都での生活 基礎編
Sideコニー
都はめずらしいものばかりである。
「ふぁー」
「ふぉー」
コニーとポチは、都の景色を見て口をぱっかり開けていた。
「これ、ぼうっとしていると人にぶつかるぞ」
おじさんに注意されるまでぼうっと立っていたら、早速ポチが通行人に踏まれた。
都は夜も明るい。魔術師が魔法のあかりを灯してるのだそうだ。
「夜なのに昼みたい。変なの」
月のあかりじゃ明るさが足りないとは、都の人は目が悪いに違いないとコニーは思った。
都に住む人々の服装も、なんだか毎日お祭りみたいに派手派手しい。コニーは道行く人々の格好を見て、何故か裏山に住む動物を思い出す。
「首がフサフサしてるー」
「服がギラギラである」
コニーとポチがそれぞれ感想を言っていると、言われた本人からギロリと睨まれる。
あまりに住んでいた村と違うそんな光景に、コニーがちょっぴりホームシックにかかってしまったことは、ポチとの秘密である。
でもそんなことにも、一ヶ月もすれば慣れてきた。
コニーがポチを連れて大通りを歩くと、足元でポチがフンフンと鼻をならす。
「コニー、あちらからよいにおいがするぞ!」
ポチはキュー! と鳴いてある方向を示す。
「そっちに美味しいのがありそう?」
コニーもそちらに歩き出す。言葉が通じなくとも、なんとも息のあう一人と一匹である。
「かわいい坊ちゃんたち、一切れ食べな!」
フラフラと店の前にやって来たコニーとポチに、果物屋のおばさんが試食のサービスをしてくれた。
「おいしいねぇポチ」
「おお、これはメロンというのか!? 南国の果物とな!」
「美味いだろう? 自慢の果物だからね!」
美味しそうに食べる子供となにやら丸い生き物に、店のおばさんも愛想が良かった。
「こんなことばかりしているから太るのだ」
おじさんがそんな小言を言うが、コニーとポチには聞こえない。
休みの日にポチと美味しいものめぐりをするのが、コニーの目下の楽しみである。
しかし、どうしても慣れることのできないこともある。
一つは、どうして都の人は歩くのが速いのかということだ。ただ普通に歩いているだけなのに、「ちんたらすんな!」と怒られたり、「邪魔よ!」と突き飛ばされたりする。
都の人はそんなに急いでどこへ行っているのだろうか? 一秒でも遅れると、すごく怒られるのだろうか? だとしたら都の人は短気な人が多いのであろう。
「都って、速いね」
「我の毛皮が足跡だらけなのである」
隅っこをゆっくり歩くコニーの足元にいるポチは、蹴られて踏まれてヨレヨレになっていた。
もう一つは、都の人はどうして早口で喋るのかということだ。コニーにとって、都の人の会話は、難解な早口言葉であった。
「どうした坊主迷子か? そいつはいけねぇなぁ親御さんはどこにいるって? 連れてってやるから名前を言いなよ」
「わかんないから、さようなら」
まくし立てるように話しかけて来た青年に、コニーはペコリと頭を下げて去っていく。青年が再度呼びかけても無視だ。
そんな状態であるから、都の人との会話が成り立つはずもなく、コニーも端から自ら努力して会話をする気もない。
こうやって、コニーは周りの空気が読めない人間になっていくのであった。
Sideポチ
ポチとコニーが都での生活に慣れた頃。都のえらい魔術師が、大人の竜と会わせてやろうと言ってきた。
別に頼んだわけではないのだが、ぜひ会ってくれと頭を下げて頼まれれば、会ってやらないこともないポチであった。
ポチは一緒についてきたコニーと、大きな広場で待つ。
「ポチじゃない竜って、どんなのかなー」
「家族じゃないといいのである」
ポチは引っ越し最中に落とされたことを根に持っていた。
しばらくすると空の向こうから、ばっさばっさと飛んでくる青い影が現れた。影は次第に大きくなり、ポチたちの間近まで迫る。
「よいしょっと」
ドシン!
太陽の光を反射して、青い鱗をピカピカ光らせている竜が地面に着地した時、コニーとポチの振動で体が揺れた。
「ふわー、おっきいね」
コニーがマヌケ面で口を開けて見上げている。
地面に着地してもなお大きい。そばに建っている塔よりも大きい。正直見上げていると首が痛い。
だが見にくいのはあちらも同じだったようで、竜は腹ばいに伏せて、顔をぐっとコニーとポチに近づけた。
「丸いな、おまえ」
青い竜の一言目が、これだった。
これにポチが反論する。
「鱗の竜と違って毛深いせいで、丸く見えるだけである」
自分は太っているのではない、毛深いだけだと言い張った。
そんなことよりも、ポチには大人の竜に尋ねたいことがあった。魔術師と会ってから、ずっと気になって仕方がない疑問が。
「一つ尋ねるが」
「なんだ」
「魔術師の血は胃腸に良いというのは本当であるか?」
背後で、付き添いの魔術師がずっこける。
ポチの疑問に青い竜が答えた。
「滋養強壮に効くらしいぞ」
ポチは魔術師の効能で、確かめなければならない項目が一つ増えたのであった。
Sideコニー
大人の青い竜は大きかった。
ポチとは違った鱗の竜で、ピカピカだった。
「……あんまり犬っぽくない」
けれど登ったら楽しそうだった。でも鱗がつるつるして登りにくいかもしれない。
ポチは青い竜とおしゃべりできるみたいだ。「ガオー」「キュー」「グルグル」「キュエー」とよく分からない会話をしていた。
「ねー、なんて話してるの?」
一緒にいた魔術師の人に聞いてみた。
「いや、えっと、その……秘密です」
そう言って教えてくれなかった。なんてケチんぼだろうと思ってコニーがムスッとしたら、魔術師の人が慌ててお菓子をくれた。美味しかった。
「あれが本来の竜の姿です、どうですか?」
魔術師の人が聞いてきたので、コニーは正直に答えた。
「ピカピカつるつるで、楽しそうだったけど、ポチの方が可愛いかな」
魔術師の人はがっくりきていた。疲れているのかと思い、ポチのお尻を撫でて癒してもらおうとコニーは考えた。
「ぷにぷにで気持ちいいよ?」
さあ癒されろとばかりに、コニーはポチを持ち上げてお尻を見せた。
魔術師はポチの尻を顔に突きつけられて、ただじっと見つめているしかなかった。