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迷子の竜の冒険記  作者: 黒辺あゆみ
第三章 迷子の竜、お城に行く
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王子様襲来 後編

Sideポチ


ポチは都から村に戻って、また身体がひとまわり大きくなった。コニーを背中に乗せることができるくらいの大きさである。

 しかし、まだコニーを乗せては飛ぶことができない。

「早く空のお散歩したいね」

コニーにねだられるので、ポチだってこれから一段と練習するつもりである。

 ただし、火を吹くのは格段に上手くなった。青い竜のおかげで、コツをつかんだのだ。

 その甲斐あって、コニー一家は炭焼き仕事が楽になった。家族の一員として役に立てて、ポチとしても満足である。


そんなポチがコニーと共に、のんびりライフを満喫している時。村に不審者が現れた。

 なんと、その不審者は王子様だという。

 そこまではわかったものの、その王子様がここへなにをしに来たのかが不明である。それをどうやって聞くか、みんなで話し合いをした。

「まずは、あの調子で話になるかな?」

ピートが言うには、王子様は極度の対人恐怖症らしい。視線を合わせると動悸息切れが始まり、会話しようとすると息が止まりそうになるとか。

 ――そんな性格で、よく王子様家業をやっていられるのである。

 ポチは変に感心してしまった。

「人相手だとダメなら、ポチちゃんならどうかしら?」

母親の提案で、ポチはメッセージカードをくわえて、王子様に突撃することになった。その距離は五メートル。対人恐怖症の王子様が他人と接する時の適正距離らしい。

 その距離を保とうとするならば、当然家の中での会話は無理というもの。五メートルの距離は、繊細な相談事をするには不向きである。

 ――よく普通に生活できるのである。

 ポチはまたもや感心する。

「これ王子よ、何用であるか?」

カードをくわえてモゴモゴした声で、ポチは尋ねた。

「……。」

ポチがくわえるカードを読み取った王子様は、しばしの間葛藤した様子を見せた後、小声でぼそぼそと話した。それを聞いたポチは、コニーたちの元へ戻る。

「なんて言ってたのー?」

突撃した結果を聞くコニーに、ポチは教えてやった。

「今緊張して死にそうなので、話は少し待ってほしいそうである」

つまりは、全く話になっていないのである。

「全く治ってないね」

「困った王子様だわ~」

ピートはやれやれと肩をすくめ、母親はのほほんと微笑むのだった。

 その後、ポチは王子様とコニーたちの間を、メッセンジャーよろしく行ったり来たりした。人間は怖いが動物は平気なようである。いや、動物ではなくポチはれっきとした竜であるのだが。

「王子は親友であるピートに、相談したいことがあってやってきたらしい」

ようやくこの話を聞き出すまでに、実に一時間を要した。その上王子様が小声でボソボソ話すおかげで会話がし辛い。何度イライラして燃やしてやろうかと思ったことか。

 ――我ながら、慈悲深き竜である。

 ポチは己の忍耐を褒めた。

 だがここで、問題が発生した。

「……疲れたのである」

ポチが最近の運動不足もあってか、行ったり来たりの繰り返しでへばってしまったのである。メッセンジャーポチが脱落して、王子様との会話手段を絶たれてしまった。

 そんな絶体絶命(?)な状況を打破してくれたのは、意外な存在であった。


Sideコニー


「どうするー?」

「もう面倒だから、放っておこうか」

「まあまあ、どうしましょうか?」

コニー、ピート、母親はそれぞれ代案が出ず、本気で王子様の放置を検討しかけていた時。

 ばっさばっさと、風を切る音がしたかと思ったら、大きな青い影が頭上を過ぎる。

「よいしょっと」

 ドシン!

 コニーの家の隣の空き地に、青い竜が着地した。

「アオさんだ。こんにちわ」

久しぶりに遊びに来てくれた青い竜に、コニーは駆け寄って笑顔であいさつをする。

「おおコニー、元気そうだな。ポチはなにやらつぶれているが」

べちゃっとつぶれているポチを、青い竜は尻尾の先でツンツンとつつく。

「ちょっといっぱい動いたらつかれちゃったんだって」

コニーも一緒にツンツンしながら教えた。

「少し痩せるといい」

青い竜の厳しい意見に、ポチは尻尾を振るばかりであった。

「まあまあ、お菓子があったかしら?」

母親は青い竜をもてなす準備をしようとする。

 しかし、青い竜は遊びにきたわけではないらしかった。

「これ王子、そろそろ帰らねばならぬぞ」

青い竜は、木の影に隠れている王子様を見て言った。

「あれ、アオさんが王子様を連れて来たんだ」

コニーの中の謎が解けた。王子様が普通の手段でやってきたにしては、妙に小奇麗な格好だと不思議に思っていたのだ。

 青い竜はコニーの言葉に頷く。

「そうだ、どうしても行きたいところがあると頼まれてな。日があるうちに帰るならば、よかろうと思うたのだが」

王子様がこっそり村に入りたいというので、青い竜は村から少々離れた場所で待っていたらしい。

 だがあまりに遅いので、心配して様子を見に来てみれば、案の定対人恐怖症な王子様は、目的遂行できずにいたというわけであった。

「用事があるなら早うせい。なに、だってまだ用件を話していないだと?」

青い竜がなにを言っているのかわかっていないながらも、王子様がモゴモゴと言い訳をしたようだった。

「短時間で意見交換を果たすなど、そなたには無理難題であろう。いっそ城まで共に来てもらえば万事解決ではないか?」

青い竜は後半のセリフを、コニーたちを見ながら言った。

「なんだか、話が嫌な流れになっている予感がするなぁ」

青い竜と王子様のやり取りを見て、ピートが呟いた。

「にーちゃん、王子様と一緒にお城に行くんだって。お城ってどんなとこだったか、後でおしえてね」

コニーは地面でへばってつぶれているポチをしゃがんでつつきながら、青い竜のことばをピートにざっくりと通訳してやる。これを聞いて、王子様は目を輝かせた。

「えー、城にいくのかぁ。遠いなぁ」

あまり乗り気ではないピートに、王子様は涙目である。

「ない、人の足では遠かろうが、我の翼であればすぐだとも」

「アオさんが送ってくれるよ。速いよ、びっくりだよ」

「うーん」

コニーの通訳に、ピートはうなる。青い竜に乗ることに、心を揺さぶられているらしい。しかし、行く気になるにはあと一息足りないようだ。

王子様がしょんぼりと肩を落とした。

「そうだのぅ……」

青い竜は思案するうちに、ふと思いついたようだ。

「そうだ、城にはポチの身内がいるぞ。最近城に帰って来たのだ。今度知らせてやろうと思っていたところであった」

青い竜が突然そんなことを言った。

「えー、ホント!?」

この件を完全に他人事だと思っていたコニーはびっくりした。

「コニーとポチも来るといい」

誘う青い竜だったが、ポチは身内という言葉に不安を抱いたらしい。

「父ではあるまいな」

嫌そうな顔でポチが呟く。

「コニーたちと一緒なら、面白いことがありそうかな」

気分が下がるポチとは逆に、ピートは行く気になったようだ。

「ふむ、決まりだな」

「まあ、道中のおやつを用意しなくちゃ」

ようやく帰る算段が付いて満足そうな青い竜に、縋って喜ぶ王子様をよそに、母親がパタパタと家に駆けこんだ。

 かくしてコニーとポチは、ピートと共に城に行くことになった。

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