第三十一話 ゆうちゃん②
「ユラリさん、ちょっといいですか?」
「はい?」
海にゆうちゃんのお母さんを探しに行く事を伝えたい。
でもゆうちゃんにはこのことを知らせない方が良いだろうと思った。
「えっと……」
どう言えばいいか分からず、口ごもる。
ゆうちゃんの前で、ゆうちゃんに内緒の話があるから少し離れましょう、と言いづらい。
迷った末に下手くそなウインクをユラリに何回も送った。
「ももかさん?」
ユラリはキョトンとしている。
こうかがないみたいだ……。
ゆうちゃんの方を見てみる。
ユラリの前でクレヨンと落書き帳はが宙に浮いている。
青色のクレヨンを取って、塗って、しまい、緑色のクレヨンを取って、塗って、しまい。
ゆうちゃんは一本ずつ手にとって、目の前の海を描いてるみたい。
ちゃんと使わないクレヨンはしまってる。
しっかりした子だ。
ゆうちゃんはお絵かきに夢中なようだ。
「ユラリさん、ちょっといいですか?」
手招きしてまたウインクする。
結局不自然に呼び出しちゃった。
「はい。ゆうちゃん、少し待っててくださいね」
今度はユラリに伝わったみたい。
ユラリに返事をするように、ゆうちゃんの持つ水色のクレヨンが揺れた。
◇
岬に絵を描くゆうちゃんを残して、私たちは少し離れた砂浜に来ていた。
昨日描いたハートマークは全部消えちゃったみたい。
寂しくなって、足でハートマークをもう一度描いた。
「ももかさん、どうしたんですか?」
「ゆうちゃんのお母さんのことなんですけど」
図書館で調べた事を話した。
ユラリは相づちを打ちながら聞いていた。
「それで、もしかしたら海の中にゆうちゃんのお母さんがいるかもしれないって思って」
「なるほど、海の中にいるなら、地上からは見えませんしね」
「はい、それで、写真に映ってた軽自動車の周りを調べたいんです」
スマホに移した写真を見せる。
海中に沈んだ、黄色い軽自動車が映っている写真だ。
「車はあるんですね」
「この近くに、ゆうちゃんのお母さんが居るとおもうんです」
居たとしても、その後どうしたら良いのかは分からない。
それでも、会わせられるかもしれないなら、探した方が良いと思った。
「ももかさんが今日、いつもと雰囲気が違ったのは、ゆうちゃんのお母さんを探しに行こうとしてたからなんですね」
納得がいったという風にユラリは言った。
「そんなに違いましたか?」
「ええ、なんだかやる気がみなぎってましたよ」
ユラリが口に手を当てて、くすくすと笑った。
なんだかむず痒い。
笑うユラリは可愛いけど、少し気恥ずかしさを感じた。




