案件3 魔女裁判 1
テレビの画面に映る、晴れ着姿の人々の群れ。夕方のニュースで流れるそれは、正月三賀日の神社への参拝客の様子を録画したものだった。
毎年、何千万もの人が、大晦日から新年の数日にかけて、神社へと初詣でに出かけるのだ。
ソファに腰掛けた少女は、テレビのリモコンを手の中で弄びながら、画面に映し出される映像を見るともなく見ている。ニュースは次に、帰省ラッシュの模様に切り替わった。
紫苑は、ダイニングテーブルで料理雑誌をめくっていたが、愛美がこちらを見ているのに気が付いて顔を上げる。
イベント好きの東大寺が、去年の暮れに関わっていた仕事の手落ちで、左足首を捻挫してしまった為初詣でにも行かず、今年は静かな正月だった。
愛美が、家族を失って初めて迎える正月でもある。年頃の少女らしく、着飾った娘たちが羨ましくなったのかと、紫苑は当て推量で思ったが、その予想は大いに外れた。
愛美は紫苑の正面のダイニングの椅子に移ってくると、思いもよらぬ質問をした。
「ねえ、紫苑さん。この世に神様っているのかな?」
思わず紫苑は狼狽したが、愛美の目には紫苑がきょとんとしたようにしか映らなかっただろう。
十六才の身空で最愛の家族と友人と家を失い、たった一人右も左も分からぬ世界に放り出されてしまったのだ。しかも、彼女が十六年間信じていた社会ではなく、あまりにも非情な非日常のこの現実にだ。
自分の運命を呪い、社会を憎み、神を恨んでもおかしくはない。どんな心情からこの質問が出たのか察せられないが、愛美が小さい子供のように無邪気な目をしていたので、紫苑は少し安心した。
「私を含めて、何人にもその問いに答えられる者はいないでしょう。愛美さんはどう思っているのですか? この世に神はいるでしょうか」
愛美は小さく唸って、頬杖をついた。
「鬼や魔物が跳梁するこんな世界だから、神や仏もいるんだろうなと思う。でも、神というものは観念的であり、超越者でありながら、人間によって定義されて初めて存在を許されるものでしょ。人間に関わることで、神の存在理由が生まれるもの。真実いるかいないかは問題ではなく、人間が知覚するか否かってことなのよね」
言い得て妙であるが、これが十代の少女の台詞かと、紫苑は舌を巻く思いだった。




