都での生活 応用編
Sideコニー
都の学校でも、ポチは一緒だ。
おじさんが言うには、ポチはコニーの「契約竜」だから、ずっと一緒にいてもいいのだそうだ。
「契約ってなに?」
「竜に名付けをすることだ」
コニーの質問に、おじさんが言った。
確かにポチにポチと名前をつけたのはコニーだ。母親に名前はなんだと聞かれたので、ポチだと答えたのだ。
「あいつめ、確信犯か……!」
これを聞いたおじさんはうなだれていた。
コニーにはよくわからないけど、ポチとずっと一緒にいられるのは嬉しい。
それに、都の学校にも友達ができた。
きっかけは入学式だ。今からどうすればいいのか説明がわからず、いっそ帰ろうかと思っていると、親切な男の子が話しかけてくれたのだ。言葉が切れ切れのおかしな話し方だったが、コニーには聞き取りやすい早さで助かった。彼があと一歩遅く現れれば、コニーは帰っていただろう。
「都の学校でも、やっていけそうかも」
「うむ、よき友人は宝だな」
一日の授業内容をコニーに説明する羽目になる彼が、教師に泣きつくまではそう時間はかからなかった。
その友達の兄が、コニーの兄であるピートを知っているらしい。聞くとなにやら有名人のような言い方をしていた。ピートはそんなことを一言も言っていなかった。
友達の兄が話したいと言ったらしく、コニーはポチと一緒に友達の家に招待された。
「こんにちわコニーです、よろしく」
「ポチという名だが断じて犬ではない、誇り高き竜である」
一人と一匹に挨拶され、友達の兄は目を丸くした。
「へー、あのピートの弟、ほー……」
友達の兄は興味津々といった様子で、コニーをじろじろながめ、ずっと笑っていた。
ピートが何をしたんだろうかと気になって尋ねてみた。
「にーちゃん、なにかしましたか? たまにすっごい悪戯をして、村中から追いかけられたりするの」
ピートの悪戯は、そこいらのものとはスケールが違う。ピートは色々とすごいのだ。
いつだったが、村の子供が落とし穴作りにハマってしまい、村の住人が困った時があった。その時子供を懲らしめるために、ピートはすごい落とし穴を作って、子供たちを突き落とした。落とし穴にはめられる気持ちを学んでもらおうとしたのだ。ここまではいいのだが、問題はこの後だ。
落とし穴に出口を作ってあったらしいが、そこに至るまでの道は複雑な迷路になっており、子供の力では踏破できず、大人が救援に向かうもそちらも迷うという二次被害が発生。結果、村人総出で救助にあたる大事になった。
これを聞いた友達の兄は、爆笑した。
「弟なだけあって、よく知ってるな! ま、ピートだって親兄弟に知られたくないことがあるだろうから、内緒ってことで」
知られたくたいくらいに恥ずかしいことでもしたんだろうか。とっても気になるし、コニーには何でも話してくれるピートなので、今度手紙で聞いてみようと思った。
Sideポチ
先日会った青い竜から、上手な火の吹き方を教えてもらうことになった。
「火を吹こうとすると、たまに口の中が煙たくなってしまうのだ」
ポチが告白すると、青い竜は言った。
「おまえ不器用だな」
ポチはムッとする。不器用とは何事か。他竜よりも、ちょっとだけやり方がまずいだけだ。
ポチがいじけ出す前に、青い竜は口の中で煙を出さない方法を伝授してくれた。
「よいか、息を吸うときに火を出そうとしてはいかん。すった息を、思いっきり吐きながら火を出すのだ」
なるほど、息を吸う時に火を出そうとしたのがまずかったらしい。ポチはたまに水遊びでも、水の中で息を吸おうとして溺れることが、たまにある。あれと同じことかもしれない。
理解したことをそう説明すると、青い竜が呆れた。
「お前、馬鹿だな」
失礼な竜である。
ともあれ、言われた通りに火を吐いてみる。
「むぅ」
ポチはゆっくりと息を吸った。火はまだ出してはいけない。
「ふぅ!」
ぶふーボスッ!
最初うまくいきそうであったが、すぐに煙が出てしまった。だが煙を口の外に出すことには成功した。
「……。」
微妙な結果にポチが沈黙していると、青い竜は不思議そうに煙を眺める。
「いるのだな、こういう竜も」
なんだ、自分が生まれたときから完璧な竜だったとでも言うのか。己は子供なのだから、多少の失敗は寛容に受け止めてもよいであろうに。
ポチがふてくされていると、青い竜はそれを感じ取ったらしい。
「毎日練習すれば、そのうちできるようになるだろう」
そうなぐさめてくれた。
――我はできないのではない、断じてそうではない。
今日はかえって、おやつをやけ食いしてやろうと思う。




