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第三十八話 ゆうちゃん⑨

 砂からどこから来るのか分からない水が溢れだす。


 今はまだ、ゆうちゃんに会わせない方が良いよね。

 そろそろ日が上るし、ユラリが海に帰る時間になってしまう。


「私、ゆうちゃんの方を見てきます」


「分かりました」


 ユラリに耳打ちして、ゆうちゃんが居る岬に行った。


「ゆうちゃん、お待たせ」


 声をかけると、岬に浮いていたクレヨンと落書き帳が揺れた。


 可愛い。


「どんな絵を描いたの?」


 尋ねると、落書き帳がめくれた。

 描いた絵を見せてくれる。


「海の絵、魚の絵と、お母さんとゆうちゃんかな?上手だね!ゆうちゃん」


 クレヨンを使って描かれた絵は全部のクレヨンを使おうとしたみたいにカラフルだ。


 大人と子供が二人並んでいる絵がある。

 ゆうちゃんと、みかこさんを描いているのだろう。

 伸び伸びとした線が画用紙をいっぱいにしていた。


(早く会いたいよね)


 会わせてあげたいし、その為にゆうちゃんのお母さんを探したけど、まだみかこさんは事故の事を受け止めきれてない。


 みかこさんの幽霊が海から出てきただけで私は死にかけたし、再会は少し時間を空けた方が良いだろう。


 ゆうちゃんと話してても何ともない。

 大人の幽霊の方が力が強いのかな。


 このまま岬にゆうちゃんが居ると、まだ混乱してるお母さんに会うことになる。


 よし、ゆうちゃんを私の家に連れていってしまおう。


 ゆうちゃんのお母さんも、1日経ったら今より良くなってるはず。


「ゆうちゃん、お姉ちゃんのおうちに来ない?クレヨン以外にもおもちゃがあるよ」


 おもちゃで誘惑してみる。

 こんな台詞を生きてる子供に言ったら、不審者情報に載せられるだろうな。


 8月▽日、朝、水着の若い女性が海の近くで5歳の子供に声をかける事案が発生。

 不審者の特徴、黒髪、青と緑の水着、ゴーグル。

 保護者の方は十分に気をつけてください。


 町内放送で流れてしまう。

 私の時は、小学校を卒業するまで安全笛を持たされてたな。

 幸い不審者に会ったことはないし、遊びでしかその笛を吹いた事はない。


「どうかな?」


 ゆうちゃんが持ったクレヨンが、早めに揺れた。

 落書き帳にピンクのクレヨンでハートマークが描かれた。


 いいよって事だろう。

 可愛い。

 描かれたハートマークを見ると胸が暖かくなった。


「お姉ちゃんと遊ぼうね!」


 私も隣にハートマークを描いた。

 家に誘ったのは、ゆうちゃんともっと遊びたいという下心もあったりする。

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