廃坑封印
今回は、ディオゲネス1人が急激に成長した印象を与えますが、当然そのうち、皆が追いつく予定です。主人公は一応ヒューゴ君ですしね。頑張って成長して欲しいところです。
「これで、この廃坑のコボルトは全滅したはずだ。残るは鍛冶場の破壊だけだが」
グィードがアルフォンスに言った。
「ええ。ディオゲネス、後は任せたぞ」
「承知しました。では鍛冶場に参りましょうか」
ディオゲネスは恭しく答えると、鍛冶場へ続く横穴に向かって歩き出した。
一行はその後に従う。
「じつは、新たな結界術の利用方法を、もう一つ思い付きまして」
ディオゲネスは歩きながら、自分のアイデアの説明を始めた。
「監禁者に利用している結界は空間自体を遮断、固定する結界なのですが、これから使おうとしているのは、純粋に魔力だけを遮断する結界なのです。それを防御用に使えば、当然、敵の魔法から身を守ることができるわけですが、それは言わば、あのコボルトの盾と同じように魔法を弾くということで、その魔法のエネルギー自体が無効になる種類のものではないのです」
ディオゲネスは、ここで一端沈黙する。
話を聞く一行に、情報を整理する時間を与えているのだ。
「じつは、その結界には表と裏がありまして、表からの魔法は通しませんが裏からは通るのです。だからこそ、術者は結界に守られながら、相手に魔法攻撃を行うことができるのですが」
ここでもう一度、間を置く。
「私はその結界を裏返しに使うことにしたのです」
ここでグィードが割り込んだ。
「つまり、外側からの魔法を通して、内側に魔法を閉じ込めるというわけだな」
「正解です」
「それを利用して、これからどうやって鍛冶場を破壊しようってんだ?」
「まずは極小の裏返しの結界を展開します。そしてその結界に向けて、爆裂魔法を放ちます。それも複数発。それから私たちは安全な場所まで避難し、結界を解除します」
「そうすると、爆裂魔法数発分の爆発が一気に起こるというわけだな?」
グィードが髯を撫でながら確認する。
「その通りです」
「なるほど。それなら安全に、しかも短時間で鍛冶場を破壊することができるな」
「はい。そしてどうせなら、私としては、この廃坑の入口自体も爆破して、塞いでしまった方が良いと思います」
「どうしてそう思う?」
「じつは、初めは先程グィードたちが探索した地下深くに続く横穴を後日調査する必要もあるかと考えたのですが、私たちにはそこまでの余裕はないことと、もしギルドに調査を任せて、万が一、本当に地下世界まで繋がっていた場合、」
「大陸全土が大混乱に陥るだろうな」
「はい。ですので」
「アルフォンス、おまえはどう思う?」
「俺も同感です。この廃坑ごと封印して、ギルドには、ここは単なるコボルトの巣窟だったと報告するのが最善だと判断します」
「わかった、そうしよう。ディオゲネス頼む」
一行は、鍛冶場へ辿り着いた。
「皆さん、念のため下がっておいてください」
ディオゲネスがそう言って、一歩前へ進む。
「ところでその結界は、最長でどれくらい維持できるものなんだ?」
グィードが尋ねる。
「さあ、初めて試すことなので正確にはわかりませんが、数十分は大丈夫だと思いますよ」
「なんだか頼りねえなぁ、大丈夫か?って言うか、わざわざ全員でここまで来る必要はなかったんじゃねえか?」
グィードが言った。
「じつはそうなんですが、ほら、なんとなく運命共同体という感じで、皆さんと一緒の方が私も心強くて。まあ、任せておいてください。私の計算では、皆さんに被害が出る可能性は、限りなくゼロに近いはずですから」
「えっ、ゼロじゃないんだ?」
ヒューゴが不安そうな声を出す。
「とにかく、私を信頼してください」
そう言って、グィードが鍛冶場に向き直る。
両手を伸ばし、目の前に極小の結界を展開する。
「大気よ!爆炎よ!我が手中にありて交わり、その力を示せ!エクスプロージョン!エクスプロージョン!!エクスプロージョン!!!」
ディオゲネスの両掌から、凄まじい破壊的魔力が三回連続して放たれ、正面の結界に吸い込まれていった。
「さあ皆さん、急いで避難しましょう」
そう言うなり、ディオゲネスが来た道に向かって全速力で走り出した。
一行も、一瞬互いに顔を見つめ合い、次の瞬間には我先にと走り出す。
ウァサゴだけがニヤニヤとしながら、ゆっくりと一行の後を追った。
しばらく走るとディオゲネスが立ち止まり、一行を振り返って言った。
「冗談ですよ。大丈夫、そんなに急がなくても間に合いますから」
しかし、誰もディオゲネスの話を聞かずに、我先にとディオゲネスを追い抜いて行ってしまった。
ディオゲネスが一人取り残される。
「ちょっと冗談が過ぎましたかね」
そう独り言を言っていると、後からウァサゴがやって来た。
「なかなか面白いアイデアでしたね」
その一言だけを告げて、ウァサゴもまたニヤニヤしながら歩み去って行く。
「やれやれ」
そう言って、ディオゲネスも歩き出した。
一行が、あの横穴の並んだ部屋まで辿り着いた時、今辿ってきた鍛冶場に繋がる横穴から、凄まじい爆発音が聞こえ、廃坑全体をが大きく震えた。
レーナは咄嗟に耳を塞ぎ、しゃがみこんだ。
しばらくして、ウァサゴに続いてディオゲネスが横穴から姿を現した。
「だから大丈夫だと、言ったじゃありませんか。さあ、お次は入口に向かいましょうか」
一行は、なにも答えなかった。
ただ黙って、入口に向かって歩き始めた。
廃坑の入口付近で、ディオゲネスは再び、極小の結界を展開した。
一行は、すでに外で待たせている。
「大気よ。爆炎よ。エクスプロージョン!エクスプロージョン!!エクスプロージョン!!!エクスプロージョン!!!!エクスプロージョン!!!!!」
今回は、廃坑の通路自体を封鎖する必要があるため、先程よりも更に高威力の破壊エネルギーを結界に閉じ込める。
圧縮詠唱による爆裂魔法の五重掛けである。
単純に計算して、王都の城壁に一撃で穴を開けられるほどの破壊エネルギーである。
ディオゲネスが、一行の元に戻ってくる。
「さあ皆さん、耳を塞いでください。結界を解きますよ」
ウァサゴ以外の者は、皆、両手で耳を塞いだ。
トロッコに繋がれた馬の周囲には、アーシェラが風精霊に命じて、消音空間を展開していた。
ドッゴォォォォォォォォォォォン!!!
耳を劈くような轟音が大地を揺るがし、廃坑が崩壊を始める。
その崩壊が完全に収まった時、一行は馬のロープを解き、旅の仕度を始める。
その日最後の夕映えが、一行を赤く照らしていた。
もしあの結界術を実戦で使いこなすことができれば、ディオゲネスは一人で、王国騎士団の一個師団に匹敵する戦闘力を備えることになると、グィードは想像していた。
勿論、実戦における戦力とは、単純に攻撃力や破壊力だけで測れるものではないことを、グィードは充分理解していたが、そうであればこそ、使い方によっては、ディオゲネスの能力は凄まじい威力を発揮するものであると言えた。
これは益々面白いことになってきたと、グィードは独りほくそ笑んだ。
気が付けば、グィードはまた髯を撫でていた。




