案件2 Mad Dog 21
「今から一ケ月前、緑ケ丘連続失踪事件は幕を閉じた。俺はそれまで調べていたことから事件の真相として一つの仮説を立てた。土地の老人に聞いたところでは、あの学校のある場所には何百年も前から銅鏡が祀られていたそうだ。その中に封じ込められていた荒魂の怒りが、今回の神隠しを招いたとみて間違いない」
驚いた。当たらずとも遠からずといった感じだ。
しかし、まっとうな人間の導き出す答えではないだろう。愛美のように事件に関与していた者ならいざ知らず。
萩原は自分の仮説を立証したいのか、誰かに話したくてたまらなかったのか愛美に熱弁を奮った。
「被害者は誰一人としてまともな証言をしない。裁判沙汰にもならず、警察もそれ以上の捜査はせず、事件は有耶無耶のまま闇の中へ。そして俺の入魂の記事は上司に潰され、おしゃかになったと」
どうやら後者の方だったらしい。
萩原は車のハンドルに顔を押しつけて、溜め息を吐いている。
「君もあの事件に関係してるんだろ。何か俺の知らない事実を知っていて、事件が曲がりなりにも解決したのは君が原因じゃないのか。そして事件が終わって、君は緑ケ丘を立ち去った」
口調は冗談半分だったが、萩原の目は疑念と確信に満ちていた。
最初会った時の萩原の間抜けな印象は、綺麗さっぱりと拭われていた。侮れないと愛美は思う。
「面白い話ですね。私、オカルトには興味ないんです。あの事件は集団幻覚事件として終止符を打ったのよ。それに私は、変な事件の起こった学校が嫌で転校したの」
萩原は、そういうことにしておこうと頷いた。
「Mad Dogについて、君が確信をもって言えることは?」
突然本題に移った。
愛美は一瞬はぐらかそうかとも思ったが、ここは素直に話すことにした。案外面白い話が聞けるかも知れない。
「鷹宮高校の独身寮に住む教職員三名のうちの誰かが、関与しています」
萩原はもっと核心を突いてきた。
――犯人は石塚だ。
疑問を差しはさむ余地などないと言いたげだ。相手が強気に出れば出るほど愛美は慎重になる。
「確信できる理由は何?」
萩原は意味深な笑みを浮かべた。
「君が何者かを教えてくれるのと引き換えになら話す」
取引しようと言う訳だ。愛美の素姓がそんなに気になるのか。
「いいわ。つまらないネタなら許さないから」




