案件2 Mad Dog 38
警察が石塚を勾留する意味もなくなり、綾瀬が裏で手を回したこともあって、真実は闇の中に隠されたまま幕を閉じた。
真実を知らされたところで、誰が信じるだろう。呪いや犬に姿を変える人間や、犬神の伝説の残る隠れ里など。
事件は終わったのだ、もうそっとしておいて欲しい。
「犬が現れることがないことも、君は十分承知なんだろ。重要参考人の一人の長谷部実が自殺。これじゃあ、何が起こったのかさっぱり分からない。長谷部が関係してたのは間違いないんだろ。マッドドッグは一体何だったんだ?」
長谷部の死は自殺として片付けられた。実際は愛美が殺したのだ。任務上仕方がないことだとも思う。
愛美が長谷部を殺していなければ、マッドドッグは更に何の罪もない人々の死体の山を、累々と築き上げたことだろう。
マッドドッグは一体何だったのか。
愛美にもそれは分からない。愛美は考え考え、答えを紡ぎ出した。
「この世の中の闇。もう一つの真実。逃れられない運命に翻弄された者」
これでは何がなんだか分からないだろう。しかし一面はついている。
萩原はおぼろげながら何か感じているのか、それとも愛美の言葉の意味など考えてもいないのか、語気を強めて言い切った。
「マッドドッグを日の下に引きずり出すのが、ジャーナリストとしての俺の使命だ。全て闇の中じゃ、握り潰されたこの事件の被害者が報われない」
それでも愛美は、この男に事件の本質を教える訳にはいかない。
本質がどこにあるのか、事件のどの部分に焦点を当てて、何を問題とするのか、事件に関係した愛美にも論じられない。あまりにも多くの闇を抱え過ぎている事件だから。
「闇に生きる者は、闇の中で死ぬのが相応しいわ。光の下では全ては幻想にしか見えないもの。知らない方がいいこともある。全ては非日常で起きた現実だから」
愛美にはそれだけしか言えない。語る資格などない気もする。
「君は一体……」
この男からその問いを聞くのはね何度目だろう。愛美は静かに微笑を浮かべる。
「St.ガーディアンズ。闇に生き、闇を狩る者」




