表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/121

ザムジードへの疑惑

 レーナは戦闘が完全に終結した上空を見つめていた。

 今、レーナの足元には魔神兵装(マハザエル)超振動剣ソード・チャントによって撃墜された三人の渡鴉(レイヴン)が横たわっている。

 三人は瀕死の重傷を負っていたが、その傷自体はレーナの回復魔法、天命再起(ヘブン・ヘルプ)によって既に癒されている。

 だが三人はまだ意識を取り戻していなかった。

 そこへ戦闘の終結を見届けたヒューゴたち一行が、レーナと三人を取り囲むように、次々に降下してやって来た。

 その中にはカルラとトイフェルスドレック、そして精霊(ジン)たちも含まれている。

 グレモリーが戦場で駆っていた巨人、輝ける者(アーガス)はいつの間にか姿を消していた。

 ザムジードの指揮のもと魔神兵装(マハザエル)を完全に消滅させた渡鴉(レイヴン)たちが、それに続く。

 「部下が世話になったようだな。感謝する」

 ザムジードは着地した直後に、レーナに言った。

 「いいえ。当然のことをしただけです」

 レーナが答える。

 「それよりも、この三人には強力な精神支配(ドミネーション)が施されています。これはあなたが?」

 レーナは彼らの蘇生を確認すると、今度は彼らの意識を回復させようよと神仙(アヴァターラ)としての能力を駆使して渡鴉(レイヴン)三人を観察(モニター)した結果、精神支配(ドミネーション)の形跡を発見したのであった。

 「ああ」

 ザムジードは素直にそれを認めた。

 「彼らの心から戦闘中の恐怖を取り去るためと、完全な連携を可能にするためだ」

 それを聞いてヒューゴは黙って顔をしかめた。

 口を開いたのはグィードであった。

 「そうか。気に入らないやり方だが、それを止めるように言う権利は俺たちにはない。ただ、どうやらその中に、俺の知り合いがいるらしいんだ」

 グィードはザムジードの右に立つ渡鴉(レイヴン)の一人を見つめながら言った。

 それは戦闘中にグィードが、スカーレットと、その名を呼んだ騎士であった。

 ヒューゴがグィードの顔を凝視し、その後でその視線の先の騎士を見つめる。

 「戦闘もいったん終わったことだし、精神支配(ドミネーション)を解いて話をさせてくれないか」

 グィードがザムジードの目を見ながら、静かに言った。

 ザムジードは表情を変えずに答える。

 「すまないが、それはできない」

 「何故だ」

 「今回の作戦は万魔殿(パンデモニウム)の制圧だ。まだ作戦は終わっていない。そうですね、最高師範(グランドマスター)殿?」

 ザムジードがグィードの傍らに立つカルラの顔を見ながら言った。

 急に話を振られて困惑したようにカルラが答える。

 「ああ、それはそうだが」

 「では早急に作戦を再開しましょう」

 そう言うと、ザムジードはおもむろに横たわる三人の渡鴉(レイヴン)に近づき跪くと、彼らの耳元でそれぞれ何かを囁いた。すると彼らは、即座に立ち上がった。

 「彼らのいのちを救ってくれたことには、改めて、心からの感謝を述べる。彼らは私の家族のような存在だ。ありがとうレーナ君」

 ザムジードが、改めてレーナに向き直って礼を言った。

 ヒューゴを含む一行全員がグィードの顔を見つめる。

 「わかった。それじゃあまずは万魔殿(パンデモニウム)の制圧だ。その後で話をさせてくれ。それからザムジード、その時には、おまえにも聞きたいことがある」

 グィードが淡々と答えた。

 ヒューゴには、グィードが怒りを抑えているのが分かった。

 ヒューゴがグィードの顔を見つめながら、おもむろに口を開いた。

 「ねえ、一つだけ確認してもいい?」

 「なんだ?」

 「この作戦が終わるまでは、カルラも渡鴉(レイヴン)も、みんな俺たちの仲間だよね?」

 その質問を受けて、グィードは一瞬答えに困った。

 そして、少し考えてから力強く答えた。

 「ああ」

 「わかった。じゃあ俺は、カルラやザムジードたちのためにも、命を懸けて戦うよ」

 その言葉を聞いた瞬間、グィードは目頭が熱くなるのを感じた。

 もはやヒューゴは、冒険者としても、また人間としても、自分よりも高みにいることが分かったからだ。

 グィードは自慢の美髯を撫でながら、改めて、ザムジードの横に立つ渡鴉(レイヴン)を見つめた。

 それから心の中でこう言った。

 「スカーレット、見ているか。これが俺たちの子だ。二人ですぐに、おまえを自由にしてやるからな。待っていてくれ」

 それから一瞬の沈黙の時が流れた。

 「話はついたようだな。では改めて、万魔殿(パンデモニウム)に向おう。皆、私に続け」

 この作戦の指揮者としての威厳を込めて、カルラが宣言した。

 「疾風飛翔走駆ライド・ザ・ワイルド・ウィンド!」

 カルラが飛び立つ白鳥のように美しく飛翔した。

 ザムジードと渡鴉(レイヴン)がそれに続く。

 「飛翔する悪夢(ナイトメア・ライド)!」

 十三人の渡鴉(レイヴン)が次々に飛び立った。

 「さあ、俺たちも行こう」

 ヒューゴがディオゲネスを振り返って言った。

 「承知しました」

 ディオゲネスは速やかに圧縮詠唱を始める。

 「鳳翼飛翔陣スプレッド・ユア・ウィングス!!」

 ヒューゴたち一行の身体が金色の光に包まれる。

 それから一行は、ヒューゴを先頭に伝説の霊鳥ヴィゾフニルのように飛翔した。

 

 一行はぐんぐんと万魔殿(パンデモニウム)に近づいて行った。

 一行の眼下には、瘴気立ち昇るカルヴィーノ大湿原が広がっていた。

 一行は、カルラを先頭にして進み、やがて瘴気の結界を抜けて万魔殿(パンデモニウム)正門前の広場と思われる地点に、次々と着地した。

 カルラは居並ぶ一同を見回しながら呼吸を整え、おもむろに口を開いた。

 「それでは一同、心の準備はいいか。これより魔族の牙城、万魔殿(パンデモニウム)に突入を開始する」

 するとその時、バキエルが申し訳なさそうに手を挙げて口を開いた。

 「その前に、一つだけいいかい?」

 一同がバキエルの顔を見つめる。

 「なんだ。バキエル」

 グィードがバキエルに、話を続けるように促す。

 「グィードたちは一度、万魔殿(パンデモニウム)に侵入したことがあるようだけど、それは多分リロイの幻術で偽装(カモフラージュ)された表層の部分だけだったんだと思う。だけど僕が同行している今は、偽装(カモフラージュ)は発動しない。つまりグィードたちはこれから、初めて本当の万魔殿(パンデモニウム)に足を踏み入れることになるだけど、じつは、万魔殿(パンデモニウム)と呼ばれる城は、この世界(ザラトゥストラ)に二つ存在しているんだよ。というよりは、今、僕たちが立っているのは、万魔殿(パンデモニウム)複製(ダミー)の正門前、ということになる」

 その言葉を聞いてディオゲネスには思い当たることがあったが、黙っていた。

 「どういうことだ?」

 「うん。じつは本当の万魔殿(パンデモニウム)は今でも、エイビスのさらに地下深くに封じられた世界、人間たちが地獄(ゲヘナ)と呼んでいる場所に存在しているんだ。そしてこの複製(ダミー)は、言わば、真の万魔殿(パンデモニウム)へと続く、移動式の入口のようなものなんだよ」

 一同は、バキエルがもたらした情報を整理しようとするかのように、沈黙していた。

 すると、ここでディオゲネスが口を開いた。

 「やはり、そういうことでしたか」

 一同が、今度はディオゲネスに注目する。

 「皆さんもご存じのように、万魔殿(パンデモニウム)とは、創世神話における魔王(アルヴァーン)の居城であり、四百年前の魔王戦役の折には移動要塞として、地上に姿を現わしています。そしてわたしには、その二つの万魔殿(パンデモニウム)が同一のものとは、どうしても思えなかったのです。それが、今のバキエルの説明ですっきりしました。つまり、今私たちがいるのは、魔王戦役において用いられた移動要塞、万魔殿(パンデモニウム)であり、それは地獄(ゲヘナ)に封じられた真の万魔殿(パンデモニウム)から、魔王の軍勢を地上に送り出す(ゲート)の役割を果たしているということでしょう」

 ディオゲネスは自分の推理の正しさを確認するために、バキエルの顔を見た。

 「さすがはディオゲネス。その通りだよ」

 バキエルが答えた。

 「ということは、俺たちはこのまま地獄(ゲヘナ)まで足を運ぶことになるということか?」

 グィードが神妙な顔でバキエルに尋ねた。

 「まさか。さすがにそこまでは、僕でも無理だよ。何しろ地獄(ゲヘナ)は、神々によって厳重に封印された世界だからね。ただ、この移動要塞の地下には地獄(ゲヘナ)の門が存在し、現在のこの要塞の(あるじ)、恐らくそれは、僕の兄弟の一人なんだろうと思うけど、その人物がその気になれば、四百年前に地上を制圧した程度の軍勢を、これからの戦闘に投入することも可能だということさ」

 「なんだって」

 これまで黙っていたカルラが、驚きと絶望を混ぜ合わせたような声で叫んだ。

 「そんな相手を我々だけで制圧することは不可能だ。作戦は中止すべきだ」

 一同がカルラの顔を見る。

 「ごめんごめん。少し脅しが過ぎたようだね。その気になれば、と言ったけど、現在の城の主が、僕の想像している通りの人物であれば、その人物がその気になるようなことは、まず考えられない。なぜなら、もしそんなことを勝手にすれば、その人物は魔王(父さん)の不興を買うことになるだろうからね。だから、恐らく今回の戦いで実際に投入される戦力は、せいぜい先ほどの戦闘で僕たちが殲滅した戦力と同等か、多く見積もっても、その倍程度なんじゃないかな。その程度であれば、たとえそれを僕が独断で動かし、そして失ったとしても、魔王(父さん)はそれを許してくれるはずだからね」

 その言葉を聞いて一同は、改めてバキエルが魔王(アルヴァーン)の息子であることを思い起こした。

 なんという不思議な戦いを、自分たちは今、戦っているのだろうかと、ヒューゴは思った。

 そして、これから始まる戦いに、ワクワクもしていた。

 ヒューゴは今や、正真正銘の冒険者であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ