第三十四話 ゆうちゃん⑤
一度ゴーグルを外してみる。
さっきよりクリアになった視界で軽自動車を観察する。
「ここから、お母さんの幽霊がいるかって分かりますか?」
ユラリに聞いてみる。
「分からないですね」
「近づいてみましょう」
ゴーグルを着けて浮き輪から手を外す。
足はつかないけど、車はそんなに深くに沈んでいる訳じゃない。
三メートル位下かな?
泳いで近づけるだろう。
「ももかさん、危ないですよ。私が先に行くので、待っていてください」
「大丈夫ですよ。浮き輪もありますし、溺れたりしません」
「海中はももかさんが思ってるより危険です」
「でも」
「ももかさん」
ユラリが真剣な目でこちらを見てきた。
うん、分かってる。
私が行っても役に立たない、だって幽霊がいたとしても見えない。
「私の我がままなのに、待ってるのは、申し訳ないというか」
上目遣いにユラリを見て弁明する。
「お母さんの幽霊がいたら、海面に出てきてもらいますから。待っててください」
ユラリは、待っててください、を念押しするようにゆっくりと言った。
「はい。……すみません」
「謝らなくて良いんですよ」
ユラリは私の頭を撫でた後、軽自動車の方へ泳いでいった。
「すごく、情けない、かも」
ここまでユラリに連れてきてもらったのに、何の働きも出来そうにない。
浮き輪に掴まって、何も出来ずにただ海面に浮かんでいる自分が、情けない。
「幽霊、見えないから仕方がないんだけど」
ゴーグルを外して、掴まっていた浮き輪の中に泳いで入った。
こっちの方が掴まってるより楽だ。
「ユラリさん、どれくらいで帰ってくるかな」
お母さんの幽霊が居なかったら、それはそれでいい。
ゆうちゃんのお母さんはもう成仏してるって事だろうし。
会わせられないのは残念だけど、ゆうちゃんが居なくなるまではユラリと私と三人で遊ぼう。
幽霊になってたら、ゆうちゃんに会わせられる。
会わせたらどうなるかは分からない。
二人が一気に悪霊になっちゃうって事はないはずだ。
お母さんが悪霊になってたら、会わせられない。
ゆうちゃんには、お母さんの事も、事故の事も話さないでおこう。
「ユラリさんにも何かお礼がしたいな」
ユラリに我がままに付き合わせてしまった。
その上ユラリに任せっぱなしだ。
「食べ物は食べないって言ってたし、他の物」
ユラリが喜びそうな物を考えた。




