馴染みの風景
今日、うちの近くの本屋が閉店した。
子供の頃から本を買いに行くというと、とりあえずそこに行っていたから何かと世話になっていた。
限定版の予約などもそこでしていたし、部活で使うコピー用紙なども買いに行っていた。
最近は隣の県の大学に通学するようになったという生活の変化もあり、足を運ぶ回数は減っていた。
少し前に一度、閉店するという話は聞いていた。
そうなのか。なら閉店する前に一度は行くか。
そう思っていた。
多分年末に閉店するんだろう。
そう思っていた。
予防注射を打ちに行くとき、その本屋の前を通った。
すると、私の母がこう言ったのだ。
「ああ、そういえば今日閉店するらしいね、ここ」
慌てて首を回した。
そこにはいつもの見慣れた本屋が佇んでいる。
その姿は、みるみる遠くなっていった。
予防注射の後、その店に立ち寄ろうという話になったのだが、病院から出てみると外は雨になっていて、「洗濯物を干したままだ」という母の言葉で約束は立ち消えた。
家に帰ってから大分経って思い出したが、時すでに遅し。
暗くなった店の前で、雨の音が嫌に耳に響いた。
次のお店が何になるのか、私は全く知らない。
だけど、たぶんないだろうとは思いながらも、また本屋が開かれることを、片隅で期待していた。