第二十五話 おばけ②
「その子の他にはお化けは居ないんですか?」
カメラに映ったのは子供の姿だけだったけど、何かと噂の多い海だ。
私が見えないだけで他にもたくさんいるのかもしれない。
子供のおばけがいるって聞いちゃったし、ここまで来たら全部聞いておこう。
やけくそになってユラリに聞いてみた。
「うーんと…」
ユラリは目を細めて周りを見る。
私が遠くのものを見るときの様に目を凝らしている。
眉間にしわが寄って、長いまつげが目を覆って、ほとんど目が見えなくなってる。
これだけの美人でも、変な顔にもなるんだな。
カメラのレンズをユラリに向けてみた。
ユラリは気づかない。
写真に撮れないのは分かってるから、シャッターは切らない。
代わりに変な表情のユラリの顔を、ズーム機能を使ってじっくりと眺める。
「あの子以外は見当たりませんね」
ユラリがそう言ってこちらを向いた。
慌てて向けていたカメラを下ろす。
別に隠すことじゃないのだけど、なんとなくバツが悪い。
「そうですか、良かったです」
平静を装って返事をする。
「あの子が、こっちでいっしょに話したいって言ってます」
ユラリが言った。
「え?」
私の口からはそれ以上の言葉が出てこない。
ご遠慮したい。
私はビビりなのだ。
いっしょに話したいって、私はお化けの声は聴けないよ。
色々な思いが頭を駆け巡る。
なんで人魚のユラリが平気でお化けは怖いのか、自分にもよくわからない。
でも怖いものは怖い。
「それは…あの…私、お化け見えないし…」
しどろもどろになりながら遠回しに拒否を伝える。
「大丈夫ですよ、私が通訳しますし」
ユラリが穏やかに笑う。
多分、嫌って言えばユラリはそれ以上勧めないし、お化けの話もしなくなるだろう。
それは分かってるけど、ユラリに嫌と言いづらい。
「じゃあ、いっしょにお話ししましょう」
しばらく考えた後、私はそう答えた。
朝だし、ユラリもいるし、海に連れ込まれることはないはずだ。
子供だし、映画に出てくる髪の長い女の人みたいにいじわるでもないはず。
私の返答を聞いたユラリは、最初に指さしたほうに視線を向けて、手招きした。
ユラリの視線の動きで、私には見えないその子が、だんだんとこちらに近づいてくるのが分かる。
心臓がバクバクといっている。
暖かくいい天気のはずなのに寒い気がする。
寒いのに背中を汗が伝うのが分かった。
冷や汗だ。
「おはようございます。」
ユラリがそう言い、なにかを抱き上げるしぐさをした。
ちょうど子供を膝の上に乗せた様なかっこうになった。




