表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/201

案件2 Mad Dog 34

「君も同じだ。僕の本性を知ったらみんな怖がるし、気味が悪いと思う。だからその前に殺す。僕は僕の、恩師も殺して食べた」

 愛美まなみは俯いたまま、顔を上げることができなかった。

 こんな男を信じた愛美が愚かだったのだ。幻想を抱き過ぎてしまったことが、今回の事件の本質から愛美を遠ざけていた。

 愛美がもっと客観的に捜査を進めていれば、竹内は死なずに済んだだろう。

「君はもう少し後まで取っておくつもりだったのに」

 長谷部はせべが愛美に手を伸ばしてくる。白衣から出た素手は、人間の指とはかけ離れていた。黒い毛が密生し、長く伸びた爪が悪魔を思わせる。

 愛美の頬に、長谷部の指が触れそうになる。

「いや。来ないで化け物」

 愛美は後退すると東大寺とうだいじの側まで戻り、長谷部から逃れた。長谷部の傷付いた表情に、愛美は気付かなかった。

「ひどい。いい人だと思ってたのに。呪いの為に犬に変わり、その所為で人を襲うなら同情するわ。けれど、自分の意思で人を襲うあなたは化け物以外の何物でもない」

 長谷部は突然身を翻すと、準備室に駆け込み鍵をかけた。

――逃げるつもり。

 愛美が扉に近付こうとすると、東大寺がそれを引き戻した。俺に任せておけということらしい。

 東大寺は準備室の扉の前に立つと、息を軽く吸い込んだ。鋭い横様の蹴りを入れると、扉は吹き飛んだ。それを待っていたかのように、部屋の中から黒い影が飛び出してくる。

 驚いて尻持ちをついた東大寺は、学ランの肩から滲み出した血を手で押さえた。

(マッドドッグ……)

 黒い、大型犬よりも更に大きな犬。実物を見るまでは、愛美も信じられなかったが、本当に長谷部がマッドドッグだったのだ。

 式神とも山犬神とも違う、それは愛美の知識を越えた、ただそこにあるというだけの存在だった。

 愛美を見る犬の目は、人間の時の長谷部と同じで、底なし沼のように暗い目をしている。愛美の右手に力が集中すると〈明星あけぼし〉が現れた。

 St.ガーディアンズ。闇を狩る者。

 愛美は犬と対峙する。大きな口でひと噛みされれば、愛美の首は切れてしまうだろう。

 マッドドッグが床を蹴った。

 小刀の刃と犬の犬歯がぶつかって、反動で愛美の指から〈明星〉は弾き飛ばされた。愛美は床に倒れ、その上に犬が覆いかぶさってくる。

 首筋に硬質な牙の冷たい感触を覚え、愛美は死を覚悟した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ