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紐解き人と原初の怪  作者: 渡摘千歳
0日目 四ノ宮時貴
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0日目〜貴い時の陽だまり5

この世に、存在していない物。

この世に、あってはならないもの。

この世で、説明出来ないもの。


それら全てを引っ括めて、ここ京都では『怪異』と言う。


そして今、俺の身に起きていることはそうゆう類のものだ。

「くそ…うがあ」

止まることのない友人達からの踏みつけは、確かに俺の体と、心に傷を与えていた。

もう何回踏まれたのか分からない。

それでも無言で踏みつける。

いい加減腕の感覚も無くなってくる。

それでも無言で踏みつける。

痛覚も正常に活動していない時点で、俺は針のむしろ状態だった。

もし仮にここで何とかなったとしても、もうあいつらの顔まじまじと見れないかもしれない。

それでも、今この状況を何とかしないといけない。

でなければ、多分俺も、心太も、麻友も、悠も、もう二度と元通りにはならないからだ。


俺はもう一度、目の前を見る。

やはり変わらずそこに佇むは、お狐様だ。

威圧感も、神々しさも持ち合わせる、なんだって起こしそうな正真正銘の怪異。

3人が死んだ魚のような目をしてるのは、きっとこいつの仕業だろう。

問題はどうやってやったのかということ。

それこそがお狐様に一矢報いる鍵となるかもしれない。

俺は記憶中から必死に手がかりを探る。

こんな所業ができる狐は、頭を絞っても1匹しか思いつかなかった。

「化け…狐…」

もし仮にこいつが『神隠し』を起こしている化け狐であるのなら、この3人に化けるため、さらって要素を消している最中だったんだろう。

目をつけられたのは、恐らく心太は昨日の深夜。

麻友と、悠は今日の日中なんじゃないか。

だから、今の3人は、あの3人であって、そうじゃない。

そう思えば、気が楽だ。

しかし、それはただの無能一般人の推察であり、真実なんて分からない。


ここからは賭けだった。


推察通りなら、まだ形成されている要素を完全に抜け切っていないから、あの3人は消えずにここにいる。

ならば、あいつらの中で、1番大きくて深くまで響く言葉を聞かせてやればいい。

俺は力の限り叫んだ。


「問題!京都が誇る地下アイドル三島小夜が所属しているグループは?平安KYO!」


これで駄目なら、もう意識飛ばして眠りにつくしかない。

そう思った。

しかしどうだろう。

今の今まで、俺の右腕辺りを踏み続けていた足が、寸前で止まった。

すかさず俺は続けた。

「問題!バイクメーカーYAMADAが開発した排気量750CCの人気車種は何か?SHURIKEN!」

今度は左肩を目掛けて落ちてきていたライダーブーツが、宙で止まる。

「問題!加熱して炒めた大豆の皮を向き、挽いたものをなんと言うか?きな粉!」

背中を目掛けていた靴が、一瞬だけ止まる。

毎朝適当にやってたが、案外覚えているもんだな。

そして、どうやら賭けには勝ったようだ。

ここで、動かなければもう無理。そう悟る。

俺は、寝返りをうつように右へと転がり、心太の靴を躱す。

どうやら麻友と、悠は完全に機能不全に陥ってその場に倒れこんだが、心太はそうじゃないらしい。

麻友と、悠ほど熱心なものじゃない上、より長く抜き取られている心太では、ほんのわずかしか時間は取れないとは思っていたが、それも計算のうちだった。

そのわずかな時間で、俺は自分の体に鞭を撃って前傾姿勢になりながら走り出す。

自分でやって本当にびびった。

人間死ぬ気になればなんでも出来るってのは案外間違いじゃないらしい。

俺はそのままの勢いで突進する。

狙いはとにかく1つ。

化け狐の首元だ。


「あいつら返せ!」


1発かましてやるという気合いで放った拳は完全に頭を捉えるコースだった。

しかし、俺の拳が化け狐に届かない。

当たる寸前で俺は左へと飛ばされた。

凄まじい圧によって石畳の上ひこずられ鳥居の柱に叩きつけられる。

息が出来ない。激痛なんてものじゃない。

意識を保っていることが不思議なくらいだ。

しかし、もし止まったら多分そのまま俺は意識を失ってしまう。

選択は他になかった。

「くそたれが!」

全身からアドレナリンが分泌する。

追い討ちをかけようとしてくる心太を躱してもう一度化け狐へと接近する。

俺とあいつを繋ぐ最短コース。

俺は、左手を振り上げる。

だが、やはり寸前の所で飛ばされた。

ピンポン玉のように俺の体は跳ねる。

今回も奇跡的に頭をうってないだけで、もう何回死んでもおかしくないような転がり方だ。

だが、まだ俺は生きていた。

もう一度だけ、突っ込むことを決め、無理やり起こして走り出す。

怪異相手に、凡人が何をしたって到底無理だったのかもしれない。

そんな気持ちも湧いてきた。

ただ、動かない相手に1発も与えないでやられるなんてのは、やはり御免だった。

実直に、ただ真っ直ぐに。フェイントひとつかけない愚か者の俺は、拳を振るった。

結果、今度もその拳は届かなかった。

空を切った拳の勢いあまって俺は転倒する。

もう疲れ果てて、立ち上がれない。

万事休すだった。


しかし、妙だ。

今回は何かにはね飛ばされている訳ではない。

ただ、自分で倒れこんだだけだ。

途中で転倒したのではないかと思って前を見るが、そこに化け狐はいない。

顔をキョロキョロと動かし化け狐を探すと俺の右側、目と鼻の先にそいつはいた。

あまりの至近距離に腰を抜かしそうになる。

しかし、まったく動かない。

もしくは動けなくなっている。

さっきまでの俺と、化け狐の関係は完全に逆転していた。

ただ、この状況をつくったのは俺ではない。

どこかの誰かさんが、手を貸してくれた。


「よう、気張りはりましたなあ。四ノ宮はん」


声のする方向に顔を向ける。

腰まで届く黒髪に、いつもとは違うそれに似合う和装した、切り目の女性。


「お前…河佐…白百合?」


そのどこかの誰かさんは、よく見る女性。

河佐白百合だった。

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