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 子供の頃、クラウスと私はとても仲が良かった。私の母が王妃様の友人だということもあり、私たちはいつも一緒に王宮のあちこちを走り回っていた。

 悪戯好きなクラウスは、事あるごとにこっそり部屋を抜け出しては私のところにやってきて、侍女や子守りを困らせていた。


 あるとき、中庭で転び掛けた私を庇ってクラウスが怪我をした。擦り剥いた膝からじんわりと血が滲んでいて、とても痛そうで。私は泣きながら両手で彼の膝に触れて、痛みを消すおまじないの言葉を口にした。

 そして、奇跡はおきた。

 私が手を離すと、彼の膝には血の跡だけが残っていて、じくじくと痛そうだった擦り傷は跡形もなく消えてなくなっていた。

 クラウスは私の肩に手を置いて、「すごいじゃん!」と弾んだ声をあげた。きらきらと宝石みたいな瞳を輝かせて、彼は私に言ったのだ。

「よし、決めた! 俺が王様になったら、お前を契約の魔女にしてやる!」


 ——契約の魔女。

 フィオラント王国の国王と契約し、王と国のために魔法のちからを行使する魔女のことだ。特定のひとりと契約を結ぶことで、魔女は本来のちから以上の魔法のちからを行使できるようになる。そして、王と契約を結んだ魔女は、国で唯一王と対等の存在となる。一庶民の魔女見習いでしかない私でも、将来クラウスと契約を結ぶことができれば、彼と結婚することが許されるのだ。

 だからこそ私は、私の身体に備わったちからが、他人の傷を貰い受けるだけの役に立たないものだと知ったあとも、彼に嘘をつき続けた。


 ()()()()()を使えるようになってから、私とクラウスは以前よりもいっそう仲が良くなった。ふたりでいる時間が増えて、宮殿を囲む森の中まで足を伸ばすようになった。クラウスが怪我をするたびに、私は服で隠れた身体のどこかに彼の傷を貰い受けた。そのうち大抵の痛みには慣れてしまったけれど、あるとき母が私の異変に気が付いた。

 よくよく考えれば、誤魔化しきれるわけがなかったのだ。私は王侯貴族のご令嬢とは違う。身の回りの世話はすべて母がしてくれていたから、子守りに口止めをすれば誤魔化しが効くクラウスとは状況が違っていた。


「どうしたの、ココ。最近、怪我ばかりしているのね」

 私の背中を優しく撫でながら、母は少し悲しそうに言った。

 母は私とは違い、微弱ではあるものの、正真正銘の癒しの魔法を使うことができる。私が怪我をするたびに、母は魔法のちからで傷を治してくれていたのだ。

 はじめのうちは、遊んでいて怪我をしたのだと誤魔化していた。けれど、服で見えない箇所ばかりに怪我をするのは、あまりにも不自然すぎた。

「誰かに酷いことされてない?」

 母がまた、私に言った。母はとても私を心配していた。当然だと思う。子供なんて成長するにつれて危険な遊びをしたがるもので、怪我だって擦り傷だけではすまなくなる。その頃のクラウスは打撲や切り傷を負うこともままあって、私の身体の見えない部分はいつだって傷と痣だらけだった。

 私は正直に、傷貰いのちからのことを母に打ち明けた。クラウスは私の癒しの魔法をふたりだけの秘密にしたがったから、私がクラウス以外のひとにちからの話をしたのはこのときだけだった。

「無理強いは、されてない?」

 泣きそうな顔で母が言ったから、私は力強く頷いた。

 幼い私の身体は、騎士である父の身体と同じように傷だらけだった。けれど、それらはすべて私が望んでクラウスから貰い受けたものだったから、私は誰にも無理強いなんてされていないし、酷い目にあっているだなんて思いもしていなかった。


 十歳を過ぎると、クラウスは勉強や剣の稽古で忙しくなった。私も魔女になるために母に師事するようになったから、私とクラウスが一緒に遊ぶ時間は極端に減ってしまった。空き時間には一緒に過ごすこともあったけど、以前のように悪さをしたり庭園を駆け回ったりはしなくなったから、私の身体も徐々に傷が癒えて、普通の状態に戻っていった。

 そんなある日のことだった。クラウスが乗馬の訓練で落馬して、左脚に大怪我を負った。

 人伝にその話を聞いた私は、いてもたってもいられなくて。クラウスの部屋に駆け込んで、大勢の宮廷医師や看護師の前で、躊躇うことなくあのちからを使ってしまった。

 瞬く間にクラウスの脚は元どおりになり、部屋の中は騒然となった。皆が歓喜に湧く中で、私はひとり、肋骨と脇腹を襲う酷い痛みに耐えながら、こそこそと彼の部屋を後にした。

 母の必死の看病のおかげで、私の怪我は二十日ほどで完治した。けれど、ふたりだけの秘密だった癒しの魔法を大勢の前で使ったことで、私はクラウスの機嫌を損ねてしまったようで。クラウスはそれきり、二度と私に頼ろうとはしなくなった。



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