第四十九話 髪かざり③
「ユラリさん、スリーサイズって測ったことありますか?」
「ないですよ、必要ないですし」
「もったいない」
「もったいなくは無いと思います」
「見てすごいなって楽しむのもいいんですけど、やっぱり数字ではっきり分かった方が感激できると思うんです」
「人間は数字が好きですね」
「分かりやすいですからね」
数字で分かったら、ほかの人とも比べやすいし。
ただ美しいと思うより、美しさに理由があった方が嬉しい気がする。
他の人にユラリの姿を見せて、綺麗ですよね、なんて同意を求めることはできないもの。
ユラリの美しさに点数がつけられるなら、ひねくれもの以外は満点をつけるだろうけど、満点だって正しく評価できるとは思えない。
人魚は皆、その人魚にとって完璧な姿で生まれるとユラリは言っていた。
じゃあ、人間がやるようなミスコンもないのかな。
全員満点じゃ、差がつかない。
「人魚には、こう美を競う的な、ミスコンみたいなものってあるんですか?」
「ミスコンって、一番綺麗な女の人を選ぶ大会でしたっけ」
「そうです」
テレビや漫画の中でしか見たことないけど、お姉ちゃんが大学にはあるって言っていた。
「ないですけど、どちらの方が人気があるかの勝負をする人魚はいますよ」
「勝負?」
「えっと、人魚はその人魚にとって最適な姿で生まれてくるんですよ。なので、皆基本的に見目麗しい、と思います。自慢じゃ、ないんですけど」
「ユラリさん位綺麗だったら、自慢じゃなくて報告でいいと思います」
「ももかさんは褒めるのがうまいですね」
「思ったことを言っただけですよ」
「皆、綺麗なので、綺麗かどうかだと勝負がつきません。ですから、本当にただの主観で、どちらが自分の好みのタイプかっていう投票をしたりします。コンテストをやるほど、勝負をしよう、という人魚が居ないので、大抵一対一の決定戦って感じですね」
「人気投票ですか」
「そうですね」
単に綺麗かどうかを争うよりも、はっきりとした人気投票の方が負けると落ち込む気がする。
人間のミスコンも、人気投票の側面はあるのだろうけど。
「一対一で人気投票なんて、勝っても負けてもしんどそうです」
「やる人魚は少ないですね」
基本的に争いを好まない人魚の中にも、たまに勝負事が好きな人魚がいるそうだ。
意見がぶつかったときに投票を用いることもあるという。
「選挙みたいですね」
「似てますね」
「多数決を取って、それも踏まえてまた考えるってだけですから、多数決の結果で決まるわけじゃないんですけど」
「人魚の意見の対立ってどんなのがあるんですか?」
「ほかの場所から来た人魚を仲間にするか、とか、行商団から買う物はあるか、とか」
「なるほど」
ユラリが伸びをした。
そろそろ海に帰る時間のようだ。
「ももかさん、髪飾り、嬉しかったです。ありがとうございます」
「私もユラリさんに喜んでもらえてうれしいです」
「次は私が何か贈り物をしますね」
「いいですよ、そんな大したものじゃないですし」
海でおぼれかけたた所を助けてもらったり、みかこさんを見つけてもらったりした感謝の印だから、私がユラリからもらったら、あべこべになる気がする。
「ふふふ、私はとっても嬉しかったんです」
ユラリはニコニコと笑っている。
高校生のお小遣いで買えるくらいの安物で、そんなに喜んでもらうと、逆に申し訳ない気がしてきた。
「本当に、私はあの、ユラリさんに会えるだけで満足なんで」
「ももかさん、大胆ですね」
「言ってから少し恥ずかしくなりました」
顔が熱い。
赤くなっている気がする。
「私もももかさんとお話しするのは楽しいですよ」
笑いながらユラリは海に飛び込んだ。
また明日、と手を振って私は岬を後にした。
自転車に乗って走ると熱くなった顔に冷たい風が当たった。
◇
私はその後、なっちゃんの家に向かっていた。
今日は泊まり込みで宿題をする予定だ。
お泊りセットも持ってきた。
コンビニに寄って、牛乳プリンを二つ買った。
ゆうちゃんが選んだプリンを、私も食べたくなったのだ。
白地に赤のキャラクターのシンプルなパッケージ。
雨が降る前から姿が見られたら、おいしそうにプリンを食べるゆうちゃんを眺めることができたのに、と残念に思う。
プリンが崩れないように注意して自電車を漕ぎ、なっちゃんの家に行ってインターホンを押す。
「いらっしゃい」
「お邪魔します」
なっちゃんは扉を開けて出迎えてくれた。
今日は長くて細身のズボンを着ている。
「宿題、どれくらい終わった?」
なっちゃんに聞かれて答える。
「半分くらいかな」
残りは物理のプリントと英語のワークと読書感想文だ。
「一気に片付けちゃいましょう」
「りんごも来られれば良かったのにね」
りんごは他の県にすむ祖父母の家でお盆を過ごすらしい。
勉強が出来るし、りんごはもう宿題を終わらせてるかもしれないな。
買ってきた牛乳プリンをなっちゃんに渡した。
「牛乳プリンって、なんだか懐かしいわね」
「久しぶりに食べたくなって」
プリンを食べた後は、音楽を流しながら宿題を進めた。
スマートフォンでyoutubeの音楽を流す。
「なっちゃん、充電してもいい?」
「いいわよ。ケーブルある?」
二時間後、私は音を上げた。
「宿題多い……もうやだ」
「一回休憩しましょうか」
なっちゃんが首を回しながら言った。
その後も頑張って、夜になったからお風呂を借りた。
「なっちゃん、一緒に入る?」
「狭いわよ」
ピシャリと断られた。
なっちゃんの家のお風呂には何回か入ったことがある。
迷わずにお風呂場にたどり着いて、服を脱いで着替えを入れていた袋に入れる。
人の家のお風呂って、借りるのなんだか緊張するな。
うちのはピンクのお湯のハンドルと、青い水のハンドルをちょうどよく回して自分好みの温度にするタイプだ。
なっちゃんの家のハンドルは、温度をメモリに合わせるとその温度のお湯が出てくるタイプ。
ざっとシャワーを浴びたあとは、なっちゃんの部屋敷かれた布団に潜り込む。
自分の髪からいつもと違うシャンプーの匂いがするのは変な感じだ。
なっちゃんの家はTSUBAKIを置いていた。
うちはメリット。
私の後にお風呂場から出てきたなっちゃんと話している内に、いつの間にか眠っていた。
◇
次の日の朝、コンビニで朝ご飯を買って食べた後に、残りの宿題を終わらせた。
「やっと解放された!」
最後のプリントが終わった時は、嬉しすぎて両手を突き上げて喜びの声を上げた。
「おつかれさま」
「うん、なっちゃんもね」
「私は昨日ほとんど終わったから」
「つきあってくれてありがと」
泊まり込みで宿題をやろう!と意気込んでいたけど、なっちゃんは私より大分早く終わらせていた。
私が感想文に追われている間、ホラー映画を見ていた。
“エスター”という映画らしい。
途切れ途切れにしか見ていないが、孤児院の女の子が実は、という内容だ。
そんな病気、現実にはないだろうけど。
お母さんも年齢の割には若く見えるけど、さすがに私やお姉ちゃんと姉妹には間違えられないし。
そういえば、ユラリは年齢と見た目があってない。
人魚の世界だと成長も老化もしないと言っていたけれど、それがどんな世界なのかは想像がつかない。
年齢が関係ない世界。
見た目がお爺ちゃんなのに、自分よりも歳下ってこともあるんだろうな。
お爺ちゃんっていうのは、歳を取った男の人って意味だから、見た目がお爺ちゃんでも中身がお爺ちゃんじゃなかったら、お爺ちゃんと呼ぶのはおかしいんだろうか。
なんだか頭がこんがらがってきた。
「ホラーっていうよりは、サスペンスだったわね、これ」
「十分怖いと思うよ」
おばけやゾンビみたいな超常現象は出てこなかったけど、怖かった。
本物の幽霊のみかこさんやゆうちゃんと会った時よりも恐怖を感じた。




