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グレイトキングラットの行進

 グレイトキングラットという名前はロックバンド、QUEENの同名曲へのオマージュです。QUEEN、いいですよね。QUEENを聴きながら楽しめる小説を目指して?これからもしばしばオマジュり?たいと思っていますのでよろしくお願いします。

 バジリスクの断末魔の叫びを聞きつけて、洞窟の奥から巨大ネズミたちが殺到してきた。

 ハインツたちの証言通りネズミたちは大きかった。

 ゴブリンやコボルトたちよりも一回りは大きい。

 オークと同等か、それ以上ある個体もいた。

 「やれやれ、結局こうなるんだな」

 グィードはまだ、(ブラックファントム)を収めていなかった。

 アルフォンスもまた、そうだった。

 もはやパーティー全体の隠形は解かれており、風精霊(シルフ)による消音も解除されていた。

 残された道は全力で戦うのみであった。

 望むところだ!と声には出さずともパーティー全員が考えているのがグィードには解った。


 良いパーティーだと、ウァサゴは考えていた。

 ウァサゴは基本的に自分がパーティーの一員であるとは考えていなかった。自分は観察者であり道化師、狂言回しだと考えていた。

 ヒューゴとの契約は果たす。ただそれには自分のやり方があるし、期限の限られた契約でもない。

 人間の一生など、永遠の存在であるウァサゴにとってはほんの一瞬の出来事に過ぎない。しかしそれは、時として驚くほど美しい一瞬であることをウァサゴは知っていた。

 その美しい一瞬に付き合ってみるのも悪くはないとウァサゴは考えていた。

 巨大ネズミたちの群に、まず飛び込んだのはアルフォンスであった。

 いつでも真っ先に最も危険な役割を担おうとするアルフォンスは、生まれもってリーダーとしての資質を備えていると言えた。

 グィードは常人を遥かに凌ぐ身体能力と、冒険者としての圧倒的な経験値を有していた。

 それでいて老成円熟であるとか泰然自若といった雰囲気からはほど遠く、常に危険と冒険を好む性質であった。

 言うなればグィードはトリックスターなのだ。

 ヒューゴはいずれ間違いなく英雄と呼ばれる器であると、ウァサゴは確信していた。ただ今は原石に過ぎない。それを磨くのが自らの役目であるとウァサゴは理解していた。

 エルフのアーシェラの底は、まだ見えていない。ただ自分と同様、人間の儚さの中に現される美に魅了されているのではないかとウァサゴは想像していた。

 ディオゲネスはなかなかに興味深い人物であった。

 探求者(シーカー)という職業(ジョブ)自体がかなり稀少なものであるが、ウァサゴがこれまで出会った探求者(シーカー)たちは皆、後に固有職(ユニークジョブ)を持つに至っていた。

 そして、固有職(ユニークジョブ)の持ち主の多くは、この世界(ザラトゥストラ)の歴史に大きな変革をもたらす者であると言われている。

 しばらくは退屈をせずに済みそうだと、ウァサゴはほくそ笑んだ。

 

 巨大ネズミたちの群れは恐らく百体を越えていた。

 百体の魔物と五人の戦い、普通であれば絶望的である。

 しかし今回は違った。絶望するのは巨大ネズミたちの方であった。

 アルフォンスは戦闘開始直後に獣人化(メタモルフォーゼ)していた。

 グァルルルルルルゥゥゥ!!!

 人狼(アルフォンス)は雄叫びをあげて巨大ネズミたちを蹴散らしていた。

 右手で軽々と大剣を振るい、爪で引き裂き、噛みついていた。

 グィードは死神の大鎌(デスサイズ)を縦横無尽に振り回していた。

 アーシェラは三体の風精霊(シルフ)と共に、舞うように細身の剣(レイピア)を駆使してネズミたちに死を振り撒いていた。

 ディオゲネスはパーティー全体に強化魔法(バフ)を施しながらライトニングアローを連発していた。

 そしてヒューゴは、習得したての連撃を立て続けに放って、しっかりパーティーに貢献していた。

 単純な力押しの戦闘であった。

 しかし、このような対集団戦においては、それこそが必勝パターンなのであった。

 巨大ネズミたちは、瞬く間にその数を減らしていた。

 その時、巨大ネズミたちの様子が突然変わった。

 ちゅちゅっ!!

 チュチュチュッ!!!

 ヒューゴたちへの攻撃を辞め、洞窟の両側の壁際に整列して身を屈めた。

 それはあたかも、王の前に(ひざまず)いて道を開ける(しもべ)たちのようであった。

 ヒューゴらが(しば)し様子を見ていると、背後に更に多くの巨大ネズミたちを引き連れた、他のネズミたちとは比べ物にならないほど巨大な、しかも歪な形をしたネズミが洞窟の奥の暗闇から姿を現すところであった。

 ヒューゴはその姿を見て、一瞬ゾッとした。

 その姿が歪に見えたのは、その一際(ひときわ)巨大なネズミには頭が複数あったからであった。

 一、二、三、四、、、。 

 そのネズミには頭が七つあった。

 「伝説の通りですね」

 ディオゲネスが興味深げにつぶやいた。

 「偉大なるネズミの王(グレイトキングラット)か」

 グィードは髯を触りながら、不敵に笑った。

 「まさか、実在していたとはな」

 そう言いながら、アルフォンスは獣人化(メタモルフォーゼ)を解いた。

 その声に恐れや驚きは感じられなかった。

 突然、空気を震わす声ではなく、ヒューゴたち一人ひとりの頭の中に直接響く声が聞こえた。

 「我は偉大なる魔王(アルヴァーン)様の道を備える者。下等な人間どもよ、(ひざまず)け」

 「下等な人間どもと来たか、面白いじゃねえか。本当に下等かどうか試してみるか?」

 グィードが挑発するように言う。

 「試すまでもないこと。おまえたちは我らの餌に過ぎない」

 「その餌に、さんざん仲間がやられている気分はどうなんだ?」

 「だから下等だと言うのだ。我らにとっては消滅さえ魔王(アルヴァーン)様への奉仕なのだ。自らの命を惜しむものなど一人もおらん。」

 「魔物が一人とは面白い言い種だ。俺たちはおまえらを一体二体と数える。おまえらには魂もないんだろう?」

 グィードは挑発を止めない。

 「魂?魂など我らは知らぬ。ただ我らの命は魔王(アルヴァーン)様から頂いたものだ。使い終われば魔王(アルヴァーン)様にお返しする」

 興味深い話だと、ディオゲネスは感じていた。

 「ところで質問なんだが、おまえらは人間様を攫って、いったいなにを(たくら)んでやがるんだ?」

 「おまえたちに答える(いわ)れはない。また答えたとしても理解はできまい」

 「そんなことは話してみなけりゃわかんねぇだろうが、試しに言ってみな」

 「くどい!我らは話をしに来たのではない。おまえたちを粛清(しゅくせい)に来たのだ」

 「粛清にねぇ、そんなこと本気でできると思っている訳じゃないだろうなぁ?」

 グィードはまた、髯を撫で始めていた。

 「お話しは終わったかしら?」

 珍しくアーシェラも挑戦的であった。

 「大人しく降服していれば、楽に死なせてやったものを」

 偉大なるネズミの王(グレイトキングラット)が両脇に控える他のネズミよりも頭ひとつ大きい二体のネズミに目配せしながら言った。とは言ってもすべてが頭に直接響く声であったのだが。

 「行け!愚かな人間どもを皆殺しにせよ!」 

 偉大なるネズミの王(グレイトキングラット)に率いられてやって来たネズミは、恐らく千体を越えていた。

 流石にまともに戦っては勝ち目はなかった。

 「ディオゲネス、結界を張れ!前ほど強力なやつでなくていい!とにかく物理結界を張ってやつらの足留めを頼む!」

 グィードが素早く指示を出す。

 「承知しました」

 「アーシェラは風精霊(シルフ)を使って、今度は外からの音を防いでくれ!」

 「わかったわ!」

 「アルフォンスは俺と一緒に、とにかく第一波を押し返すぞ!」

 「任せてくれ!」

 「ヒューゴ、おまえは先に、あの左の通路を通って村人たちの所へ行け!!」

 「わかった!」

 「ウァサゴ、おまえもたまには手を貸せ!ヒューゴと一緒に行くんだ!」

 「それは当然のことです」

 ウァサゴだけがまったく緊張していなかった。

 「アルフォンス!行くぞ!!」

 「おうっ!」

 「死神の大鎌(デスサイズ)交響曲(シンフォニー)!!!」

 その時、グィードの身体が四人に分かれた。

 実際には、超高速移動と静止を繰り返すことによって生まれる残像であったのだが、それを目撃している誰もが、実際に四人のグィードが存在しているように錯覚した。

 四人のグィードは、それぞれに巨大化して死神の大鎌(デスサイズ)と化した(ブラックファントム)を振るって巨大ネズミたちを斬り裂き、押し返していた。

 アルフォンスは再び獣人化(メタモルフォーゼ)すると、大剣(クレイモア)を両手持ちにして、力の限りネズミたちを薙ぎ払った。

 なかには大剣(クレイモア)の発する風圧だけで吹き飛ばされているものもあった。

 「よし!アルフォンス、潮時(しおどき)だ!」

 そう言うと、四人のグィードは同時に腰の革袋から、ちょうど掌に隠れるほどの大きさの黒い玉を取り出すとネズミの群れ目掛けて投げつけた!

 バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!

 突然、耳を(つんざ)くような爆音と閃光が連続して起こった。そして一瞬遅れて大量の黒い煙が辺り一面を覆う。

 それは煙玉(けむりだま)であった。

 アルフォンスも一瞬前にグィードの意図を汲み取り、すでにディオゲネスが展開した結界の向こう側に一目散に退却していた。

 グィードはアルフォンスよりも鮮やかに、すでに退却を開始していた。

 グィードは元凄腕の盗賊であったから、退却においてグィードの右に出る者はこのパーティーにはいなかった。

 いや恐らく、大陸(アルヴァニア)中を探してもグィードよりも鮮やかに退却する者は二人といないであろうと思われた。

 煙玉はグィードの特別製であって、様々な香辛料や麻痺性の神経毒を含んでいた。

 その煙を僅かでも吸い込んだものは死ぬことは無いにせよ、どのような生き物も一時的に、あらゆる行動が不能になることはまず間違いないことであった。

 ディオゲネスはその事情をいち早く理解し、巨大ネズミたちに同情したほどであった。

 結界と防音は煙玉の効果からパーティーを守るためのものであったのだ。

 一行はそそくさとヒューゴとウァサゴの後を追った。

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