愛があれば大丈夫!前編
Sideコニー
いよいよその日がやってきた。
今日は王子様の婚約者である、隣国の姫が城へ到着する日である。
王子様は朝から何度も気を失ってはばあやさんに叩き起こされていた。おかげで王子様はすでにぐったり気味で、婚約者に会う前から死にそうだ。
そしてコニーはというと。
「まだかな、まだかな~」
お姫様見物をしようと、朝から城門付近の茂みのあたりで待っていた。長期戦になることを考えて、お城の厨房にお弁当まで作ってもらう念の入れようである。
「ポチ、お姫様ってやっぱり金髪に青い目かなぁ」
コニーがそんなことを言う。
コニーもポチも、お姫様という人を見るのは生まれて初めてであり、想像するしかできない。城内で聞き込みをしても、お姫様の容姿についての情報がいまいち要領を得ず、あいまいであった。結局どんな人なのかわからなかったコニーとポチは、自力で調査することにした。
果たして本物のお姫様は、絵本に描いてあるお姫様みたいなお姫様なのか、という検証をしようというのである。お城の人間が何故か言葉を濁したせいで、コニーとポチの好奇心を煽るはめになっていた。
そんなわけで、コニーとポチは現在やる気満々で、茂みにひそんでいるわけである。
「きっと髪の毛がくるくるに巻いてあるのである」
「それで、ふわっふわのピンクのドレスを着ているんだよね」
一人と一匹はそんな話を、茂みにひそんでいながら、少しもひそめていない声で話していた。
ちなみに、現在兄はといえば、卒倒しそうな王子様の励まし要員に入れられてしまい、今は懸命に王子様を励ましている最中であろう。「そっちが面白そうなのに」と言って、出待ちに参加したがっていたのだが、王子様の要求であれば仕方ない。
さらに言えば、コニーとポチの会話は特に小声ですることもなかったため、城門に整列してお姫様ご一行の到着を今か今かと待っている、騎士たちにも丸聞こえであった。
ポチの声は聞こえずとも、コニーの声を拾っていれば、自然と会話内容がわかってくる。思わず笑ってしまう会話のせいで、騎士たちの間にもコニーとポチのお姫様像が伝染していく。
くるくるパーマな金髪に、青い目でピンクのふわふわドレスを着ているお姫様が、つぎつぎと騎士たちの脳内に踊っていくのであった。
コニーとポチがお弁当を食べてウトウトしていると、突然ラッパが鳴り響いた。
「なにっ?」
コニーが驚いて目を覚ますと、騎士たちも少々ざわざわとしている。そして遠くから、ガタゴトと馬車が走る音が聞こえて来た。
いよいよお姫様がやってきたのだ。
「どこ、どこ?」
コニーとポチが茂みから顔を出してキョロキョロしていると、城門の向こうに白馬にひかれた白い馬車が見えた。いかにもお姫様っぽい乗り物である。
「どれどれ?」
コニーとポチはもっと近くで見たくなり、整列している騎士の間にこっそり紛れ込んだ。
こっそりといっても、大人の騎士に子供と黒い犬っぽい生き物が混じれば、すごく目立つ。だが、みんな見て見ぬフリをしてくれた。
そうしてゴトゴトと白馬に引かれた馬車は、城門の中へとやってきて、コニーとポチの目の前で止まった。
「お姫様、出てくるかな?」
兵士のおじさんの背後に隠れつつも、そうっと顔を覗かせるコニーとポチ。
すると。
「ようやく到着したのかの?」
「さようでございます姫様」
馬車から若い男女が降りてきた。
「あれ?」
コニーは首を傾げる。
……もう少々詳しく言うならば、従者らしき青年と、コニーよりも小さな少女がそこにいた。くるくるに巻いた金髪に青い目で、ピンクのふわふわのドレスを着た少女が。
「うむ、くるくるな金髪に青い目の、ピンクのふわふわドレスである」
まさに絵本の中のお姫様、お姫様の見本のような姿。しかし、小さい。たぶんコニーよりも年下である。
「お姫様、ってあの子かなぁ?」
コニーが疑問系になるのは仕方が無い。お姫様はもっと大人だと思っていたのだ。
「王子様の結婚相手だよね?」
「うむ、これが噂に聞く歳の差かっぷるというやつである」
コニーとポチがそんなことを話していると、当のお姫様と目が合った。
「おお! 黒い犬がおるぞ!」




