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案件3 魔女裁判 3

「だから私、都合のいい時だけ神様に泣きつこうとは思わない。苦しい時の神頼みなんて無駄だわ。誰も助けてくれないもの。最後の頼みになるのは、結局自分の力だけだって分かった」

 少女の胸にどのような情景が去来しているか、その言葉尻から想像するのは容易ではない。

 愛美まなみは既に何人もの人の死をの当たりにし、理不尽極まりないむごい事実と直面している。

 失ったものと得たもの。天秤にかければ、どちらがより大きかったのか。

 普通の女子高生として生きていれば知らずに済んだ、知る筈のないことばかり学んでいる。どんなに辛いかしれないが、泣き言一つ洩らすでもない愛美に、紫苑しおんは同情の念を禁じ得ない。

「頼ってくれていいんですよ。私や綾瀬さん。東大寺とうだいじ君もあなたの力になりたいと思っています。私達では役に足りないでしょうが、こんな藁でも縋ってみれば心の支えになれるかも知れません」

 紫苑はそう言いながら、テーブルの上に置かれていた愛美の手を、自分の両手で包み込んだ。

 包容力という点で言えば、三十代おとなの綾瀬に適うべくもないが、いかんせんあの男は底意地が悪い。紫苑の繊細さは、貴重とも言える。

 真摯な眼差しと、言葉の端々から溢れる紫苑の人柄に触れるにつけ、愛美は救われる思いだった。

 いつでも穏やかな笑みを湛えた紫苑の誠意には、徐々に人間への信頼感が薄れていく愛美も、猜疑の目を向ける気にはならなかった。

 同じSGAに所属する者という、不安定で希薄な繋がりではあるが、唯一愛美が頼れるのは彼らしかいない。経済的な面だけでなく、精神的にも保護を受けている立場だということは重々承知だ。

 紫苑の手が重ねられているのをいいことに、愛美はもう片方の手を彼の手の甲に重ねた。

 見ようによっては、恋人同士の語らいに見えないこともないだろうが、愛美の心情としては紫苑は信者にとっての聖職者に近い。

 ふと魔が差して男性として見てしまうことはあっても、その美しすぎる外見からどうも紫苑の恋人的立場に立つ自分が想像できなかった。

「私にとって、SGAは最後の拠り処です。あなた達がいるから、私はここにいる。あなた達のお陰で、私は居場所を見つけられた」

 紫苑の目が遠くなり、小さな呟きが発せられる。

「私もその一人だ」

 愛美はその言葉を聞き洩らしてしまい、問い直すような視線を向けた。しかし紫苑は微笑を浮かべたまま、沈黙を守る方を選んだのだった。

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