案件1 そして誰かがいなくなる 8
一年の図書委員の関根茜は、昼休みの図書委員会が終わったにも関わらず、五時間目の授業に帰って来なかった。
家庭科教師の倉持有紀は、妊娠六ケ月目でもうすぐ産休に入る筈だったが、家庭科室で四時間目の二年生の調理実習の予定を、黒板に途中まで書いたままで消えてしまった。
高橋芽久は、八番目の失踪者だ。
教師二人、生徒八名。男女比は、男性六名と女性四名となっている。学年も家庭環境も、学校での評価もまちまちで失踪者に接点は見られない。
確かなことは、学校内から彼らが出た形跡はないということだ。
「何や、開発途上で捨て置かれた裏庭言うから、もっとおどろおどろしいもん想像しとったのに。ただの庭やんけ。まあ、この学校にはちょっと釣り合いとれとらんけど、怖くて逃げ出すようなもんか?」
東大寺の間伸びした声に、愛美は緊張した面持ちで首を振った。
陰陽道や修験道などの呪術に通じている者ならば、場が乱れていると表しただろうが、愛美はそんな言葉を知らないので、空気がおかしいと言った。
二人は今、菊池信雄が言っていた裏庭とやらに来ている。
近代的に整備された新設校にしては、庭は手入れもされず荒れている感じだ。草木が伸び放題でも、工事途中を思わせる機材が散らばっている訳でもない。
庭はまるで公園のように、奇麗に整えられている。
それなのになぜか退廃的とでもいうのか、翳りがあって妙に黴臭い重苦しい雰囲気が漂っている。
東大寺と愛美は誘い合わせた訳でもないのに、放課後を待ってこの場所まで来たのだ。何かの手がかりぐらいにはなるかも知れない。
愛美は、万里江と朋子から高橋芽久との間に何があったかをそれとなく聞き出そうとしたが、二人は頑として口を割ろうとはしなかった。
万里江は何か言いたそうだったが、朋子が睨みを利かせているので、結局話をさせることは無理だった。
あまりあからさまに芽久のことに興味を持って、彼女達に余計な疑念を抱かせる訳にはいかない。時間をかけて、お互いに信頼関係を築いてから聞き出すのが一番いいのだろうが、そんなにゆっくりしていることもできない。
愛美がそれを東大寺に言うと、心配はしなくとも催眠術をかけて話をさせることもできると請け合ってくれた。
それが最終手段だということは、愛美も分かっている。できれば自分の口から話して欲しいが、そうもいかないだろう。