第十六話 カメラ⑤
「人魚はご飯を食べないんですか?」
ユラリに聞いてみる。
実際、ユラリがなにかを食べている所なんて想像できない。
この長い潮風に揺れる髪は、食べ物じゃないなら何で出来てるんだろう。
プランクトンを食べて生きる鯨もいるらしい。
それはでも、何も食べてないわけではない。
「食べないですね。やろうと思えば、味わう事は出来ますが」
「どうやるんです?」
ユラリがももかの方を向き手をだらりと下げ、プラプラとお化けの真似の様に振った。
「ふふ、幽霊のお供え物みたいなものですよ」
食べ物からエネルギーを吸い取り、味わう真似事は出来るという。
幽霊へのお供え物が、腐ったりダメになるのが早くなるのは、幽霊が味わっているからなのだそうだ。
「それが人間の味覚と一緒かどうかは分かりませんが、なんとなく甘い、とか、苦い、とかは分かりますよ」
「歯磨きをしなくてよくて便利ですね」
「はい。歯磨きはやったことないです。たまにエラの掃除はしますが」
(エラの掃除ってどうやるんだろう)
気になるが、前に指を突っ込んで怒られたし、あまりエラには触れないでおこう、と口に出すのを止めた。
「海の底は泳いでいるだけでエネルギーが吸えます」
「ユラリさんの若さの秘訣ですか」
「ふふ、人魚はみんな見た目が変わらないので、海の底だと特別若いとは言われませんね」
海の底だとお腹が空くことも無いのだそうだ。
「それは羨ましいです」
「ずっと海から出ていると、お腹が空くんじゃなくて、体が怠くなります」
「今は大丈夫ですか?」
「1日位なら大丈夫ですよ。でも、そうですね2、3日地上にいたら、打ち上げられたクラゲみたいに干からびちゃうかもしれません」
ユラリが干からびる所を想像してみた。
浜辺に打ち上げられたクラゲみたいに水分が抜けて、弾力が無くなって、濁ったように茶色くなったユラリの姿を。
もしユラリが打ち上げられて死んでしまったら、干からびる前になんとかして海に戻そう。
それだと腐っちゃうのかな?
できればユラリには死んだあとも綺麗でいてほしいと思った。
「人魚は死んだら泡になるんじゃないんですか?」
死ねば泡になるのは人魚姫に出てくる魔女の呪いだから、 多分ユラリはならないことは分かってる。
それでも、死体が醜く朽ちるよりは泡になって欲しいと思った。
「泡になって消えるのも、体が動かなくなるのも、同じことですよ」
死んだ後にどうなって欲しいか考えるなんて、本人以外のわがままでしかないけれど。




