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迷子の竜の冒険記  作者: 黒辺あゆみ
第三章 迷子の竜、お城に行く
15/27

王子様襲来 前編

Sideコニー


そのとき、コニーはポチと散歩をしていた。

「今日もいい天気だねぇポチ」

「うむ! 散歩日和である」

のんびりと村の中を歩くコニーとポチに、村人たちは声をかけてくる。

「コニー! 今度竜にのせてくれよ!」

「アオさんがいいって言ったらねー」

「ポチ、あんた少し太ったんじゃないかい?」

「む……、本日は少々食事を減らすことにする」

そんなふうに、村人たちと他愛ないおしゃべりをするコニーとポチを、じっと見ている姿がある。その姿は、一定の距離を保ってずっとコニーたちのあとをついてきていた。

 その者は明るい金髪で小奇麗な服を着ており、薄汚れていない。ひと目で村人ではないし、普通の旅人でないことが分かる。

 なにせこの村は、街道から外れた辺鄙な場所にあるのだ。旅人は、以前おじさんがやってきたときのように、くたびれた襤褸切れみたいになっているのが通常である。

 つまりは、コニーとポチの跡をずっとついてきていることが、最初から周囲にバレバレであった。

「ねーポチ、あの人なにかなぁ?」

コニーはポチに小声で尋ねる。

「怪しい人間には近寄らない方がよいのである」

「そーだねー」

ポチの最もと言える発言に頷いたコニーは、後ろからずっとついてくる不審者のことを気にしないことにした。村人たちも、コニーたちに会いに来る見知らぬ人間に慣れていたため、特別咎めることをしなかった。

 そんなわけで、その不審者は村の中で放置されているわけなのであった。不審者が、コニーとポチに声をかけることが出来ずに困っていると知らずに。

 不審者をひっつけたまま、コニーは帰宅した。

「にーちゃん、ただいまぁ!」

家の表で作業をしていた兄に、コニーはぱたぱたと駆け寄る。

「おかえりコニー、ポチ。何か面白いことはあったかい?」

そう尋ねるピートに、コニーはにっこり笑顔で答えた。

「うん! 怪しい人がいた!」

面白いどころか事件である。だが、ピートは心配気な様子など見せず、普通に聞いた。

「怪しいって、どんな奴だい?」

コニーはすぐさま、後ろを指さした。

「あそこにいる人!」

果たしてそのあたりの木の影に例の不審者がいた。

「あのね、俺たちの散歩にずーっとついてきてたんだー」

「……。」

ピートが無言でその不審者の姿を観察し、少し頭が痛そうな仕草をする。

「なにしてるんですか?」

ピートが不審者に話しかけるも、返事はない。

「にーちゃん、とーちゃん呼んだほうがいい?」

コニーがピートに尋ねた時、ちょうど家の中から母親が出てきた。

「あらあら、どうしたの?」

コニーが母親に不審者を示して説明する。

「かーちゃん、怪しい人がいる!」

すると母親は、おっとりと首を傾げた。

「あらあら、確かに怪しいわぁ。ここにいるはずのない人ですものねぇ。何してらっしゃるんですか王子様?」

この母親の発言に、不審者は慌てて木に隠れたり出たりを繰り返した。

「王子様? あの人が?」

「そうよぉ」

コニーが尋ねると、母親が頷いた。

「王子様……」

コニーは頭の中に、絵本に描かれている王子様像を思い描く。キラキラした髪にキラキラした服、白いタイツをはいた絵本の王子様と、目の前の人物を見比べる。概ね王子様像に似通っているが、一点だけ違うところがある。

「……白タイツじゃないよ?」

「うむ、王子服でないのである」

コニーの指摘に、ポチも同意する。

 これに、ピートが頬をピクピクさせながら、コニーをフォローした。

「外で白タイツをはいたら汚れるじゃないか。きっとお城の中ではくんだよ」

「そーなんだー」

「一つ賢くなったのである」

ピートの話を素直に信じるコニーに、誰もツッコミを入れなかった。

「で、王子様はなにか用なのかな?」

ピートが疑問を口にすると、木にしがみついていた王子様が、ビクリと肩をはねさせた。

「俺、聞いてくる!」

コニーがてててっと駆けて行くと、王子は慌てて走ってコニーとの距離を開ける。

「……?」

コニーはなにをしているんだろうと思ったが、構わず追いかける。すると、王子様が逃げるを繰り返す。

 村を三周して、王子様がへばりそうになったところで、ピートがコニーに待ったをかけた。

「その人、他人と話をするのが怖い人だから、追いかけるのをやめてやって」

「そう? わかった」

コニーは素直に追いかけるのをやめて、ピートの元へと戻っていく。

「もう少し早く、止めてやればよかったのではないか?」

ポチの呟きが聞こえたわけではないだろうが、ピートはポチを見てにっこり笑った。

「いやぁ、治っているかと思って、一応試してみたんだよね」

ピートとポチが見つめ合う中、王子様は倒れ込んで息も絶え絶えであった。

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