英雄のパーティー
投稿済み部分の工事も終わって久しぶりの更新です。とは言え、これ以前の箇所にも、また少しずつ手を入れるかも知れません。大分修正した積もりですが、まだまだ所々、矛盾やキャラの混乱などがあるかも知れませんので。当然、ストーリーの大筋には手を加えないようにしています。お気づきの点などございましたらお気軽にご指摘下さい。今後とも宜しくお願いします。
人間の冒険者に酷似した新種の冒険者もどきたちとの戦闘に、危なげなく勝利した一行はバキエルの案内で万魔殿の通路を進み続けていた。
カルラは、空中戦に続いて、先ほどの戦闘でヒューゴたち一行が発揮した戦闘能力に、内心舌を巻いていた。
特に、ヒューゴとレーナの二人は、自分よりも若い、ほんの少年と少女に過ぎないのに、その冒険者としての能力は自分と同等か、それ以上のものであることにカルラは気づいていた。
また、渡鴉もカルラの想像を超える実力を持っていた。
そして、そのリーダーであるザムジードは底知れぬ実力を秘めていること、また、グィードとヒューゴ親子との間に、浅からぬ因縁があることは明らかであった。
その決着は、この作戦が執着した後、つまり、この万魔殿に巣食う魔族と魔物たちを殲滅した後につけられることになるだろう。
その時、自分は何を為すべきなのだろうか。
いや、単なる兵に過ぎない自分に、何かできることがあるのだろうか。
もっと言えば、自分はなぜ、いまここにいるのだろうか。
バキエルのすぐ後ろを歩きながら、カルラはそんなことを考えていた。
思えば、自分はただ、他人よりも優れた戦闘力を持っているということだけで、最高師範などと呼ばれ調子に乗っていたのだ。
そして、最高師範として、これまでに少なくない功績を上げて来たことは確かである。
しかし、この世界には、自分の考えなど及びもつかないことがあり、また、その自分の知らぬ世界で、大きな運命と戦っている者たちがいることを、カルラは今、改めて思い知らされていた。
その時、いつの間にかカルラのすぐ隣を歩いていたアーシェラが彼女に話しかけた。
「カルラ、と呼ばせてもらってもいいかしら?」
「ああ、それで構わない」
「カルラはヒューゴのことを、どう思う?」
その質問が、あまりにも唐突であったので、カルラはとっさに答えることが出来ずにいた。
「おかしな意味ではないわよ。最高師範として、ヒューゴの実力をどう評価しているのかという意味」
アーシェラが冗談めかして言った。
「ん、そうか、そうだな。ヒューゴだけでなく、貴公らは皆、驚くべき実力を持っている。恐らく、それぞれが最高師範である私に匹敵するほどの力だ。そんなに実力のある冒険者たちが、よくもこれまで隠れていたものだと、心底驚いていたところだ」
「そうね。じつは私自身、こんなに短期間のうちに、これほどの能力が引き出されたことに驚いているの。そしてその秘密は、多分ヒューゴと、その守護精霊であるウァサゴにあるんだと思う」
「そうか。確かに、最高師範である私にとってさえ、精霊とは未知の存在だからな」
「ところで、魔王復活の兆しについては、ギルドはどういう見解を持っているのかしら?」
アーシェラが突然、話題を変えた。
「じつはな、最高師範と言っても、ギルドにとっては単なる一兵卒に過ぎないのだよ。特に新参の私はな。だから評議会からは、私に詳しい情報は下りて来ない。ただ、今回の作戦を終えて私が王都に帰還し暁には、ギルドは今よりも活発に、この件について動き出すことになるだろうな」
「そうね。魔族であるバキエルの話では、魔王の復活を阻止することは事実上、不可能らしいから、人類が生き残るためには復活した魔王を再び封印するしかない。そしてそれは、ギルドの手にも余ることだわ」
それを聞いて、カルラが目を剥いた。
バキエルが魔族であり、今は利害が一致してグィードたちと行動を共にしていることはことは、オーデンセのギルドの会議室で告げられ一応了解していたが、魔王の復活を阻止することは不可能だという、その件につてはカルラは初耳であったのだ。
じつはアーシェラは、そのことを承知しており、その重要な情報を共有するために、カルラに話しかけたのであった。
それはアーシェラが、もはやカルラを自分たちの仲間であると認めたことを意味している。
また、もう一つ、この時アーシェラがカルラに話しかけた理由がある。
それは、アーシェラがカルラの孤独を感じ取ったからであった。
すると、それまで二人の会話に耳を傾けていたディオゲネスが口を開いた。
「いつになく饒舌ですね、アーシェラ」
「あら、あなたも仲間に入りたいの?」
アーシェラが笑いながら言う。
その時、グィードが剣を抜きながら、一行に注意を促した。
「どうやら敵の第二波が接近中のようだ」
もともと凄腕の盗賊であったグィードの索敵能力、また、危機察知能力は、一行の中でも群を抜いて高かった。
とは言え、カルラやザムジード、またヒューゴたち一行も皆、今や例外なく超一流の冒険者であったから、その差はほんのわずかなものに過ぎなかった。
しかし今回は、そのわずかな差が大きく影響したのである。
というのは、敵の第二波は、その気配消すことに特化した一群、すなわち、忍者型の冒険者もどきであったからである。
グィードはその時、音もなく疾走して一行に接近しつつある100人近い集団の動きを察知していた。
その走り方、また、井手達までもが、グィードには目に見えるようであった。
「侍の次は忍者か、これはいったいなんの悪ふざけなんだ」と、グィードは心の中で独り言ちた。
そんなグィードの想いに呼応するかのように、ディオゲネスが口を開いた。
「さて、侍のお次はいったい、どんな敵がやって来るのでしょうね」
ディオゲネスが言い終わるよりも前に、カルラは剣を抜き、戦闘態勢を取っている。
「アーシュラ、今の話の続きを、後でゆっくり聞かせてくれ」
「そうね、邪魔者にはさっさと退場願いましょう」
そう言って、アーシェラも脆刃の剣と名付けられた細身の剣を抜いた。
ザムジード率いる渡鴉も全員、剣を抜き戦闘態勢を取る。
グィードとヒューゴは一瞬、ザムジードの傍らに立つスカーレットの方に目を向けるが、その他の渡鴉と殆ど見分けがつかなかった。
つまり、それほどまでにザムジードの精神支配は強力なのだ。
第二波の敵が一行と接触するまで、あと十数秒であることを、グィードは正確に予測できた。
「侍のお次は、どうやら忍者らしい。偉大なるネズミの王の奴はフダラクマニアなのか?」
グィードがバキエルに投げかけるように尋ねた。
「フダラクマニア、というよりは人間マニアなんだよ、リロイの奴は。表面的には酷く人間を見下す振りをしているけどさ、彼奴は人間に憧れているんだ。だから人間の研究に余念がない」
バキエルが答えた。
そこでディオゲネスが口を開く。
「それにしても、偉大なるネズミの王はいったいどうやって、侍や忍者の魂の情報を入手したのでしょうか?グレンナやオーデンセの周辺で起きていた誘拐事件の被害者の中に、侍や忍者が含まれていたとは、とても考えられません」
「リロイは昔から、人間の魂の研究をしていたよ。それこそ数千年前からね」
ディオゲネスの質問にバキエルが即答した。
「なるほど」
「ところで、しばらく前からトイフェルスドレックの奴の姿が見えないが」
グィードが思い出したように口にした。
「ああ、あの方でしたら、先ほど私たちとは反対の通路に一人で進んで行ったようですよ」
そう答えたのは美しき黒衣の精霊ウァサゴであった。
それを聞いたグィードは一瞬、唖然とした顔をしたが、トイフェルスドレックがもともと神出鬼没であったことを思い起こして、何とか自分を納得させた。
「そうか。まあ、彼奴は一人にしても問題ないだろう。そのうち合流するだろうしな。さあ、それより今は、目の前の敵を倒すことに集中するか!」
グィードが言い終わった瞬間、一行の目に、目の部分を除いて顔全体までを黒い布で覆われた黒装束の集団、忍者型冒険者もどきたちの先頭集団が飛び込んできた。
「格好いい!これが噂の忍者か!俺、初めて見るよ!」
興奮した様子でヒューゴが叫ぶ。
そう叫びながらも、ヒューゴは英雄波動共振を発動している。
ディオゲネスもまた、鳳翼飛翔陣を無詠唱で発動する。
一行は早くも、冒険者ギルドの中で亜空戦術と呼ばれる超高度戦術を自分たちのものとしつつあった。
パーティー単位で、それを自在に用いることが、どれほど稀有なことであるのか、一行はその事にさえ気がついていない。
一行が亜空戦術に移るのを眺めながら、カルラはオーデンセのギルド支部長ハンネスがグィードたち一行を評して使っていた呼び名を思い起こしていた。
「英雄のパーティーか、強ち大袈裟とも言い切れぬ」
そう呟きながら、カルラもまた飛翔闘法を発動する。
「疾風飛翔走駆!」
渡鴉もまた静かに、飛翔する悪夢と名付けられた集団型飛翔闘法を発動した。
100人からなる忍者軍団と亜空戦術を自在に操る冒険者パーティーによる異次元の戦いの火蓋が、今、切って落とされたのであった。




