第三十話 ゆうちゃん①
「石橋未佳子さん(31)と石橋由宇ちゃん(5)が海に転落し死亡、アクセルとブレーキの踏み間違いによる事故か。一家心中の疑いも含めて捜査中」
ゆうちゃん、5歳、これだろう。
お母さんが車の操作を間違えて海に落ちちゃったのか。
ニュースで見た一家心中って、ゆうちゃんの事だったんだ。
「事故は、仕方がないよね」
お母さんも悔やんでいるだろう。
海に居ないって事は、成仏したのかな。
「私が暗くなってもどうしようもないしな」
どうしようもないと言うか、どうすることも出来ない。
ゆうちゃんは時間が経てば成仏出来る。
私に出来ることは何もない。
「お母さんに、会わせてあげたかったな」
海に落ちた車……。
ある考えが頭に浮かんだ。
「海の中は、まだ見てない」
ゆうちゃんは海面にいた。
岬にも出てきてたから会えた。
(もしかしたら、海の中にお母さんの幽霊がいるかもしれない)
何の根拠もないし、確認する術もない。
でも何か確信めいた物を感じた。
カメラを取り出し、ユラリが撮った海中の写真を注意深く見る。
「これ、車が写ってる」
黄色い軽自動車らしき物が映り込んでいる写真があった。
ゆうちゃんみたいに写真に幽霊が入り込んで居ないか探す。
「うーん、車だけだ」
たまたま車が沈んでたのかもしれない。
この車はゆうちゃんと何の関係もないのかもしれない。
「まあでも、探してみてもいいよね」
明日はユラリと一緒に海の中を探してみよう。
一応新聞の記事をスマホで写メってから返した。
◇
「おはようございます、ユラリさん」
「ももかさん、おはようございます」
次の日の朝、私はTシャツと短パンの下に水着を着て海に来ていた。
ゴーグルと浮き輪も持ってきている。
日焼け止めも塗ったし、海に入る準備は万端だ。
「ももかさん、なんだか気合いが入ってますね」
私の決意を察したのかユラリが言った。
「はい、気合い十分です」
ゆうちゃんは私より一足先にユラリと合流していたらしい。
岬に腰掛けているユラリは、ぽっかりと空いた空間を膝の上に抱えていた。
「ゆうちゃんもおはよう」
ユラリの前で、木の棒がひとりでに揺れた。
昨日渡した木の棒を、今日もゆうちゃんは持ってるようだ。
「あのね、お絵かきが出来るように、クレヨンと落書き帳を持ってきたよ」
小学校を卒業してから、使うことなくしまいこんでいたクレヨンを引っ張り出してきた。
木の棒が持てるならこれも持てるだろうと考えた。
「良かったですね、ゆうちゃん」
クレヨンと落書き帳をゆうちゃんに渡した。
木の棒が今度は少し早めに揺れた。
「ふふ、ありがとうですって」
ユラリが笑いながら言った。
「どういたしまして!」
ゆうちゃんは喜んでくれたみたい。
可愛いな。




