第三十五話 ゆうちゃん⑥
ユラリの今日の服も可愛かったし、何かアクセサリーなら喜んでくれるかな。
髪飾りとか。
なっちゃんとりんごに言って、選ぶの手伝ってもらおうか。
海に浮かんで波に揺られてのんびり考える。
今の私はクラゲの様だ。
ぼーっとしてたら、視界の上下が激しくなってきた。
「なんか渦ができてる……?」
海面の様子がさっきまでと違う。
穏やかにリズムを刻みながら波を立てていた海面が、うねって渦になっている。
「これ、逃げた方がいいかな」
体を浮き輪から抜いて、浮き輪をビート板代わりにした。
ゴーグルを着けて陸に向かってばた足する。
「ヤバい、全然進まない!」
渦の流れは全く早くない。
渦潮みたいに白い水しぶきをあげたりもしてない。
それなのに必死に足を動かしても、体が進まない。
砂浜が近づかない。
「進め、進め、進んで……!」
流石に焦ってもう足だけに意識を集中する。
懸命に動かしてた足が、急に動かなくなった。
「ひっ」
右足が動かない。
何かに、おそらく人の手に、右足を掴まれた。
死ぬかも。
浮いていられなくなった体はそのまま渦に飲み込まれ、ゆっくりと海中に沈んでいった。
◇
「ももかさん、ももかさん!」
ユラリの声がする。
目を開けると、穏やかな海面が見えた。
体は浮き輪にはまったまま、海に浮いていた。
「あれ、生きてる?」
「生きてますか!?」
「多分、生きてると思います」
手で海面をぱしゃぱしゃと揺らしてみる。
水の感触がする。
その後ほっぺたをつねった。
痛い。
多分生きてる。
「良かった」
ユラリに抱きしめられた。
海水で濡れた胸に顔が包まれて窒息しそうになる。
柔らかい。
息が出来る様に顔を横に向けた。
「海中に体が引っ張られたような気が」
「気のせいじゃありません」
「え」
あれは夢じゃないのか。
そう言えば、胸の辺りが苦しい。
溺れかけたときに水を飲んだようだ。
「じゃあ、ゆうちゃんのお母さんは悪霊に?」
悪霊になってしまったゆうちゃんのお母さんが、私を海に引きずり込もうとしたんだろうか。
ユラリの胸に頭を預けたまま、落ち込む。
ゆうちゃんには言わないでおこう。
「違いますよ、ゆうちゃんのお母さんは普通の幽霊でした。そこにいます」
ユラリが体を話して、海面を指差した。
「居るんですか?」
見えないけど、ユラリが指すところをよく見ると、水面がそこだけ何かに遮られてる様に波が立っていない気がする。
「はい、ももかさんの言った通り、車の近くにいました」
二年以上海中にいたゆうちゃんのお母さんの幽霊が海面に出てくるときに、逆に海面の私が沈む水の流れが出来たのだろうとユラリが言った。
「死ぬかと思いました」
ゆうちゃんのお母さんの代わりに、海に沈んだ幽霊になるところだったのかもしれない。
「こんなところでは死なせません」
ユラリが答えた。
頼もしい。
ユラリが助けてくれたのかな。




