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迷子の竜の冒険記  作者: 黒辺あゆみ
第二章 迷子の竜、都に行く
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都での生活 基礎編

Sideコニー


都はめずらしいものばかりである。

「ふぁー」

「ふぉー」

コニーとポチは、都の景色を見て口をぱっかり開けていた。

「これ、ぼうっとしていると人にぶつかるぞ」

おじさんに注意されるまでぼうっと立っていたら、早速ポチが通行人に踏まれた。

 都は夜も明るい。魔術師が魔法のあかりを灯してるのだそうだ。

「夜なのに昼みたい。変なの」

月のあかりじゃ明るさが足りないとは、都の人は目が悪いに違いないとコニーは思った。

 都に住む人々の服装も、なんだか毎日お祭りみたいに派手派手しい。コニーは道行く人々の格好を見て、何故か裏山に住む動物を思い出す。

「首がフサフサしてるー」

「服がギラギラである」

コニーとポチがそれぞれ感想を言っていると、言われた本人からギロリと睨まれる。

 あまりに住んでいた村と違うそんな光景に、コニーがちょっぴりホームシックにかかってしまったことは、ポチとの秘密である。


でもそんなことにも、一ヶ月もすれば慣れてきた。

 コニーがポチを連れて大通りを歩くと、足元でポチがフンフンと鼻をならす。

「コニー、あちらからよいにおいがするぞ!」

ポチはキュー! と鳴いてある方向を示す。

「そっちに美味しいのがありそう?」

コニーもそちらに歩き出す。言葉が通じなくとも、なんとも息のあう一人と一匹である。

「かわいい坊ちゃんたち、一切れ食べな!」

フラフラと店の前にやって来たコニーとポチに、果物屋のおばさんが試食のサービスをしてくれた。

「おいしいねぇポチ」

「おお、これはメロンというのか!? 南国の果物とな!」

「美味いだろう? 自慢の果物だからね!」

美味しそうに食べる子供となにやら丸い生き物に、店のおばさんも愛想が良かった。

「こんなことばかりしているから太るのだ」

おじさんがそんな小言を言うが、コニーとポチには聞こえない。

 休みの日にポチと美味しいものめぐりをするのが、コニーの目下の楽しみである。


 しかし、どうしても慣れることのできないこともある。

 一つは、どうして都の人は歩くのが速いのかということだ。ただ普通に歩いているだけなのに、「ちんたらすんな!」と怒られたり、「邪魔よ!」と突き飛ばされたりする。

 都の人はそんなに急いでどこへ行っているのだろうか? 一秒でも遅れると、すごく怒られるのだろうか? だとしたら都の人は短気な人が多いのであろう。

「都って、速いね」

「我の毛皮が足跡だらけなのである」

隅っこをゆっくり歩くコニーの足元にいるポチは、蹴られて踏まれてヨレヨレになっていた。

 もう一つは、都の人はどうして早口で喋るのかということだ。コニーにとって、都の人の会話は、難解な早口言葉であった。

「どうした坊主迷子か? そいつはいけねぇなぁ親御さんはどこにいるって? 連れてってやるから名前を言いなよ」

「わかんないから、さようなら」

まくし立てるように話しかけて来た青年に、コニーはペコリと頭を下げて去っていく。青年が再度呼びかけても無視だ。

 そんな状態であるから、都の人との会話が成り立つはずもなく、コニーも端から自ら努力して会話をする気もない。

 こうやって、コニーは周りの空気が読めない人間になっていくのであった。


Sideポチ


ポチとコニーが都での生活に慣れた頃。都のえらい魔術師が、大人の竜と会わせてやろうと言ってきた。

 別に頼んだわけではないのだが、ぜひ会ってくれと頭を下げて頼まれれば、会ってやらないこともないポチであった。

 ポチは一緒についてきたコニーと、大きな広場で待つ。

「ポチじゃない竜って、どんなのかなー」

「家族じゃないといいのである」

ポチは引っ越し最中に落とされたことを根に持っていた。

 しばらくすると空の向こうから、ばっさばっさと飛んでくる青い影が現れた。影は次第に大きくなり、ポチたちの間近まで迫る。

「よいしょっと」

ドシン!

太陽の光を反射して、青い鱗をピカピカ光らせている竜が地面に着地した時、コニーとポチの振動で体が揺れた。

「ふわー、おっきいね」

コニーがマヌケ面で口を開けて見上げている。

 地面に着地してもなお大きい。そばに建っている塔よりも大きい。正直見上げていると首が痛い。

 だが見にくいのはあちらも同じだったようで、竜は腹ばいに伏せて、顔をぐっとコニーとポチに近づけた。

「丸いな、おまえ」

青い竜の一言目が、これだった。

 これにポチが反論する。

「鱗の竜と違って毛深いせいで、丸く見えるだけである」

自分は太っているのではない、毛深いだけだと言い張った。

 そんなことよりも、ポチには大人の竜に尋ねたいことがあった。魔術師と会ってから、ずっと気になって仕方がない疑問が。

「一つ尋ねるが」

「なんだ」

「魔術師の血は胃腸に良いというのは本当であるか?」

背後で、付き添いの魔術師がずっこける。

 ポチの疑問に青い竜が答えた。

「滋養強壮に効くらしいぞ」

ポチは魔術師の効能で、確かめなければならない項目が一つ増えたのであった。


Sideコニー


大人の青い竜は大きかった。

 ポチとは違った鱗の竜で、ピカピカだった。

「……あんまり犬っぽくない」

けれど登ったら楽しそうだった。でも鱗がつるつるして登りにくいかもしれない。

 ポチは青い竜とおしゃべりできるみたいだ。「ガオー」「キュー」「グルグル」「キュエー」とよく分からない会話をしていた。

「ねー、なんて話してるの?」

一緒にいた魔術師の人に聞いてみた。

「いや、えっと、その……秘密です」

そう言って教えてくれなかった。なんてケチんぼだろうと思ってコニーがムスッとしたら、魔術師の人が慌ててお菓子をくれた。美味しかった。

「あれが本来の竜の姿です、どうですか?」

魔術師の人が聞いてきたので、コニーは正直に答えた。

「ピカピカつるつるで、楽しそうだったけど、ポチの方が可愛いかな」

魔術師の人はがっくりきていた。疲れているのかと思い、ポチのお尻を撫でて癒してもらおうとコニーは考えた。

「ぷにぷにで気持ちいいよ?」

さあ癒されろとばかりに、コニーはポチを持ち上げてお尻を見せた。

 魔術師はポチの尻を顔に突きつけられて、ただじっと見つめているしかなかった。

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