第四十七話 髪かざり①
小さな化粧箱に青いリボンのラッピングをしてもらった。
買い物を終えて私たちはお店の外に出た。
「二人とも、つきあってくれてありがと!」
「可愛いのが買えて良かったねー」
「喜んでくれるといいわね」
りんごが帰る駅まで一緒に歩いた。
私となっちゃんは自転車で来ていた。
自転車は駅の駐輪場に停めている。
三人で横並びに歩いているとき、りんごが店の壁に貼られているポスターを見つけた。
「ねえねえ、二人とも、あれ見て!」
「あれ?」
「夏祭りだってー」
ポスターには、一週間後に三日間に渡って行われる夏祭りの宣伝が書かれていた。
「行かない?」
「いいわよ」
「場所はこのあたりでやるみたいだね」
ポスターを見て言った。
二日目によさこいがあって、三日目に打ち上げ花火があるらしい。
「またラインで集合時間とか決めましょうか」
「そうだねー。ねえ、浴衣着ようよ」
「浴衣、去年の着れるかな」
「ももかはそんなに身長伸びてないし、大丈夫でしょう」
「なっちゃんは私の背を追い越していきました」
「え、なつめの方が小さかったの?」
中学の頃のなっちゃんを知らないりんごが驚く。
二年前までは私の方が少し背が高かったのだ。
なっちゃんはここ一年で15cm身長が伸びた。
女子でもこんなにはっきりした成長期があるんだな、と思った気がする。
話している内に駅に着いた。
喋りながら移動すると、早く目的地に着く気がする。
駅の改札でりんごと別れて、私となっちゃんは自転車に乗って家に帰った。
◇
「ユラリさん、おはようございます」
「おはようございます、ももかさん」
次の日の朝、私は岬に来ていた。
昨日買ったプレゼントもちゃんと持ってきた。
「ももかさん、今日は雰囲気が違いますね」
「少しお洒落な服を選んでみました」
いつものTシャツと短パンじゃなくて、黒いシャツの上にオーバーオールを着てきた。
自転車に乗るからスカートは着れないし。
制服だと下に短パンを着たら恥ずかしくないんだけど、私服だと恥ずかしい。
「ユラリさんは今日も可愛いですね」
「ありがとうございます」
ユラリの服もこの前と違う。
魔法でデザインを変えているとユラリは言っていた。
便利だなあ。
スマホの待ち受け画面みたいに、洋服も変えられたらいいのに、と思う。
「ユラリさん、今日はユラリさんに渡したいものがあるんです」
「なんですか?改まって」
「どうぞ」
そう言って昨日買った髪飾りが入った小箱をユラリに差し出した。
ユラリは不思議そうな顔をしている。
「日頃の感謝の気持ちを込めて、です」
「開けてもいいですか?」
「もちろんです」
ユラリは喜んでくれるかな。
私のお小遣いでは、きらきらするブランド物とかは買えなかった。
私が買ったのは、水色と白のリボンの形のバレッタだ。
ユラリは小箱を開けて手の平の上に髪飾りをおいて見ている。
似合う、と思って選んだけど、ユラリの髪がきれいすぎて、つけても場違いになる気がしてきた。
「あの、気に入らなかったら捨てていいです。というか私が持って帰ります」
ユラリにはもっと似合う物があるはずだ。
こんな安物でなく。
恥ずかしくなってきて言い訳をした。
「持って帰るのはダメです。これはもう私の物です」
ユラリは笑って言った。
「すごく可愛いです!ありがとうございます」
喜んでくれたみたい。
良かった。
「ユラリさんには、水色とか青が似合うかなって思って」
「海の色ですからね。好きですよ」
「喜んでもらえて、嬉しいです」
「ももかさん、これ着けてください」
そう言って、ユラリは髪飾りが乗った手をこちらに差し出した。
「え、やっぱり持って帰れってことですか?」
自分で着けてろということかな。
少し落ち込んで聞くと、ユラリが言った。
「違います、違います!私の髪に着けてください」
「そういうことですか」
髪飾りを受け取って、海の方を向いて岬に腰掛けているユラリの背後に立った。
「どのあたりがいいですか?」
「ももかさんにお任せします」
プラスチックでできた髪飾りはとても軽い。
ユラリのエラと鱗は触ったことがあるけれど、そういえば髪の毛を触るのは初めてな気がする。
人間の私の髪は、海水につけたら洗い流さないと櫛も通らなくなるのに、いつも海の中を泳いでいるユラリの髪の毛は、今もサラサラだ。
海から出てまだ間もないのに、もう風にそよいでいる。
「失礼します」
「ふふふ」
ユラリは口元に手を当ててくすくすと笑っている。
ユラリの長い髪を手櫛でとく。
水の中で手を動かしているみたいに抵抗がない。
絡まったりもしないみたい。
どこに着けようか少し迷って、左耳の上あたりに髪飾りをつけた。
髪をまとめて一つにすることも出来たけど、この髪をまとめてしまうのは惜しいと思った。
りんごなら可愛いヘアアレンジが出来たりするんだろうけど、私は一つか二つに結ぶくらいしかできないし。
変に手を加えるよりはただ髪飾りをつけるだけの方がいいだろう。
元々ユラリの見た目は、芸術家が丹精込めてつくった彫刻のように非の打ちどころがないんだから。
「出来ました」
「ありがとうございます。似合いますか?」
ユラリはそう言って振り向いた。
ユラリの顔に目が行って、髪飾りは目立たない。
でもいつもと少しだけ雰囲気が違うユラリは可愛い。
「とても似合ってます」
断言した。
ユラリなら何でも似合いそう。
今度変なデザインのも渡してみようかな。
どこまでユラリは着こなせるんだろうか。
鼻眼鏡は顔が隠れるから流石に無理そう。
「ふふふ、良かった」
今日はユラリがいつにも増して笑っている気がする。




