幕間の物語 ~使者の派遣~
幕間なのでやや短めです。
一応いくつか目的があって書いていますが、もしかすると退屈かもしれません。
申し訳ありません。
ご意見やコメントをお待ちしています。
ヒューゴたちがグレンナを出発するおよそ三か月前、アルフォンスとアーシェラとディオゲネスの三人は王都の冒険者ギルド本部の応接室に呼び出されていた。
応接室の調度はみな高級そうで、今三人が座る革張りの長椅子も座り心地が良かった。
「おまえたち三人の噂はよく聞いている。かなり腕が立つらしいじゃないか」
正面に座る顎の下に脂肪を蓄えた中年の男が、こちらを値踏みをするような目つきで言った。
男の名前はアルザスという。
もとは一介の冒険者であったが、現在は冒険者ギルドの下部組織である盗賊ギルドのギルドマスター兼冒険者ギルドの評議員の一人である。
アルフォンスがアルザスと直接会うのは、その日が初めてであったが、これまでにアルザスについての噂は聞いており、もともとあまり好感は持っていなかった。
噂によれば、アルザスは冒険者としての腕はいまいちであったが、商才に長け、裏でかなり汚い商売をしてギルドに多額の上納金を支払い、現在の地位を金で買ったのだと言われていた。
「それほどでもありません。それでご用件は?」
アルフォンスは短く尋ねる。
「おまえたちの腕を見込んで、一つ重要な仕事を任せたいのだ」
アルザスはまるで本来の軽薄さを隠そうとするかのように、重々しく口を開いた。
「やはりそうでしたか、そうだと思いました」
冒険者を呼び出しているのだから他に用件のあるはずもない。
アルフォンスは、もったいぶらずに用件だけを早く言ってくれと心の中で悪態をついた。
「うむ、じつは大陸の北東の大森林にノエルという小さな村があるのだが」
その村の名前は初耳であった。
「そうでしたか、それは知りませんでした」
アルフォンスは、なるべく自分の不機嫌を隠そうと努力はしたが成功しているとは思えなかった。
「その村に、昔、死の天使と呼ばれて恐れられた冒険者が住んでいるはずだ」
死の天使の名はアルフォンスも聞いたことがあった。
だが死の天使と呼ばれた冒険者は、すでに死んでいるはずであった。
確かある任務の途中で巨人の国へ行くことになり、そこで巨人の王の怒りを被り雷に打たれて死んだという、如何にも作り話めいた話であったが、それから死の天使の名前が表舞台から消えたのは事実であったらしい。
それは二十年ほど前のことだと、昔、先輩の冒険者から聞いたことがあった。
その死の天使にギルドが今さらどんな用件があるというのだろうか。
アルフォンスはそう疑問に思ったが、口にしたのは別の言葉であった。
「その死の天使に会って、俺たちは何をすれば良いんですか?」
「ただその男をここまで連れてくれば良い」
「もし死の天使が同意しなければ?」
「そのために腕の立つおまたちに依頼しているのだ」
力づくでもということだろうが、相手が本当に死の天使ならば、自分たちではそれは難しいだろうとアルフォンスは思った。
「断る権利はあるんですか?」
「ギルドに睨まれたくなければ、受けた方がいい」
それだけ言うと、アルザスは黙った。
もう他に言うことはない、ということなのだろう。
「わかりました。受けましょう」
アルザスが満足するような笑顔になる。
「報酬は前渡しで金貨二千枚、無事依頼を達成できれば、さらに二千枚を支払おう」
金貨二千枚と言えば、王都の商業区に家一軒を建てられる金額である。
ディオゲネスとアーシェラも、その金額には驚きを隠せなかった。
その反応を感じ取り、再びアルザスは満足そうな顔をする。
「ところで、ここから大森林まではどれだけ急いでも片道で三か月はかかりますが、依頼の期限は?」
アルフォンスが冷静に尋ねる。
「期限は特に定めない。ただ可能な限り速やかに、とだけ言っておこう」
そういうことか、とアルフォンスは納得した。
ディオゲネスもアーシェラも事情を察して互いに目配せをした。
つまり、ギルドはアルフォンスたちを完全には信頼していないのだ。
もしある程度の期間が経過しても彼らが帰らなければ、他の者に同じ依頼をするつもりなのだろう。
いずれにせよ、自分たちにできることは一つしかない。
「承知しました」
「では早速準備をして、速やかに出発したまえ。成功を祈っているぞ」
そう言い残すと、アルザスは秘書と思われる若い女にいくつか指示を出して退室した。
女はアルフォンスたちの目の前に置かれた豪奢なテーブルの上に、金貨の詰まった皮袋と貸金庫のものと思われる鍵を一つ置いた。
「皮袋に二百枚、残りはギルドの貸金庫にございます」
アルフォンスは皮袋と鍵を受け取ると、黙って立ち上がった。
アーシェラとディオゲネスがそれに続く。
応接室を出た廊下を歩きながらアルフォンスが二人に語り掛ける。
「どうやら長い旅になりそうだな」
「そうですね」
ディオゲネスが不敵に笑いながら同意する。
「そろそろ王都の生活にも飽きて来たところだったから、ちょうどよかったわ」
アーシェラも、どこか清々したように答える。
この時三人はまだ、その旅の先に待つ数奇な運命を知る由もなかった。




