武装するコボルト
コボルトはやっぱり犬型なのでしょうか?敢えて描写していません。読者の皆さんのご想像にお任せします。
アルフォンスとアーシェラとディオゲネスの3人が廃坑の横穴を進んでいた。
「それにしてもコボルトたちは、街道で人間を待ち伏せして、いったい何を企んでいるんだろうな?」
アルフォンスがディオゲネスに意見を求める。
「さあ、魔物の考えることなんて、私にはさっぱり。と言いたいところですが、じつは思い当たることが一つあります。」
「ほう、それは興味深いな。ぜひ詳しく聞かせてくれ」
「偉大なるネズミの王の伝説には、こういう続きがあるんです。」
そう言ってディオゲネスは語り出した。
アーシェラも黙って、その話に耳を傾けている。
「偉大なるネズミの王による旧王都の幼児誘拐事件は、若き日の義賊王ディミトリアスの活躍によって解決しました。しかし、偉大なるネズミの王の暗躍は、それでは終わりませんでした。その後、偉大なるネズミの王は地下にあるコボルトの国へ行き、コボルトの王に自分の魔力を増大するために妖精の指輪を造るようにと依頼します。するとコボルトの王は、自分とコボルトの軍団を地上へ連れて行くことを条件として了承します。やがて妖精の指輪が完成すると、偉大なるネズミの王はコボルトの王と、その軍団を引きつれて地上に戻り、万魔殿を建設したと伝えられています」
万魔殿とは、創世神話において魔王の居城とされている城の名前であり、四百年前の魔王戦役の折には、やはり万魔殿と呼ばれる移動要塞が存在していたと言われている。
「ディオゲネス。おまえはいったい、そういう話をどこから仕入れているんだ?」
「私は昔から本の虫でしたからね。王都の王立図書館と賢者の学院に所蔵されている本には、一応全部、目を通しているんです。とは言え、それは表の所蔵に限りますが」
王立図書館にも、賢者の学院にも、それぞれに禁書室が設けられているというのは周知の事実であった。
恐らくディオゲネスの夢は、その禁書室の蔵書にも、すべて目を通すことであろうと、アルフォンスは想像した。
「話を続けても宜しいですか?」
「いや、話の続きは、また後に成りそうだ」
そう言って、アルフォンスは大剣を構えた。
コボルトの群れが現れた。
今度は五十体程の群れであり、先ほどの群れとは明らかに装備が異なっていた。
群れ全体が、まったく同じ金属製の鎧と金属製の盾を身に着けている。武器もまた揃いの長剣であった。
「精鋭部隊というところでしょうか?」
ディオゲネスは言いながら、両手を頭上に掲げている。
「光よ!我が敵を貫け!ライトニング・アロー!」
ディオゲネスの頭上に光球が出現し、そこからコボルトたちに光の矢が降り注ぐ。
しかし放たれた光の矢は、コボルトたちが持つ金属製の盾に、すべて防がれてしまった。
「ほう!」
ディオゲネスが感心したように声を上げる。
見るとアルフォンスの斬撃もまた、複数の同じ盾によって防がれていた。
コボルトたちの動きは非常に統制が取れており、その群れはあたかも、一体の生き物のようであった。
金属の鱗を持つ巨大な生き物。
とは言え、アルフォンスの斬撃に込められた膂力は凄まじく、致命傷に至らないまでも、数体のコボルトを群れから引き剥がすように、弾き飛ばしていた。
「火蜥蜴よ!」
そう呼び掛けてアーシェラが目を閉じ精神を集中すると、三体のサラマンダーが召喚された。
火蜥蜴たちはコボルトの群れに向かって、炎を吹き付けた。
コボルトの群れは、やはり統制された動きで炎を盾の壁で防いでいたが、炎は止まなかったので、やがて盾は赤く熱せられ、盾を構えるコボルトの腕が燃え上がった。
ぐぎゃぁぁぁぁあ!!
コボルトたちは堪らず、すでに焼けただれた盾を投げ捨てた。
すかさず、ディオゲネスが詠唱を始める。
「光よ!我が敵を貫け!ライトニング・アロー!」
今度こそ、盾を失ったコボルトたちの鎧に覆われていない部分、頭や首を、光の矢が貫いた。
矢を受けたコボルトたちは、断末魔の叫びを上げて消滅する。
それは、群れのほんの一部に起こったことであったが、群れ全体の統制は、もはや崩れつつあった。
「うぉぉぉりゃあ!」
アルフォンスが大剣を縦横無尽に振り回し、壊走するコボルトたちを次々に斬り捨てる。
アーシェラもまた細身の剣で、コボルトたちの盾と鎧の隙間を突き刺し、斬り裂く。
「わが魔力よ!盟友の剣に宿れ!エンチャント・ウェポン!」
ディオゲネスが詠唱すると、アルフォンスの大剣とアーシェラの細身の剣が青白い光に包まれた。
「最初からこうしても良かったのですが、どうしても私は派手好きなもので」
ディオゲネスが独り言のようにつぶやいた。
光に包まれた二人の武器は、コボルトたちの鎧を軽々と切り裂いていた。
もはや大勢は決していた。
グィードとヒューゴとレーナ、そしてウァサゴが廃坑の横穴を進んでいた。
「ねえグィード。コボルトどもは、いったいなんのために街道で冒険者を待ち伏せしたりしていたんだろう?」
ヒューゴが先行するグィードの背中を見ながら尋ねた。
「そうだな。ディオゲネスあたりに聞けば、何か心当たりがあるかも知れねぇな」
「そっかぁ、ディオゲネスは本当に物知りだもんね」
「ああ、あいつの職業、探求者ってのはちょっと特殊でな、ただ魔法を使って戦うだけじゃなく、古文書を解析したり、初見の品物を鑑定したり、他にもいろいろ便利な能力を持っていやがるんだ。中には既存の魔法を改良したり、まったく新しい魔法を開発しちまう奴までいる。あいつはまだまだ経験不足だが、そのうち必ずそうなる」
「ディオゲネスって、見かけによらず凄い人なのね」
レーナが感心したように言った。
「ああ、見た目は良家のお坊っちゃんって感じだが、あいつはじつは凄い奴なんだ」
グィードが髯を撫でながら答える。
「まあ、凄いと言えば、あの三人はみんな凄い冒険者なんだけどね」
ヒューゴも嬉しそうに、そう付け加えた。
本当に不思議なものだと、グィードは考えていた。
あの三人がノエルにやって来なければ、ウァサゴと決着を着けようなどと、自分は考えもしなかったであろう。
そして、もしウァサゴとの決着がついていなければ、自分がこうして、ヒューゴと一緒に旅をすることなど、決してなかったのだ。
そう考えると、創造主と聖霊の導きとは、本当に不思議なものだと、グィードは改めて思った。
そして、信仰深かったスカーレットのことを思い出していた。
「いいグィード。祈り続ければ、創造主と聖霊は必ず答えて下さる。だからあなたも、私のためにいつも祈っていてね」
スカーレットは、ことあるごとにそう言って、グィードに祈るように求めた。
だが、グィードは祈らなかった。
祈ることよりも行動することの方が重要だと、グィードは考えていたのだ。
そしてその考えは、今も変わらない。
ただ、自分たちちっぽけな人間の運命を導く、大いなる存在が実在することを、今はグィードも認めていた。
「スカーレット、無事でいてくれよ」
グィードは心の中でつぶやいた。
スカーレットはよく、こうも言っていたのを思い出す。
「グィード、心のつぶやきもまた、一つの祈りなのよ」
グィードは髯を撫でながら、微笑んでいた。




