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迷子の竜の冒険記  作者: 黒辺あゆみ
第二章 迷子の竜、都に行く
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魔術師がきた 前編

Sideコニー


ポチがやってきてから、毎日が楽しい。

 その日は暑かったので、ポチと裏山の泉まで泳ぎに行ってきた。

「我が遊泳を見よ! 優雅であろう!」

「ポチ、上手だね~」

最初泳げなかったポチも、今では得意な泳ぎは犬かきである。

 泳ぎ疲れて家に帰ると、母親からおやつをもらう。

「おいしいねぇ、ポチ」

「うむ、りんごのパイが一番だが、このモモのタルトも美味である!」

キュー! と元気に尻尾をふりふり答えるポチは、口の周りを食べかすで汚している。竜の威厳台無しだが、こんなおマヌケなポチがコニーは大好きである。

 少しふっくら気味のポチのお尻のあたりが、撫で心地よいのを気に入っているコニーは、ポチを膝にのせてお尻を撫でている。前みたいに太りすぎて飛べなくなっては可哀相だが、ちょっとぽっちゃりしていた方がいいなと思っているコニーであった。


そんな平和なおやつの時間に、コニーの家の様子を伺っている不審者の姿があった。

「おお、あれはまさに……」

よれよれの外套にくたびれた靴。たまに村に現れる、迷い旅人がちょうどこんな格好である。

 しかしその不審者は、目をぎらぎらと輝かせて、井戸の側で並んでおやつを食べているコニーとポチを見ていた。

「しかしちょっと……いや、でもそれはまた……」

そんなことを小声でブツブツ言っている不審者は、木陰に隠れてコニーたちからは見えないようにしていた。

 だが、その姿は隣の家の敷地からは丸見えであった。

「おうい」

「ブツブツブツ……」

隣の家の主人が不審者に声をかけるも、本人まったく気付かない。仕方ないので、ちょうど手に持っていたクワで尻を突いてやる。

 ブスッ!

「アウゥッ!?」

不審者はその衝撃で飛び上がった。優しく突いてやったつもりだが、ちょっと痛かったのかもしれない。

「なにをする!?」

「おめー、ひとんち覗いてなぁにしてるんだ?」

抗議する不審者に、隣の家の主人は真っ当な疑問を投げかける。

「なにをっ、私は、この家の、関係者だ!」

尻をかばいながら弁解する不審者に、胡乱気な視線を向ける。

「怪しいやつはみぃんなそう言うんだぁ」

「本当だっ!」

そんな騒ぎを聞きつけて、コニーとポチがやってきた。

「どうしたのぉ?」

「むっ、泥棒か?」

のんびりと尋ねるコニーと、警戒するようにキューキュー鳴くポチに対して、不審者は胸を反らして身なりを整える。

「泥棒とは失敬な! 私は都の魔術師だ!」

だが、外套も靴もよれよれで格好がつかない。

「まじゅつしぃ? ってなに?」

コテン、とコニーが首を傾げる。

「コニー、ペテン師の類だ、相手にしちゃなんねぇぞ」

隣の家の主人が言い聞かせるように言うと、コニーはこっくり頷いた。

「わかったー。じゃあペテン師さんが来たよって、とーちゃんに知らせてくる!」

「ちがうわぁ!」

すたたっと駆けていくコニーに不審者が叫ぶも、コニーは聞いていなかった。

 そんな外のやり取りが聞こえたのか。

「ペテン師だとぅ!? どこだそいつは!?」

「あらあら、大変どうしましょうか」

家の中から斧を片手に張り切っている父親と、おっとりと首を傾げる母親が現れた。

「おう、おめぇさんたちよ。こいつがお宅を覗いていたんだ」

隣の家の主人に説明され、両親がヨレヨレの不審者を見る。

「うむ、怪しいことこの上ないな」

キュー、とポチも同意してみせる。

「怪しくなどない! 長旅で見た目がくたびれていただけだ!」

反論する不審者に、母親が声をかけた。

「あらぁ? もしかして兄さんではないの?」


Sideポチ


ポチの一日は過酷だ。

 朝起きて、コニーの朝の抱擁に耐え抜く。

「おはよー、ポチ! ムギュッ」

「死ぬ! 内臓が出る!」

その後コニーの家族と共に朝ごはん。

「美味しいね、ポチ」

「……内臓がまだ回復しておらず、食欲がないのである」

そして村の学校へ行くコニーのお供をして、村の子供たちにもみくちゃにされる。

「「「ポチだーーー!!」」」

「誰だ、我の毛を抜く奴は! ハゲたらどうする!?」

昼ごはんを食べに帰ってきて、外でコニーと遊ぶ。

「あ、鳥がいる!」

「コニー、追いかけるならば我から手を放せ、こら、藪に突っ込むなと痛タタ……!」

おやつを食べて昼寝をしているうちに、夕方父親とピートが帰ってくる。

「スピスピ……」

「一日で、唯一平穏な時間である……あ、こらコニー、抱きしめるなムギュッ」

家族で夕食を食べて、コニーと一緒に就寝。

 思い返せば、一日に何度命の危機を迎えるか数え切れない。子供時代とは、もっと平和なものではないだろうか。それは己の理想でしかなかったのか。他の竜の子は、もっと過酷な試練を受けているのだろうか。ポチは日々思い悩んでいた。

 そんなポチが唯一楽しみにしていることがある。それがおやつである。コニーの母親が作るおやつは絶品である。このために一日を耐え抜いていると言っても過言ではない。今日もコニーに何故か尻を撫でられながら、おやつを食しているポチであった。


そんなある日、コニーの家に不審者が現れた。

 見咎められた不審者は、魔術師だと言い張っていた。魔術師は都のあたりに住まうもの。都とは、この村からはるか遠くであったはずだ。このような田舎にはるばる来るとは、ヒマな魔術師もいたものである。

 ところがその後、不審者はコニーの母親の兄であることが判明した。母親は手紙にコニーが竜を拾ったことを書いたらしく、兄は事実を確認しにやって来たらしい。

 ――しかし、気になる。

 ポチの一族の言い伝えで、魔術師の血は胃腸によいと言われているが本当であろうか。よれよれなこの魔術師の血を飲んでも身体に悪そうに思えるが、試してみるには丁度良いと言える。一口なめるくらいは許されるのではないだろうか。

 そんなことをずっと考えて、ポチは魔術師を見ているのであった。


Sideコニー


不審者はペテン師ではなく、なんと母親の兄であった。

「兄さん、来るなら手紙でしらせてくださいな」

母親が呆れた顔で苦情を言った。

「なんだ、ペテン師だって言うから張り切ったのにアンタかよ」

父親は少々がっかり気味だった。期待した何かと違ったらしい。

「……都からはるばるやってきた兄を、労わってはくれないのかメリー」

ペテン師は肩を落としてがっくりした。

 そうこうしていると、ピートも家に帰って来た。外で話をすることもないということになり、一家は場所を家の中に移して話をすることにした。

 家に招き入れられたおじさんに、コニーは興味津々だ。

「コニーは一度会ったと言っても、赤ちゃんだったから覚えてないわよねぇ」

母親が朗らかに笑った。

「ねぇ、都ってにーちゃんがいたところ?」

「そうよぉ、とっても遠いのよ」

兄のピートは去年まで都の学校に行っていた。そこで仕事を見つけてもよかったのだが、やはり自然が恋しくなったらしい。今では父を手伝って木こり仕事のかたわら、村の学校で勉強を教えている。

「ふーん」

そんな遠いところから、おじさんがなにをしに来たのかも気になるが、さっきからポチのことも気になる。おじさんのことをずっと見ているのだ。

 ――珍しい食べ物を持っているとかかも。

 ポチのこの目は、食べ物を前にしたときの目である。

「おじさん、なにかおいしいもの持ってない?」

「は……、土産か?持ってはきたが食べ物ではないぞ」

コニーが尋ねると、困ったようにおじさんが言う。

「こらコニー、食い意地が張ってるぞ」

父親がコニーをたしなめるが、それに不満そうにコニーは頬を膨らませる。

「ちがうよぉ。ポチがものほしそうにおじさんを見てるからさぁ。なにか持っているのかと思って」

「うむ、魔術師の血は胃腸に良いとされるが、本当かたしかめるチャンスであるからして」

キューキュー、と鳴くポチに、おじさんは嫌そうだ。

「そんな俗説を真に受けないでください。竜の間ではまだ言われているんですか」

「確かめた者の話を聞かぬから、ウソかまことかわかるまい」

「胃腸薬だと思われて、常備薬代わりに連れて行かれたら迷惑です」

「ひとかじりすればわかるやもしれん」

「嫌です」

しばし、おじさんとポチがにらみ合う。その様子をキョロキョロと見ていたコニーは、びっくりして目を丸くしていた。

「すごぉい! おじさんポチの言うことがわかるの!?」

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