案件2 Mad Dog 24
何もかも見透かすような少女の目に、萩原はたじたじとなる。
「私は卑弥呼の生まれ変わりよ」
少女の目は冗談を言っているような目ではない。萩原は思わずゴクリと喉を鳴らした。
少女は不意に微笑を浮かべると、止める間もなく身を翻した。
「……なんてね。バイバイ、オカルト好きなおじさん」
少女は裏門の前の花壇を一足跳びで跳び越えると、しなやかな身熟しで駆け去っていった。あの関西弁の少年といい今の彼女といい、抜群の運動神経だ。
萩原は車のボンネットに顎を乗せて、口元を押さえてうえっと喉を鳴らした。卑弥呼の生まれ変わりだなんて言われて驚いた萩原は、ガムを飲み込んでしまったのだ。
少女の名前を聞き忘れたことと、今度もまたからかわれたことを知り、萩原は大きな溜め息を吐いた。それが満更でもないのが、困りものなのだ。
愛美は体育館の表に回ると、せわしなく体育教官室の扉を叩いた。扉が開いて、女子の体育の久保教諭が顔を覗かせた。
部屋の中に目を走らせ、こちらを向いた体育教師の中に石塚の顔がないのを確かめる。
「すみません。石塚先生は?」
久保は振り返って他の教諭を見回したが、誰も行き先は知らないらしい。
「さあ、だいぶ前に生徒に呼ばれて出ていったきりよ」
呼び出した生徒は、まず間違いなく竹内だろう。まだ戻ってきてないのは、どういうことだろう。
愛美は今度は職員室に向かった。三年生のテストが終わったらしく、連れだって帰っていくのに出会う。
鷹宮高校は進学と就職が半々で、十二月にして進路が決まっている者もおり、受験生独特の暗さはあまり感じられない。
愛美は職員室の戸を叩いて、教員を呼び出す。試験中は職員室の生徒の入室が禁じられるので世話がかかる。
石塚先生をお願いしますと頼んだ愛美の前で、暫く待つようにと扉は閉められた。愛美は苛立ちを覚えて眉間に皴を寄せた。
これで何事もなく石塚が現れたら、何と言い訳すればいいのだろう。竹内と同じようにプリントを失くしたと言おうか。
不意に、補講室の方が騒然となった。悲鳴が聞こえ、廊下に数人の女子が駆け出してくるのが見えた。廊下にいた他の生徒が中を覗き込んで、騒ぎは更に大きくなった。
何があったのかと、職員室からも職員が出てくる。
(まさか学校で起こる訳ないよね……)
愛美は悪い予感に、足が動かなかった。
帰ろうとしていた生徒達が、騒ぎを目にしてみな野次馬根性を出したらしく、補講室に集まっていく。




