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コボルトの住む廃坑

今回初めて、シルフの姿を描写してみました。果たしてそれでよかったのかどうか。

よろしければ感想をお聞かせください。

 ヒューゴたち一行は、グレンナからオーデンセへと続く街道を、三頭の馬に分乗して旅を続けていた。

 その途中、グレンナで出会った騎士(ナイト)ハインツをリーダーとする四人の冒険者が、コボルトに襲撃されているのに出くわした。

 その襲撃から、コボルトたちの住処がすぐ近くにあることを推察したグィードの提案によって、ヒューゴたちは今、コボルトたちの住処があると予想される街道北の廃坑に来ていた。

 案内としてハインツたち四人も同行している。

 コボルトは、大陸(アルヴァニア)全土に広く生息が確認されている低級の魔物であり、ゴブリンやオークとともに邪妖精(ウィキッドフェアリー)に分類される三種族の中でも、最も小型で力の弱い種族であると見做されている。

 とは言え、コボルトたちは金属の加工に長けており、一般的なゴブリンやオークよりも優れた金属の装備を身につけているため、必ずしも危険性が低いとは言えない。

 また、中には金属加工の過程で発生する鉱毒を武器に塗り込んでいる個体まで確認されており、最も狡猾な邪妖精(ウィキッドフェアリー)として、初級の冒険者たちからは恐れられている存在である。

 そんなコボルトの住処が街道の近くにあり、しかも積極的に人間を襲うという事態を放置することはできない。

 本来であれば冒険者ギルドに報告し、正式に討伐隊を組織して対応すべき案件である。

 しかしそうなれば、問題解決までに少なくとも一週間、長ければ一か月以上を要する可能性もあった。

 それまで、街道の危険を放置することはできない。

 それがグィードの考えであった。

 「案内ご苦労さん。ハインツたちは引き返して、念のためこのことをオーデンセのギルドに報告してくれ」

 グィードがハインツを振り返って、そう言った。

 グィードたちの実力を知り、また自分たちが足手まといであることを知っているハインツたちはそれを受け入れた。

 「承知しました。それじゃあ皆さん、くれぐれもお気をつけて」

 代表してハインツがそうあいさつを口にすると、四人は馬に乗って一路オーデンセに向けて旅立った。

 四人を見送ると、一行はまず馬を廃坑の入口近くに放置された、古いトロッコにロープでつないだ。

 必要最小限の装備以外の荷物は、トロッコの荷台に残すことにする。

 「ようし、それじゃあ早速、廃坑の探索を始めるとするか。ディオゲネス、まずはパーティー全員に猫の目(キャッツアイ)を頼む」

 「承知しました」

 そう答えて、ディオゲネスが猫の目(キャッツアイ)呪文(スペル)を詠唱する。

 じつのところ、洞窟などを探索するために冒険者に暗視能力を付与する猫の目(キャッツアイ)は、最初級の基礎魔法(コモンマジック)であり、元盗賊であるグィードにも扱える魔法であったが、冒険の初心者であるレーナに冒険者の職業(ジョブ)による役割(ロール)の違いを意識させるために、グィードは敢えてディオゲネスに指示を出したのであった。

 またヒューゴは、ゴブリンの迷宮の時にも、巨大ネズミの洞窟の時にも、ディオゲネスが指示など無くとも、以心伝心でパーティーに猫の目(キャッツアイ)を施すのを経験していた。

 レーナは廃坑に足を踏み入れた瞬間に、猫の目(キャッツアイ)の効果を実感した。

 普通であれば暗くて何も見えないはずである廃坑の奥の景色が、まるで松明に照らされているかのようにはっきりと見えたのである。

 レーナは、冒険者とは本当にすごい存在だと、改めて感心した。

 その時、アルフォンスとともに先頭を歩いていたグィードが振り返って、レーナのすぐ横を歩くヒューゴに声を掛けた。

 「ヒューゴ、レーナのことは任せたぞ。おまえが絶対に守ってやるんだ!」

 「言われなくても、そのつもりだよ!」

 ヒューゴが快活に答える。

 レーナはヒューゴを頼もしく思う。

 レーナとヒューゴの後ろにはアーシェラとディオゲネスが並んでいる。

 そしてその後ろには、ウァサゴがニヤニヤしながら歩いている。

 「思春期ですねぇ」

 ヒューゴが振り返ってウァサゴを睨みつける。

 グレンナからの旅の休憩中や先ほどの食事の時にも、ウァサゴとヒューゴは、ことあるごとにそのやり取りを繰り返していたので、レーナはもう、そのやり取りには慣れてしまっていた。

 「さあ、どうやら近くに魔物の気配があるようだ。みんな気を引き締めろよ」

 アルフォンスの言葉は、おもにヒューゴとレーナに向けられた言葉であった。

 その二人以外の者は皆、すでにそのことに気づいているはずであったからだ。

 それから数秒もしないうちに、廃坑の奥から二十体ほどのコボルトの群れが現れた。

 そのおぞましい姿を間近に見て、レーナはそこが危険な魔物の住む迷宮(ダンジョン)であることを改めて実感した。

 周りの冒険者たちは落ち着いたものであった。

 グィードとアルフォンスはそれぞれ剣を抜き、次々に魔物たちを切り伏せていた。

 その二人の活躍によって、早くも戦闘は終結するかに思われた。

 しかしその時、辛くも二人の剣をくぐり抜けた一体が、レーナに向かって突進してきた。

 レーナは()(すべ)もなく立ち尽くす。

 その時、ヒューゴがレーナの目の前に飛び出し、剣の一閃でコボルトを斬り伏せた。

 「レーナ、大丈夫か?」

 「うん、ありがとうヒューゴ」

 そう二人が会話を交わしている間に、その戦闘は終結していた。

 「これで間違いないみたいだな」

 グィードが言った。

 つまり、街道に出没したコボルトどもの住処がこの廃坑であるということが、これで確定したのだ。

 「では、どんどん行きましょう」

 ディオゲネスが大声で呼びかけた。

 この戦闘では、ディオゲネスの出番がまったくなかったのである。

 それは、アーシェラにしてみたところで同じであったが、アーシェラはディオゲネスほど好戦的ではなかったので、自分の出番がなければ、それはそれでよいことだと考えていた。

 一行がさらに廃坑を進んでいくと、五つの横穴が並ぶ半球(ドーム)状の開けた空間に出た。

 「さて、どうしたもんかな?」

 グィードがアルフォンスに尋ねる。

 パーティーのリーダーはアルフォンスであると、グィードは認めているのだ。

 「そうですね。ここは二手に分かれて探索しましょうか?」

 「ああ、そうだな。その方が効率がいい」

 「まず一組はグィードとヒューゴとレーナ、もう一組は俺とアーシェラとディオゲネスでどうでしょう?」

 ウァサゴは当然、ヒューゴに着いて行くであろうことをアルフォンスは見越している。

 「順当だな」

 「それでは、グィードたちは一番左の穴を進んでください」

 「俺たちは一番右に行きます。残りの穴は、アーシェラの風精霊(シルフ)にお願いできるか?」

 「了解したわ」

 アーシェラは答えると同時に、目を閉じて精神を集中する。

 「風精霊(シルフ)よ!」

 アーシェラの周囲に、どこからともなく三体の風精霊(シルフ)が現れた。

 レーナは初めて風精霊(シルフ)というものを見た。

 ドレスを(まと)った美しい人間の女性のような姿をしてるが、その身体は透き通っており、足はなく宙に浮いている。

 また三体の風精霊(シルフ)は皆、まったく同じ体型、同じ顔をしており、個として識別しうる特徴を一切持っていなかった。

 風精霊(シルフ)たちは、アーシェラに対して黙って頷くと静かに姿を消した。

 それぞれの横穴に向って、優しい風が吹いて行くのをレーナは感じた。

 後にアーシェラから聞いた説明によれば、精霊(エレメント)たちは本来定まった姿は持たず、召喚者のイメージを具現化した姿と、疑似人格を持ってこの世界に現われ、召喚者の意図に従って自らが司る自然現象や原理を行使するのだという。

 レーナには、その説明を完全に理解することはできなかったが、アーシェラの風精霊(シルフ)を初めて見た時、恐れではなく、優しさを感じたということだけは伝えた。

 「さあ、では私たちも行きましょうか」

 そう言って張り切ったのはディオゲネスであった。

 「横穴の探索が終了するか、何かあればこの部屋に引き返して、お互いを待つ。残りの穴は全員が揃ってから、風精霊(シルフ)の報告をもとにどうするかを決めることにしよう」

 アルフォンスがそう方針を告げた。

 「了解だ。それじゃ、おまえらも気を付けてな」

 「グィードたちも」

 こうして一行は、二手に分かれてコボルトたちの住む廃坑を、探索することになった。

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