣窟を発見したと報告したと思いますが、その件はすでに解決済みです」

 「なんと、それも君たちが解決したというのかね?」

 「ええ」

 アルフォンスは短く答える。

 「そうか、それではオーデンセの冒険者ギルド支部長(ギルドマスター)として、君たちに礼を述べねばなるまい。ありがとう、心からの感謝と敬意を評する」

 「大したことではありません。お気になさらずに」

 ディオゲネスが答えた。

 ハンネスは悪い男ではないと、アルフォンスたちは理解した。

 冒険者ギルドに関わる多くの人々は、もともとは冒険者であって、冒険と人助けを好む善良な人々が多いのだ。

 ただ、それはあらゆる組織について同じように言えることであるかも知れないが、幹部たちの中には、自分の権力を増すことや、利権を守ることに夢中で、自分たちの本来の目的を見失っている者も多いのだ。

 「そもそも権力を求めるような奴に(ろく)な奴はいない」

 それは後に、グィードがアルフォンスたちによく言った言葉であった。


 執務室を出ると、アルフォンスたちはすぐにグィードたちに合流した。

 そして執務室でのハンネスとのやり取りと、ついでに自分たちをグィードのもとに送り出したアルザスのことを伝えた。

 「そうか」

 グィードはそう言って少し考えた後、次のような話をした。

 「まだその理由まではわからんが、恐らくギルドの目的は、初めからおまえたちをこの地域に送ることと、あわよくば俺を冒険者として復帰させることにあったようだなぁ」

 「でもなんのために?」

 ヒューゴがグィードに訪ねた。

 「さあな、本部の幹部連中ってのは、なにを考えているのかわからない奴らばっかりだからなぁ」

 それからグィードは、アルフォンスたちに向き直って次のように続けた。

 「それからな、おまえらもわかっているとは思うが、アルザスの奴は小物だ。多分だれかの使い走りに利用されているだけだろう」

 グィードはアルザスのことを知っていた。

 盗賊ギルド時代の後輩で、もともと上昇志向の強い奴だったと、後にグィードはアルフォンスたちに語った。

 それから一行は冒険者ギルドを出て、おもにヒューゴとレーナの装備を整えるために買い物をすることにした。

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