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第十一話 人魚姫⑦

 物語は人間になろうとする人魚姫に抵抗する。


「もし人魚姫が王子を助けなかったら」


「王子は死に、人魚姫が恋する事も無かったでしょう」


「もし人魚姫が王子に恋をしなかったら」


「人魚姫は人間になって王子と結ばれようとは思わなかったでしょう」


「もし王子を浜辺で見つけたのが男の人だったら」


「王子は命の恩人だと知らなくても人魚姫を選んだかもしれません」


「もし魔女に舌を切られなかったら」


「王子の誤解を解けたかもしれません」


「もし修道院の女の人がずっと修道院にいたら」


「物語で王子が言っていた様に、王子と人魚姫は結ばれたでしょう」


「もし王子を殺していたら」


「人魚姫は人魚に戻り、陸であった事を過去にするでしょう」


「やっぱり人魚姫が可哀想じゃないですか?」


「王子への愛を貫いた悲恋の物語ですね」


 人魚姫は最初から最後まで王子を愛していた。


「私なら…お婆ちゃんと魔女に脅された時に思いとどまるかもしれません」


「舌を切られて一歩歩く毎にナイフで抉る様な痛みが走る足なんて、罰ゲームも良いところですよね」


「舌を噛んだだけで痛いのに、切られる痛みは想像できません」


「そんな拷問があるらしいですね」


「剃刀を踏んだ時は、傷が痛んで歩くのも嫌になりました」


「私も尻尾を岩に当ててしまった時は、泳ぐのが嫌になります」


「人魚姫は、諦めなかったんですね」


「そうですね」


「お話の登場人物は諦めない人が多いですね」


「すぐ諦める性格だと面白くならないですし」


「そんな身も蓋もない」


 確かに私が人魚姫なら、物語は1ページにもならないだろう。

 15歳になり海の外へ行きました。

 難破してる船を見つけ、王子を助けました。

 王子に一目惚れをして魔女に人間にしてくれるよう頼みました。

 舌は抜かれ、新しい足は歩く度に抉られる様な痛みが走ると言われました。


 ももかは諦めました。

 終わり。

 ちゃんちゃん。

 主人公になるのは大変らしい。


 ブブブ、ブブブ


 セットして置いたアラームがなる。

 スマホをスカートのポケットから取りだし時間を見ると、ホームルームの30分前になっている。


「そろそろ行かなくちゃ」


 立ち上がり、スカートの砂を払う。


「太陽も出てきましたね」


 朝日に照らされ光るユラリの顔を見て、写真を撮るのを忘れていた事を思い出す。

 次こそは撮ろう。


 うーん、とユラリが伸びをする。

 白い肌を太陽が照らす。

 一層白さがますようだ。


 海に飛び込むユラリを眺める。

 防水のカメラがあったら泳ぐユラリも撮れるかもしれない。

 海を泳ぐユラリに手を振って、帰りも靴に砂が入らない様に慎重に歩く。


 堤防の上に停めていた自転車に跨がり、学校に向かって漕ぐ。

 追い風が吹いている。

 いつもより楽に進む気がする。

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