野営地の夜
まだまだ苦手な戦闘シーンですが、頑張ってみました。よろしくお願いします。
ヒューゴたち一行は廃坑を離れると、間もなく野営の準備に取り掛かった。
そこは街道から、少し離れた林の中であった。
アルフォンスが、皆に作業の指示を出す。
「ヒューゴとレーナには、薪拾いを頼む」
「了解!!」
二人が声を揃える。
「アーシェラは、馬を頼む」
「了解」
短くそう答えるとアーシェラは、三頭の馬の手綱を引いていった。
一行の中で、最も馬の扱いに長けるのはアーシェラであった。
そもそもエルフやドワーフ、ハーフリングといった亜人種たちは、人間よりも動物に好かれる性質を持っていた。
それは彼らが、人間よりも巧みに動物たちと心を通わせるからだと言われている。
「残りはテントを張ろう」
そう言うとアルフォンスは、グィードとディオゲネスと共にテントの設営に取り掛かる。
熟練した冒険者である彼らは、速やかに設営を完了する。
続いては食事の準備であったが、アルフォンスは黙ってウァサゴに期待の目を向けた。
その視線に気づいたウァサゴが、ニッコリと笑う。
「ああ、食事のことですね。お任せください。腕に縒りを掛けて作らせて頂きました」
「そうか、それは有り難い」
そう答えながらも、アルフォンスは軽い衝撃を受けていた。
あの料理は、魔法によってどこからか取り出したのではなく、ウァサゴ自身が調理していたのかと。
そう言えば、時々姿を消していることがあるが、その間にどこかの異空間で調理をしているかも知れないなと想像力を働かせたが、エプロン姿のウァサゴが思い浮かび、あまりにも馬鹿馬鹿しい想像だと気付いて、途中でやめた。
じつはその時、グィードとディオゲネスもまったく同じ想像をしていたのだが、お互いにそのことを口にはしなかった。
やがてヒューゴとレーナが薪拾いから帰って来た。
一行は焚き火を囲み、ウァサゴの料理に舌鼓を打ち、その日の出来事を振り返り、今後の予定を話し合った。
ディオゲネスは、廃坑の爆破に利用した結界術に、隔離室という名前を付けたことを意気揚々と発表した。
監禁者と隔離室は、今後ディオゲネスの汎用技能として完全に定着化することになる。
ヒューゴとレーナは明日、オーデンセの冒険者ギルドで冒険者としての登録を行うことに心を踊らせていた。
ヒューゴは盗賊として登録することを、すでに決めていた。
レーナは普通に考えれば、司祭の予備職である助祭となるのが順当なのであるが、グィードは修験者となることを提案した。
修験者とは、司祭に代表される聖職者系の予備職であると同時に、格闘家系の予備職でもあり、助祭よりも身体能力に対する聖霊の加護が大きい。
勿論その反動もあり、神聖魔法の修得や成長は多少遅れるが、最終的には中級までの魔法は全て修得可能であり、後に司祭に転職した場合、身体能力のステイタスが助祭出身の者とは大きく変わってくる。
つまり冒険者にとっては、より実戦向きの職業であると言える。
レーナもそれに同意した。
一行がそろそろ床に着こうかと準備を始めた時、グィードが魔物の気配を感じ取った。
「どうやら、お客さんのようだな」
一同に緊張が走る。
全員が立ち上り、グィードとアルフォンスとヒューゴは、それぞれ剣を抜いて自然体に構える。
現れたのは、巨大ネズミとトロールの混成部隊であった。
「どうやら噂の誘拐犯どもに、俺たちも目をつけられたようだな」
グィードが言いながら、アルフォンスの顔を見る。
「それはそれは、光栄なことですね」
「ということは、彼らはあの洞窟からやって来たということなのでしょうか?」
ディオゲネスも二人に続いて口を開いた。
相手の姿を確認した時点で、一行の緊張はほとんど解けていた。
巨大ネズミとは、昨日洞窟で初めて戦ったのだが、単体の戦闘力はおよそゴブリンの二から三倍程度であると、グィードは分析していた。
トロールは、系統的にはゴブリンやオーク、コボルトなどと同じ邪妖精に分類されるが、より等級の高い上位邪妖精に属している。
また、一般的に上位邪妖精は、低級な邪妖精に比べて、知能が高い種族が多いのだが、トロールは身体能力に優れている反面、知能が低く、より凶暴であるという特徴を持っている。
おおよその戦闘力は、ゴブリンの三から五倍というのが、グィードの見立てであった。
グィードはまず、敵の戦力を確認する。
巨大ネズミが二十体とトロールが七体。中級程度の冒険者であれば苦戦を強いられる戦力である。
しかし、グィードたち一行にとっては、それほど危険な敵とは言えなかった。
注意すべきは、未だ戦闘能力をほとんど持たないレーナを守るという一点であった。
「ヒューゴ、レーナの護衛は任せたぞ!」
グィードが叫んだ。
「言われなくても!」
ヒューゴは答えながら、レーナと魔物の群れの間に入る。
レーナはその背中を、以前よりも大きく感じていた。
ヴァオォォォォォォォン!!
一体のトロールが奇声を上げながら、グィードに襲い掛かった。
それが、戦闘の幕開けの合図となった。
トロールの身長は、およそ三メートル程であり、金属性の棍棒を軽々と振るう。
グィードと言えども、その棍棒を正面から剣で受けることはできない。
そこでグィードは、絶妙の角度で棍棒の一撃を受け流す。
ガキィィィン!
接触面からは、火花が翔び散る。
次瞬、グィードの剣がトロールの両腕の肘から先を切断した。
ドスンッ!!
どす黒い血を噴き出しながら、両腕が棍棒と共に地面に落ちる。
グィードの剣は止まらず、トロールの腰の辺りを両断する。
ずるりと、トロールの上半身が横に滑り、地面にずり落ちる。
同時に、瘴気を残してトロールの全身が消滅する。
アルフォンスが、もう一体のトロールと打ち合っていた。
一回り以上体格の違うトロールの攻撃を、アルフォンスは正面から受け止め、押し負けていなかった。
大剣の倍以上の質量を持つ棍棒を受け止め、押し合い、跳ね返してしまった。
跳ね返されたトロールが、再びアルフォンスに向かって突進した。
アルフォンスは、その脇を駆け抜けると同時に、トロールの胴体を真一文字に斬り払った。
トロールが崩れ落ち、断末魔の叫びを残して消滅した。
続いて、アーシェラが動いた。
両手を魔物の群れに向けて伸ばす。
「風精火炎放射!!」
その叫びを聞いて、ディオゲネスは物言いたげにアーシェラの顔を見つめるが、アーシェラはそれを無視する。
ディオゲネスが言った通り、技能をイメージして技名を唱えると、前回よりもスムーズに発動した。
一瞬にして、風精霊と火蜥蜴のペアが三組召喚され、魔物の群れを焼き払った。
威力も数倍化していることを、アーシェラは実感した。
その一撃で、群れの半数以上が消滅したのである。
その時、ヒューゴとレーナの元に、二体の巨大ネズミが迫った。
依然のヒューゴであれば、一人では到底手に負えない相手であった。
しかし、ヒューゴはまったく動じない。
冷静に敵の動きを観察し、予測する。
ヒューゴが動く。
向かって右側の一体に向かって、一歩を踏み出す。
「速弾き!!」
ヒューゴの剣速は、明らかに以前よりも増していた。
一息に五回の斬撃を浴びせる。
巨大ネズミは、雲散霧消する。
反対側の一体にも、すぐに向き直る。
「速弾き!!」
同様に巨大ネズミは斬り刻まれて、消滅した。
ディオゲネスの元には、二体のトロールが迫っていた。
ディオゲネスは、左右それぞれの腕を、各トロールの頭部方向に向けて伸ばす。
「監禁者!」
二体の頭部が、すっぽりと監禁者に覆われ、固定される。
トロールはなお手足をバタつかせ、必死に前進しようとするが一歩も前に進めない。
続いてディオゲネスは、二体の胴体に向けて両手を伸ばす。
「隔離室!!」
直後に出現した二つの隔離室に対して、ディオゲネスは詠唱破棄によるエアーカッターを各五回放つが、それはほとんど、誰の目にも止まらないものであった。
それからディオゲネスは、隔離室を解除する。
その瞬間、二体のトロールに対して爆発的に、それぞれ五枚の真空の刃が襲い掛かり、胴体を切り刻む。
残りの魔物は、グィードとアルフォンスが、すでに斬り伏せていた。
野営地に、再び平和が訪れた。




