第四十六話 ばいばい③
「みかこさん、ゆうちゃん!」
驚いて駆け寄る。
──ももかちゃん、挨拶に来たのよ
「挨拶?」
「お二人は成仏するみたいです」
──ここに来たら会えると思って。最後にね
みかこさんは穏やかに笑っている。
みかこさんの足にくっついているゆうちゃんも笑っている。
シナモンを首にかけた、笑っているゆうちゃんを見られた。
想像通り愛らしい子だった。
──ほら、ゆうもおねえちゃんにバイバイしな
促されたゆうちゃんが手をひらひらとふる。
頭を撫でようと手を伸ばす。
今度は触れることができた。
子供特有の細く柔らかい感触が伝わってくる。
──お姉ちゃん、またね
「うん、またね」
──ありがとうね
なぜだか分からないが涙があふれてきた。
二人は岬から海に歩いて行って、やがて見えなくなった。
私は二人の姿が見えなくなるまで手を振った。
「行っちゃった」
「良かったですね」
「はい」
涙は止まらなかった。
その日は、ユラリが海に帰るまでユラリに抱き着いて泣いた。
◇
夏休みのある日、私はなっちゃんとりんごと一緒に買い物に来ていた。
待ち合わせ場所の駅前で話す。
なっちゃんは黒のTシャツ、リンゴは白地にピンクの模様が入ったTシャツを着ていた。
服装をそろえよう、とは言ってないけど、三人ともデニムのショートパンツだ。
りんごは髪をゆるく巻いてポニーテールにしている。
今日も暑いもんね。
「なんか久しぶりだねー」
りんごが言った。
「学校だと毎日会うものね」
なっちゃんが言った。
駅前で落ち合った後、商店街まで歩いてテレビで紹介されていたかき氷屋さんに入った。
すごく残念なことに、桃のかき氷は売ってないらしい。
残念に思いながらおすすめ、と書かれているイチゴみるくのかき氷を注文した。
りんごは私と同じイチゴみるく味で、なっちゃんは和風抹茶味。
なっちゃんはあんこが好物だ。
たまに学校でもお饅頭を食べている。
「なんだっけ、いとこのお姉さんに誕生日プレゼントを買いたいんだっけ」
二人に相談したのは三日前。
ユラリに何かあげたいな、と思ったけれど、何を渡せば喜んでくれるか分からなかった。
浜辺で会う人魚に何かあげたい、とは言えないから、いとこのお姉さんということにしておいた。
相談するうちに、なら一緒に買い物に行こうという話になった。
「そう。私、選ぶの苦手で」
「まあ、ももかのセンスってちょっと独特だものね」
なっちゃんが言った。
「そうなの?」
りんごが聞く。
「去年の私の誕生日に、ゾンビ柄のTシャツをくれたのよ」
「ゾンビ柄って、どんなの?」
「黒いTシャツにポップな蛍光色のゾンビがいっぱいくっついてるやつよ」
りんごはなっちゃんの説明を聞いて笑った。
「なっちゃんがホラー映画好きだから、喜んでくれると思ったの!」
「嬉しかったわよ。今でもパジャマで大活躍」
嬉しいと言いながら、なっちゃんは私の前ではあげたTシャツを着てくれない。
「かわいいと思ったんだけどな」
「プレゼントをあげたいいとこって、何歳位なの?」
なっちゃんがかき氷のあんこを崩しながら言う。
「何歳……」
前に人間に会ったのは百年前だといっていたし、少なくともユラリは百歳は超えている。
見た目はお姉ちゃんと同じくらいか、それより少し上かな。
お姉ちゃんは今年大学一年生になった。
スクーターに乗って学校に通っている。
「二十歳?」
「疑問形だね」
りんごが言った。
「正確な年齢が分からなくて」
「二十歳くらいの人が喜ぶもの……」
なっちゃんはスマホを取り出して検索を始めた。
仕事が早い。
「プレゼントをするときは、自分がもらったら嬉しいものをあげるといいっていうよ」
りんごが言った。
「ももかが欲しいものをあげればいいんじゃない?」
欲しいもの、何だろう。
かわいい靴下、新しい本棚、ドライヤー、漫画の最新刊。
欲しいものは次々に浮かんでくるけど、それをユラリにあげるのは違う。
靴下なんて必要ないだろうし。
「うーん、二人は何をもらったら嬉しい?」
「私はゾンビ物なら何でも嬉しいわよ」
「私があげたのはダメなの?」
「ゾンビが可愛すぎるのよ、もっと血のりが乾かないでこびりついてるようなのが好みね」
なっちゃんのセンスも結構おかしい気がする。
今年の誕生日はなっちゃんの好みに合わせたのを渡そう。
本人に喜んでもらえないと意味がないし。
「りんごは?」
「私はー、お土産屋さんにある、星の砂の瓶とか、すごくすきだな」
あれか、あのガラスの瓶に入ってるカラフルな砂。
可愛いとは思うけど、もらってうれしいかな。
「あれが欲しいっていうんじゃなくて、ああいう雰囲気が好きなの」
「ヒトデとか貝殻ってこと?」
なっちゃんが言った。
「うん、そんな感じ」
すごい、私には何のことだか分からなかった。
「りんご、海が好きなんだね」
「好きだよー泳ぐのは苦手だけど」
「今度水族館でも行く?」
「いいねー」
かき氷を食べ終わってからも話し込んだ。
食後に渡されたお茶も飲みほして、私たちはお店を出た。
商店街に向かった。
そして気づく。
「結局何を買うか決めてない!」
「お店を回ってたらいいのが見つかるんじゃない」
「ももかは何をあげようと思ってるの?」
「今のところ、髪飾りかなーって」
「いいじゃない」
「じゃあ雑貨屋さんに行こうかー」
小物がたくさん並んでいる雑貨屋さんに入った。
シュシュ、バレッタ、ヘアゴム、カチューシャ。
髪飾りだけでも結構種類がある。
「迷うなあ」
「その人の好きな色とか、似合いそうな色のにしたら?」
なっちゃんが言った。
ユラリに似合いそうな色、白か水色かな。
「私も新しいシュシュ買おうかな」
りんごがそう言って赤とオレンジ色のシュシュを手に取った。
「どっちがいいと思う?」
赤はチェック柄、オレンジは小花柄だった。
「赤い方が似合いそう」
なっちゃんが言った。
「私も赤がいいと思う」
「じゃあこっちにする!」
りんごは私となっちゃんが選んだ方を手に取ってレジに向かった。
決断が早い。
私も決めないと。
ぐるぐるとお店を見て回る。
「錆びないのがいいんだよね」
ユラリは海に住んでいるし、錆びるものを渡しても二日か三日で使えなくなってしまうだろう。
せめて一か月位はもつ物を渡したい。
「錆びないのだったら、プラスチックかなー」
会計を済ませて戻ってきたりんごが言った。
早速髪にシュシュをつけている。
やっぱりこっちの方が似合う。
プラスチック製か。
白か水色で、プラスチックでできている物。
よし、決めた。
さっき見て気になったものを手に取って、私もレジに進んだ。




