母、現る
Sideポチ
青い竜に呼ばれて、ポチはコニーと一緒に城の裏手の広場に来ていた。ポチの身内と引き合わせてくれるというのだ。
「誰だろねぇ、ポチの身内の竜って」
「父なら燃やす」
一人と一匹が待つことしばし。
空の向こうからばっさばっさと羽ばたきが聞こえてきた。
「あ、アオさんだ」
見慣れた青い竜の姿の影に、黒い竜が見えた。ポチと同じ長毛種竜である。
「もう一匹いるのである。あれは……」
そんな会話をしている内にも、二つの姿はすぐに眼前に迫る。
どしーん!
大地を揺らして二匹が着地した。つるつるの青い竜と、モフモフの黒い竜だ。
「おっきいポチがいる」
ポチにそっくりな竜に驚くコニーが、間抜け顔で口を開けたまま見上げている。
「ポチ、コニーも一緒か。少々待たせた……」
「まあまあまあまあまあまあ!」
青い竜の挨拶を押しのけて、黒い竜がのっしのっしとポチの前に進み出てきた。
「んまーあ!」
大きな頭をずずいっとポチに寄せてきた。鼻息で吹き飛ばされそうな距離である。ポチの隣で「わあぁ」とコニーがよろめく。
「よく来たわね坊やちゃん、聞いたわぁあのボンクラのせいで引越し最中に迷子になったのですってねぇ。それにしてもいい魔術師に出会ってよかったわぁ、これが性悪魔術師だったらどうなっていたかしれない、ああ怖い怖い」
息継ぎなしで台詞を言い切った黒い竜に、ポチとコニーはもちろん、青い竜も口をさしはさむ余地がなかった。
「わたくしは契約のため城からあまり離れられないとはいえ、あのボンクラに引越しを任せたのは間違いだったわぁ、監督不行き届きなわたくしを許してちょうだい坊やちゃん。ああでも坊やちゃんは幸運にもこうしてわたくしの元へ戻ってきたのだけれども、坊やちゃんのほかにも迷子になった子がいるのではないかしら、ああ心配だわぁ、一度様子を見にいきたいわぁ」
自分だけで喋って話を完結させている黒い竜に、ポチは遠い目をしていた。
「相変わらずであるな、母よ」
そう、黒い竜はポチの母親であった。
「えー、やっぱりポチのかーちゃん?」
怒涛のごときポチの母の会話にも、だんだんと慣れてきたコニーが、ポチの母親の横顔をじっくり観察していた。正面だと鼻息がかかるようだ。
「あの父とこの母から、こういう子が生まれるのだな」
青い竜はなにやら達観していた。
母親のマシンガントークに付き合っていては日が暮れるが、ポチは母親が一人で喋るのに飽きるのを待つことになった。
「うむ、ポチの素性の話を最初にもちかけたのはこ奴でな。この辺りで黒い長毛種竜は己の子に違いないということで、父のこともわかった次第なのだ」
青い竜がそう解説してくれている間も、ポチの母親は喋り続けていた。
Sideコニー
ポチの母親に会った。
ポチの母親は大きなポチであった。顔が近かったので、鼻息で飛ばされないように踏ん張っているのが大変だった。
ポチの母親がひとしきり喋って、喋るネタが尽きたころになって、ようやくコニーはポチとの衝撃の出会いについて語った。
出会った頃のばっちい灰色毛玉っぷりについて話したところ。
「まあぁ、幼いながらもサバイバルにがんばったのねぇ。えらいわ坊やちゃん」
そんな風に、一杯ポチを褒めていた。
ポチがちょっとぽっちゃりな体型なことについては。
「早く大きくなろうとがんばっているのねぇ、努力家な坊やちゃんだわぁ」
感心していた。
あとで兄のピートにこのことを報告すると、ピートはホッと胸をなでおろしていた。
「これでひと安心だ」
兄には何か心配なことがあったらしい。何だか分からないが解決してよかった。
「ポチの能天気さは母譲りか」
青い竜が言っていた。
結論、ポチの母親は楽しい竜であった。




