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案件2 Mad Dog 31

「あたしもよく知らないんだけど、なんかH・Gなんとかとかいう人が書いた本に、モロー博士の島っていうのがあるらしい。動物を人間に変えたり、反対もあったのかな? マッドサイエンティストの話なんだって」

 映画だと『ドクター・モローの島』だ。原作者は確か『宇宙戦争』を書いた、H・Gウェルズだ。

 東大寺とうだいじだって本ぐらい読む。コナン・ドイルのホームズシリーズやモーリス・ルブランのルパン。他にもチャペックやジュール・ベルヌといったSFや冒険ものは小学校の頃、人から受けた影響でよく読んでいた。

「生物の時間に、剥製の狼の標本を見てしみじみと『こいつも昔は人間だったんだろうか』って言うのよ。かなりの変人よね。暗いしさ」

 犯人は長谷部はせべなのか。長谷部が犯人なのか。愛美まなみが危ない。

 東大寺は二人に簡単に礼を言うと、いつの間にか三人だけになっていた教室から走り出た。

「行っちゃった。名前聞き逃した。あーあ勿体無い。二年生かな」

 葉子が溜め息を吐くと、親友の佳絵かえが呆れたように肩を竦めた。

 テスト勉強も今日までで終わりだ。葉子は重い腰を上げる。

  *

 長谷部は愛美の座っていた実験机に、コーヒーのカップを置いた。愛美は頭を下げて礼を言う。

 ブレンドコーヒーのいい匂いが漂っている。愛美の心のうちを見透かしたように、長谷部が言った。

「今日のは苦くないから」

 長谷部はカップを両手で包み込んで、机の端に腰掛けている。長谷部は愛美の顔を見ようとせず、愛美も長谷部の顔が見られなかった。照れ臭いのは二人とも同じだ。

 長谷部は少しの間愛美に抱きついて泣いていたが、ハッと身体を離すとごめんと一言残して準備室に引きこもってしまった。

 今度現れた時には涙したことなど微塵も忘れたように、コーヒーカップを二つ持っていた。

「僕の恩師のような教師になりたかった。誰かが自分のことを気に掛けてくれるのは、とても心の支えになるから」

 長谷部の不器用さに、愛美は好感を持った。

「先生の優しさは、私には伝わってます。きっと竹内君も先生が心の支えになってたと思う。分かる人には、ちゃんと分かる筈」

 長谷部はコーヒーのカップを机に置くと、愛美の髪に手を伸ばした。

「今の僕の心の支えは……」

 急に、生物室の扉が乱暴に開かれた。息を弾ませて立っていたのは、東大寺だ。

 長谷部は愛美に手を伸ばし掛けたまま、黙って突然の闖入者を見守っている。

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