第二話 出会い②
ユラリと名乗った人魚はニコニコと笑っている。
それにつられて私の顔も笑顔になる。
頭は目の前の光景を処理しきれずに固まっているのに、顔は笑顔を作る不思議な感覚。
しばらくニコニコとお互いの顔を見つめ合う。
沈黙の後やっとの事で口を開く。
「……人魚……ですか……」
「はい、あなたは人間の女の子ですよね」
「そうです。すぐそこの高校に通ってます」
「人魚に会うのは初めてですか?」
「……はじめてですね……」
もちろん初めてだ。
今まで妖怪に会った事はない。
あれ、人魚って妖怪なのかな。
未確認動物、通称UMAの方が正しいのかもしれない。
ただ、動物なんて呼び方は失礼だと思うくらいユラリと名乗る人魚は綺麗だ。
まだ本調子ではない太陽が淡くユラリを照らしている。
上半身はチューブトップの水着の様な物を着ており、下半身には何も身に付けていない様だ。
乾ききっていない鱗が日光を反射してキラキラと光っている。
……待てよ、もしかしてこれは特殊メイクと言うやつなのでは無いか。
何かの撮影なんじゃないだろうか。
もしかしてこの美人は女子高生をからかって遊んでいるのでは……?
そうあってくれと願望を込めながら、ユラリに声をかける。
「あの、ちょっとだけ足、じゃなくて、えっと尻尾?を触らせてもらえませんか」
「尻尾ですか?いいですけど…いきなり大胆ですね」
キョトンとした顔をしつつユラリはこちらに向けていた尻尾に目をやる。
ピチピチと尻尾が跳ねる。
特殊メイクなら尻尾の先まで動かないんじゃないかな。
いやきっと最新の特殊メイクはすごいんだよ、機械も使ってるのかもと自問自答しながら尻尾に触るためにユラリに近づく。
「失礼します」
「ふふ、どうぞ」
意を決して触る。
冷たい。
鱗の感触は薄いガラスに似ている。
ヒレは見た目よりも柔らかく、力を入れると折れてしまいそうだ。
とても作り物とは思えない。
「ももかさん、ももかさん」
声をかけられハッとして手を引っ込める。
夢中になって触ってしまった。
結構な時間が経っている気がする。
「ごめんなさい!」
「いえ、いいんですけど…随分真剣に触ってましたが、何か気になることでも?」
「ユラリさんが人魚って信じられなくて…もしかしたら特殊メイクなのかなって」
「そういうことでしたか」
ユラリは合点がいったと言うように頷き、腕を上げ脇を見せる。
毛なんて一本も生えてないツルツルでキレイな脇だ。
ちょっとそこも触ってみたいなんて考える。
「ももかさん、ここを見てください」
ユラリは脇のすぐ下、あばら骨辺りを反対側の手で指差す。
それに従い視線を落とす。
そこはぱっくりと割れている。
「怪我してるじゃないですか!?」
「違います、違います!」
もっとよく見てください、と言われそこに顔を近づける。
潮の匂いがする。
海から漂ってくる匂いなのかユラリの匂いなのかは分からない。
ぱっくりと割れた場所から血は流れていない。
ぱくぱくとゆっくり開いたり閉じたりしている。
開いたときにちらりと肉で出来た層が見える。
「……エラだ」
「はい、人間には無いですよね」
流石に体に穴を空けられる特殊メイクは、聞いたことがない。