第二十八話 おばけ⑤
カリカリと、少し湿った砂に棒で線を描き付ける。
砂浜をキャンバスに、足も手も砂だらけにしながら思い思いに絵を描いていく。
「ユラリさん、これ、何に見えますか?」
毛を一本一本書き込んだ自信作をユラリに見せる。
「えーっと、猫、ですかね?」
「正解です!」
ニャー、と吹き出しで鳴き声を書き入れた。
「ゆうちゃんは何を描いてるの?」
ひとりでに動く棒に向かって話しかける。
棒が動きを止めて、文字を書こうとし始めた。
描くのを邪魔しちゃったかな?
「お、か、あ、さ、ん」
棒が描いた文字を読み上げた。
おかあさん、お母さん。
お母さんか。
まだ5歳だもん、会いたいよね。
涙が出そうになった。
ぎゅーっと抱き締めてあげたい。
「ゆうちゃん、お姉ちゃんはお母さんじゃないけど、遊んであげるからね」
「ありがとう、ですって」
ユラリが言った。
なんて健気な子なんだろう。
「ユラリさん、ゆうちゃんとお母さん、会わせてあげることは出来ませんかね」
「そうですね……この子のお母さんが生きてるのか死んでるかも分からないですし……」
ユラリが歯切れ悪く言った。
この子のお母さんが生きてても、ゆうちゃんの事は見えないだろうし。
死んでても、もう成仏してしまってるかもしれない。
この海にいる幽霊はゆうちゃんだけらしいから、近くには居ないのだろう。
「ちょっと、この子のことを調べてみます」
手がかりはほとんどないけれど、5歳の子が海で死んだ事件、人の少ない町だし調べればわかるはず。
「ももかさんが気に病む必要はないと思いますよ」
ユラリが心配そうに言った。
「ありがとうございます」
「ゆうちゃんは、自分が死んだこともわかってます。時間が経てば、ちゃんと成仏できるはずです」
「それを聞いて安心しました」
何もしない方が良いのかな。
調べた後で考えよう。
お母さんが生きていたとして、もし会わせてしまったら、成仏出来なくなるのかもしれない。
ゆうちゃんが持つ棒がとんとんと私を叩く。
「ん?どうしたの?ゆうちゃん」
棒が砂浜に描かれた絵を指した。
「これは、ユラリさん?」
棒人間と、下半身が逆三角形で描かれた棒人間が手を繋いでいた。
「お、ね、え、ち、ん」
木の棒が字を書いた。
これは私か。
私とユラリらしい。
「ゆうちゃん、可愛いね」
胸がきゅーっとなる。
撫でたり抱っこは出来ないから、ハートマークをたくさん砂浜に描いた。




