第十五話 カメラ④
ポチポチとボタンを押して、ユラリが撮った写真を二人で眺める。
顔をくっつけて小さな画面を見た。
「ユラリさんは普段こんな景色を見てるんですね」
「海の底は、もっときれいですよ」
海の底、浦島太郎が招待された竜宮城。
どんな所だろう。
きっとキラキラしてて、ヒラメとタイが演奏してるような所。
「ももかさん、この写真は?」
写真を次々に映し出していると、前に撮った写真が出てきたらしい。
「これは、お父さんが釣りで鯵を釣ってきた時に撮ったやつですね」
お父さんはたまに釣りをしに行って、ほとんど収穫がないまま帰って来る。
この日はたまたま釣れたから記念に撮ったのだろう。
「釣りですか」
ユラリが言う。
言ってから、人魚に釣りの話をするのはまずかったんじゃないかと心配になる。
海の仲間を食べるなんて、人間は野蛮です、とか言われたらどうしよう。
嫌われたかもしれない。
「私は釣りなんてやったこと無いですよ」
咄嗟に弁解するようにそう言い、ユラリの方を見る。
「私も無いですね」
ユラリが想像の十倍はあっさりとした反応を返す。
あれ、人魚も釣りをするのだろうか。
アリエルは蟹や鯛と一緒に歌っていたけど、そういう事はしないのかな。
気になる。
おずおずとユラリに聞いてみる。
「あの、人魚って釣りをするんですか?」
「あんまり……人間と違って、食べる必要がないので」
魔女が魔法に使う材料を取ることはあるらしいですよ、とユラリが言う。
人魚はご飯を食べないのか。
鯨も魚を食べないんだっけ。
「私たちの仲間を殺すなんて、とか言われるかと思いました」
ユラリがキョトンとした顔をする。
「まあ、目の前で他の生き物が死ぬのはいい気分ではありません」
「怒らないんですね」
「……ももかさんは、私が犬や猫を殺したら怒りますか?」
「ユラリさんがそんなことをするなんて想像できません」
犬や猫を殺すどころか、虫を殺すのも想像できない。
「やりませんけど、仮に、ですよ」
「……怒んないです」
少し、悲しくなるかもしれないが、多分怒らない。
人並みに動物は好きだけど、ペットを飼った事も無いから、そこまで思い入れもない。
「少し悲しくなる、そうですね。私もももかさんが魚を殺したら、少し悲しくなるかもしれません」
「これからは魚を食べません」
ユラリが悲しくなるのなら、魚を食べるのは止めよう。
魚は好きだけど。
特に鯵が。
でも卵焼きがあったら我慢できる。
「我慢しなくていいですよ。人間が食べないと生きられないのは分かってますし」
ユラリは海を見ながら穏やかに言った。
ユラリの横顔からは、何の感情も読み取れなかった。
「食べないと生きられないって、少し悲しいかもしれないです」
多分、この気持ちは食べなくても生きられる人魚には分からない。
それも少し悲しい。




