修練場の戦闘
戦闘シーン、難しいです。でも頑張りました。今後ともよろしくお願いします。
「さて、状況はだいたい理解できたが、この廃坑をこのまま放置することはできないな。アルフォンス、どうしたらいいと思う?」
グィードがアルフォンスを試すように尋ねた。
「そうですね。まずは俺たちが発見した修練場のコボルトたちを殲滅しましょう。放っておけば、被害が拡大するのは目に見えていますから」
「そうだな」
グィードは短く答えた。
殲滅という言葉にレーナは軽い衝撃を受けたが、相手は魔物であるから仕方がないことなのだろうと、自分を納得させた。
ヒューゴは、この二日ばかりの経験によって磨かれた、自分の実力を発揮する機会が巡って来たと、高揚していた。
「鍛冶場の方はどうしましょう?」
ディオゲネスが尋ねた。
「そちらもコボルトたちを殲滅して、施設も完全に破壊するべきだろうな」
アルフォンスが淡々と答える。
「殲滅はともかく、施設を破壊するというのは、なかなか骨が折れることなんじゃないか?」
グィードが言った。
「そこはぜひとも、私にお任せください」
ディオゲネスが自信満々に答えた。
「それじゃあそっちは、ディオゲネスに任せよう」
アルフォンスは直ちに同意する。
ディオゲネスを信頼しているのだ。
「それでは、まずは修練場に急ぎましょうか」
ディオゲネスは、いつになく張り切っていた。
修練場に着く直前に、ディオゲネスは早くも、パーティー全体にエンチャント・ウェポンに加えて、素早さと膂力に対する強化魔法を付与した。
「さあ、行くぞ!敵に態勢を整える隙を与えるな!乱戦に持ち込んで各個撃破するんだ!」
グィードは言うが早いか、修練場の中心部に駆け込んだ。
「死神の大鎌・輪舞!!!」
グィードは最初から、最大火力の大技で戦闘を開始した。
黒い竜巻が修練場を駆け巡り、次々にコボルトたちを斬り裂き、消滅させていく。
コボルトたちはまだ、何が起こったのかさえ理解できていない様子であった。
グィードはコボルトたちにとって、まさに、突然降りかかった災厄そのものであった。
アルフォンスもまた、グィードに一瞬遅れて、修練場に飛び込む。
獣人化の必要はないと判断している。
「餓狼爪襲乱舞!!!」
アルフォンスの持つ大剣が暴風のように吹き荒れ、コボルトたちを巻き込み、斬り刻み、雲散霧消させる。
「でぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ヒューゴもアルフォンスに続いて戦場に飛び込み、次々に連撃を繰り返す。
ヒューゴの長剣は、エンチャント・ウェポンの効力によって、コボルトの鎧を斬り裂いた。
ディオゲネスもまた、ヒューゴと共に乱戦の中に飛び込み、近距離攻撃に特化した圧縮詠唱によるエアカッターを連発して、次々に敵を切り裂いていた。
今回、レーナの護衛はアーシェラの役目であった。
アーシェラはレーナを庇いながらも精霊たちを召喚した。
「風精霊よ!火蜥蜴よ!!」
各三体の精霊たちが召喚され、それぞれがペアになり、修練場の三方に展開する。
三組のペアの動きは、完全に同調しているようであった。
まず三体の火蜥蜴が炎を吹き出し、それに合わせて三体の風精霊がそれぞれ風を送り、炎を強化する。
対ウァサゴ戦において、グィードが考案した合体魔法を応用したものだった。
単体に対する火力では、あの爆炎に遠く及ばないが、群れをなす敵に対しては、こちらの方が効果的であった。
ぐぎゃぁぁぁぁあ!!!
多くのコボルトたちが、炎に巻かれて絶叫をあげる。
ほとんどのコボルトたちが、為す術もなく、次々と消滅させられていく。
しかし、その中にも例外が存在した。
その乱戦の中で、二十体ほどのコボルトたちが態勢を立て直し、統制の取れた反撃を開始したのだ。
その群れの中心には、一際背が高く、兜を被ったコボルトが立っていた。
その個体が、その群れの指揮官であることは明らかであった。
戦闘訓練を受けたコボルト、後にグィードは、その群れを兵士コボルトと呼んだ。そして、その指揮官を軍曹コボルトと。
また、その修練場には、更に強力な個体、将軍コボルトも存在したことが、すぐに明らかになった。
その個体は、他の個体よりも頭ひとつ背が高く、アルフォンスが持つのと同じ、大剣を携えていた。
そして、その将軍を取り囲むように、更に三体の軍曹が付き従っていた。
いち早く、態勢を立て直した兵士の群れに気づいたのは、グィードであった。
グィードは輪舞の回転を止め、その群れに向き直る。
「ほう、なかなか良くできた陣形だな」
その言葉を理解できたのかどうかは不明だが、群れは早くも形を変えつつあった。
兵士の群れは円型に陣を変化させて、グィードを取り囲む。
兵士たちの剣が、八方からグィードに襲い掛かる。
しかし、グィードはまず、身体を回旋させ、全ての斬撃を軽々と跳ね返した。
次瞬、グィードはまず正面の一体を斬り伏せる。
そのまま、左、右と、次々に敵を斬り払い、あっという間に陣形を切り崩してしまった。
「相手が悪かったな」
そう言うとグィードは、軍曹に向かって一直線に突っ込む。
二体の兵士が、盾を構えてその道を遮ろうとするが、魔法付与を受けたグィードの愛剣の前では、その盾も紙切れ同然に斬り裂かれてしまった。
二体の兵士が、同時に消滅する。
グィードはそのまま突進を続け、軍曹を兜ごと真っ二つに斬り割いた。
その頃ディオゲネスは、将軍に相対していた。
ディオゲネスはまず、対ウァサゴ戦において展開したのと同じ、空間遮断の結界を応用した、極小の結界を三つ同時に展開し、将軍を取り囲む三体の軍曹の動きを止めた。
結界はすべて、軍曹の頭部を覆っている。
その結界によって、三体の軍曹の頭部は、その空間に固定されるので、手足を動かすことはできても、一歩も前には進めないのである。
ディオゲネスは続けて、圧縮詠唱によるアイスランスを、三回連続して発動した。
三体の軍曹は、足下から突き出した氷の槍に貫かれ、即死した。
しかし将軍は怯むことなく、大剣を振振りかざして、ディオゲネスに襲い掛かる。
それをディオゲネスは、やはり極小の空間遮断結界で防ぐ。
将軍の大剣は、ディオゲネスに届く手前の空中で、結界に固定されていた。
将軍がどれほど力を込めても、大剣は一ミリも動かない。
これは便利な結界の使い方を編み出したものだと、ディオゲネスは、心の中で自画自讃している。
じつのところ、それはグィードのアイデアであったのだが、結界を極小化し、自由自在に操るのは、自分ならではの技能なのだ。
その戦いの最中、更に面白いアイデアが浮かんだので、ディオゲネスは試してみることにした。
大剣を包んだその結界に向けて、右手を翳し、動けと念じながら、その手をゆっくりと左右に動かしてみる。
すると結界は、ディオゲネスの手の動きに合わせて、左右に動いたのだ。
将軍は結界に引きずられるように、身体を左右に揺らした。
「なるほど、これは便利ですね」
将軍の顔が怒りと困惑に歪むが、どうすることもできない。
ディオゲネスが右手を降り下ろすと、結界が大剣ごと地面に引っ張られ、将軍は這いつくばる。
「実験は終了です。それでは」
そう言って、ディオゲネスは後ろを振り向き、すでに終結しつつある戦場を眺めながら、アイスランスを詠唱破棄によって発動した。
将軍は氷の槍に貫かれ、絶命した。
その断末魔の叫びが、修練場の戦闘の終結を告げる声となった。




