オーデンセへの旅立ち
やっと当初の予定の通りオーデンセへ向けて出発することができました。
4人の卓越した冒険者たちの中でヒューゴとレーナという少年と少女がこれからどのような成長を見せるのか、その辺りを丁寧に描ければと思っていますがどうなることやら。
皆さんの感想やコメントをお待ちしております。
宴会が終わりグィードたち一行が赤い雀へ帰ると、レーナとダーグとアーデラを含めて早速レーナの旅の同行についての話し合いが始まった。
まずはアルフォンスが口を開いた。
「第一に、俺たちの旅の目的は王都の冒険者ギルド本部までグィードたち親子を案内することだが、ギルドはそれに期限を定めなかった。少し寄り道にはなるが、神聖都市までレーナを連れて行くことは可能だ」
続いて発言したのはグィードだった。
「俺とヒューゴの目的は、あくまでもスカーレットを見つけ出すことだ。アルフォンスたちの顔を立てるために、まず王都には向かうが、その後どうするかは、ギルドの出方を見てから決める。なんならその後でレーナをグレンナまで安全に送り届けてやってもいい。いや、むしろダーグとアーデラが許可するなら、最優先でそうさせてもらう!」
ヒューゴとレーナは、ただ大人たちの話し合いを見守っていた。
「グィードがそこまで言ってくれるなら、俺はなんの文句もないが、」
ダーグはそう言って、アーデラの方を見た。
「私は初めから、そうなるのが一番だって思っていたから、願ってもない申し出だわ」
アーデラがすっきりとした表情で言った。
「初めから」とは、いったいいつからのことなのかとレーナはふと考えていた。
それから、「たぶん母さんは、かなりまえから私の気持ちに気づいていたのだろう。やっぱり母さんにはかなわないなぁ」と心の中でつぶやいた。
そういうわけで、話は纏まった。
その時、これまでいるのかいないのか、もはや誰も気にしていなかったウァサゴが突然口を開いた。
「ヒューゴ、思春期ですねぇ」
ヒューゴは顔を赤くしてウァサゴを睨みつけ、レーナはやはり顔を赤くして俯き、それ以外の者たちは一斉に吹き出した。
翌朝、洞窟から救出された村人以外の者たちは、それぞれの村や町へ帰って行った。
一緒に救出された冒険者たちが護衛として着いて行くグループもあった。
レーナを一行に加えたグィードたちは、当初の予定通りオーデンセへ向けて旅立つ準備のために、宿屋兼酒場である赤い狐にやって来ていた。
じつはアルフォンスたちは三日前にオーデンセから、それぞれ馬に乗ってグレンナにやって来て、その馬を赤い狐の主人に預けていた。
一行は話し合い、その三頭の馬に分乗して旅立つことになったが、レーナには一つの疑問があった。
一頭はグィードとヒューゴ、もう一頭にはアルフォンスとディオゲネス、そして最後の一頭にはアーシェラとレーナが乗馬することに決まっていた。
「あのウァサゴさんはどうするんですか?」
「ああ、あいつのことは気にしなくても大丈夫だ。勝手について来るから」
グィードはそう答えた。
「勝手に、そうなんだぁ」
レーナの疑問は解決されなかったが、グィードが言うなら大丈夫なのだろうと納得した。
「それからウァサゴのやつを含めて、パーティー内では全員呼び捨てでいいぞ。もう俺たちは仲間なんだからな。家族みたいなものだからな」
グィードはあっけらかんと言った。
「よろしくな、レーナ」とアルフォンス。
「よろしく、レーナ」とアーシェラ。
「よろしくお願いします。淑女レーナ」とディオゲネス。
「レーナ、改めてよろしくな」とヒューゴ。
「ええ、わかったわ!こちらこそ、みんなよろしく!」とレーナ。
「私のことはさん付けのままでも構いませんよ。」
ウァサゴがそう言った瞬間、グィードが黙ってウァサゴの後頭部を思い切り平手で叩いた。
「痛いじゃないですか、グィード。私はあなたの義父ですよ」
と意味不明なことを言っていた。
ともかく、赤い狐で馬を引き取った一行は、一端赤い雀に戻り、いよいよダーグとアーデラに別れのあいさつをすることにした。
ダーグは名残惜しそうに、いつまでもレーナの手を握って別れを惜しんでいたが、アーデラはあっさりしたものだった。
「それじゃあレーナ、気をつけてね。グィード、ヒューゴ、レーナのことは頼んだわよ。冒険者の皆さんもよろしくお願いします」
それだけを言うと、レーナの額に別れのキスをして、いつものように教会の務めへと出かけて行った。
そうしてダーグとアーデラに別れを告げると、一行は一路オーデンセを目指して旅立った。
グィードたち一行を乗せた三頭の栗毛馬が、街道を西へと走っていた。
その人馬の一群に並走する形で、奇妙なものが動いていた。
それは黒い人の形をしていたが人ではあり得なかった。
なぜならば、それは宙に浮いていたからである。
地上からおよそ一メートルほど足を浮かせ、どのような推力によるのかは不明であるが、直立姿勢のまま馬と同じ速度で移動している。
精霊のウァサゴであった。
ウァサゴはその気になれば、そんな方法をとらずとも一行に着いていくことは可能であった。
もっと言えば、その気になれば巨大な鳥に変身して一行を瞬く間にオーデンセに運ぶことも、あるいは王都までも数時間も掛からずに運ぶことも可能であった。
しかし、そんなことをしてはヒューゴとの契約を果すことはできない。
自分はあくまでも観察者であり、今のところは助言者に留まるべきであるとウァサゴは考えていた。
ヒューゴにもいずれ、直接ウァサゴの助力を必要とする大いなる試練は訪れるだろうとウァサゴは予感していた。しかし、それはまだまだ先のことである。
今はグィードやその他の冒険者たちに任せて置けば良いとウァサゴは判断していた。
今回このような移動をして見せたのはレーナが自分の正体を知ったらどんな反応をするだろうかと興味を持ったからに過ぎない。
言わば、ウァサゴは自己紹介のつもりで、そのような奇妙な飛行を披露していたのである。
案の定、レーナは飛行するウァサゴの姿を見てまず自分の目を疑い、見間違いでは無いことに気づくと同乗者であるアーシェラにウァサゴは何者であるのかと尋ねた。
「ああ、だれも説明していなかったのね。彼、そう呼んで良いのかはわからないけど、とにかくウァサゴは精霊であって人間ではないの」
レーナはそれを聞いて、文字通り目を丸くした。
レーナがもう一度ウァサゴを見ると、レーナに微笑みかけながら優雅に手を振っていた。
レーナも精霊という名前は聞いたことがあった。
しかしそれは、創世神話やおとぎ話の中での話であった。
まさか精霊が実在しているとは思っても見なかった。
じつのことを言えば、レーナはエルフと接するのもアーシェラが初めてであった。
時々赤い雀を利用する冒険者たちから、冒険者として活躍する少数のエルフたちがいることを聞いたことはあったが、そもそも少数の種族であり、しかも多くのエルフたちは人間社会から距離を置くことが常であったので、グレンナのような田舎の村にまでエルフの冒険者がやった来るなどということはほとんどないのだ。
だから、昨日洞窟のなかで初めてアーシェラを見たとき、彼女がエルフだとはレーナは気がつかなかった。
ただ、なんて美しい人だろうかと思っていた。
村に帰ってから、グィードから彼女がエルフだと聞いたとき、道理で人間とは思えないほど美しいわけだと納得した。
確かに耳の先端が、やや尖っているようにも思うが、顔全体のバランスが整っているのでそれはあまり目立たない。
それよりは美しい銀髪と翡翠色の目が、人間離れした雰囲気を際立たせていた。
そんなエルフのアーシェラが、そう言うのだからウァサゴは正真正銘の精霊なのだろう。
そう言われれば、ウァサゴの外見も人間離れしている。
ディオゲネスも男にしては美しい顔をしているが、ウァサゴの美しさはどこか魔性を思わせる雰囲気がある。
また髪と目の黒さも、人間のそれではない。
烏の濡れ羽色という言葉があるがウァサゴの髪色と目の色は、それよりも更に濃い闇色とも言うべき黒さであった。
とは言えアーシェラによれば、あれはウァサゴの本当の姿ではなくウァサゴがイメージする普通の人間に化けているだけなのだろうという。
そしてウァサゴは、本来は高度な霊的な存在であって定まった姿を持たず、逆説的にはどのような姿にもなることができるということであった。
ヒューゴはいつの間に、そんなとんでもない存在と一緒に旅をするようになったのだろうかと、レーナは不思議に思うと同時に寂しさを味わった。
また、ヒューゴはいつか自分の手の届かない所に行ってしまうのではないかという恐れも、同時に感じていた。
その時、先頭を走る馬の背からヒューゴが振り返ってレーナに声を掛けた。
「どうだい?レーナ、旅を楽しんでいるかい?」
レーナはそれに精一杯の笑顔で答えた。
「ええ、とっても!」
ヒューゴが私の目の前を走っていて、私はそのあとを追っている。
昔から何も変わらない。
今はこれでいいのだとレーナは自分に言い聞かせた。
私の冒険は今始まったばかりなのだ。
レーナは心の中で祈りをささげた。
どうかこの冒険の上に、創造主と聖霊の豊かな守りと祝福があらんことを。




