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第三十六話 ゆうちゃん⑦

「ユラリさん、ありがとうございます」


 ユラリにお礼を言う。

 ユラリが居なかったら、私はこうしてお礼を言うことも出来なかったろう。


「気にしないでください。ゆうちゃんのお母さんも見つけましたし、浜辺に戻りましょうか」


「はい」


 浮き輪をビート板代わりにしてばた足をする。

 今度はちゃんと足で水を押した分体が進んでいく。


「着いてきてくださいね」


 ユラリは、私には見えないゆうちゃんのお母さんに向かって言った。


 幽霊も泳いで進むのかな?

 ふと気になった。

 ゆうちゃんのお母さんには聞こえない様に、こっそりユラリに聞いてみる。


「ユラリさん、ゆうちゃんのお母さんも、私と同じようにばた足をしてるんですか?」


「え?いえ、海面の上に浮いて進んでますね」


 ユラリの答えを聞いて、半透明の白い女の人の幽霊が、海の上を浮いて進む様子が頭の中に浮かんだ。

 ひぃっ、と口から声が出そうになったが、すんでの所で飲み込む。


 幽霊に自分から会いに行ってビクビクと怯えるのは失礼だと思ったからだ。


 いい加減慣れよう。

 頑張ろう。


 ホラー映画にいつまでも慣れない私が、本物の幽霊に慣れる事が出来るのかは置いといて、努力はしよう。


「ゆうちゃんのお母さんは、成仏出来そうですか?」


「ずっと海の中に居たら無理だったかもしれません。海面に出てこれたので大丈夫だと思います」


「良かったです」


 ゆうちゃんが成仏出来ても、お母さんが海の中に居たままっていうのは後味が悪い。


 私としても、よく来る海に幽霊が居る状況は避けたい。


 泳いで砂浜にたどり着いた。


「はじめまして、ももかって言います」


 見えないゆうちゃんのお母さんに向かって挨拶をする。


「はじめまして、だそうです。あ、この子は見えないんです。なので私が通訳をします」


 ゆうちゃんのお母さんにユラリが言った。

 見えないのにわざわざ幽霊に会いに行こうと、普通はしないよね。


 ゆうちゃんと話すときも思ったけれど、声が聞こえないって不便だ。

 それだけで意志疎通のハードルが高くなる。

 富士山並みだ。


 どうにか直接話せないかな、と考えて、ゆうちゃんに渡したクレヨンを思い出した。


 ゆうちゃんはお絵かきが出来てたし、筆談なら出来そう。

 自転車に残した荷物の中に、メモ帳とボールペンがあるはずだ。


「ちょっと待っててください」


 そう言って、堤防に止めた自転車まで水着のまま走った。

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